自動車会社が「アウトドアビジネス」に消極的な訳

ランクルやジムニーは人気でも, アウトドアファンが多いスバルはいかに, 「製販分離」というビジネスモデル, アウトドアビジネスへの期待

後述する「NOYAMA」のキャンプ関連パッケージレンタルサービス「e-Outdoor」。「デリカミニ」の事例(筆者撮影)

「クルマのアウトドア」と聞いて、どんなイメージを持つだろうか。

【写真】デリカミニにジムニーノマド…アウトドア・スタイルを体現するクルマたち

例えば「バンライフ」。

古き良きフォルクスワーゲン「Type2(ワーゲンバス)」で車中泊をしながら大自然に触れる生活が、海外メディアで取り上げられることがある。

さらにアメリカでは、高級ブランドが富裕層をターゲットに、バンライフよりもハードなアウトドアライフとして、SUVやピックアップトラックを用いた「オーバーランド」というスタイルを提唱している。

ランクルやジムニーは人気でも, アウトドアファンが多いスバルはいかに, 「製販分離」というビジネスモデル, アウトドアビジネスへの期待

レクサス「GX」でのオーバーランドのイメージ(筆者撮影)

日本では、こうしたトレンドとキャンピングカーが、同じ事業領域として語られることが増えた。

ただし、コアなファン層は着実に増えている一方で、マスマーケットとしては、コロナ禍で大ブレイクしたブームがひと段落した状況にある。

ランクルやジムニーは人気でも

多くの人は、実際にアウトドア・アクティビティに出かけなくても、クルマをアウトドア・ギアとして捉え、ファッション感覚で街乗りすることで十分満足する。

自動車メーカー各社も、こうした市場の変化を踏まえた新車ラインナップの展開、またメーカーオプション・ディーラーオプションでの用品設定を検討している。

最もわかりやすい事例が、トヨタ「ランドクルーザー」シリーズとスズキ「ジムニー」シリーズだ。

ランクルやジムニーは人気でも, アウトドアファンが多いスバルはいかに, 「製販分離」というビジネスモデル, アウトドアビジネスへの期待

急激な受注で一時生産中止となったスズキ「ジムニー ノマド」。量産拡大が見込まれる(筆者撮影)

どちらも、本格的なオフロード走破性を持つ車種ではあるが、多くの場合「オーバーランドっぽさ」を求めた層が街乗りに使う。

オフロード性能を重視した唯一無二のミニバン、三菱「デリカD:5」も同様だ。また、輸入車では、メルセデス・ベンツ「Gクラス」や、ランドローバー「ディフェンダー」などが、それに当たる。

では、自動車メーカーや新車販売会社(ディーラー)は、その人気をうまく活用できているのだろうか。

実際には、「アウトドアという付加価値が、新車販売を後押しする」という、従来型のビジネスモデルにとどまる。

車両を販売・納車したあとまでに踏み込んでマネタイズ(事業化)しているケースは、ほぼない。

そうした状況に風穴を開けようとしているのが、三菱自動車工業(三菱)だ。

アウトドアファンが多いスバルはいかに

三菱本社が主導して、全国各地の販売店を巻き込んだキャンプイベント「スターキャンプ」を軌道に乗せた。

また、博報堂との合弁企業「NOYAMA」を設立し、アウトドア向けのクルマとキャンプギアをまとめてレンタルできる「e-Outdoor」や、アウトドア教室「冒険の学校」など、新発想のサービス事業を次々と立ち上げている。

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NOYAMAが展開する、アウトドア体験「冒険の学校」に関する展示(筆者撮影)

同社関係者によれば、冒険の学校を企業向け研修パッケージ化する計画もあるようだ。こうした三菱の積極的な動きを、ほかのメーカーが後追いする気配はない。

最も後追いしそうなのがSUBARU(スバル)だが、現時点で大きな動きはない。

直近では新型「フォレスター」が、ストロングハイブリッドの採用もあって販売は好調。アウトドアを意識した多様なオプションを用意している。

一方、三菱のスターキャンプのような、スバルが主導するアウトドア関連イベント実施には至っていない。

スバルは2021年「SUBARU 里山スタジオ(千葉県鴨川市)」をオープンしているが、報道陣向け屋外撮影や、開発関係者らが新型車について自由に意見を出し合うブレインストーミングの場として活用するにとどまっている。

また、アウトドア好きなユーザーのミーティングは全国で複数存在するが、いずれもスバル本社主導ではない。

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SUBARUが千葉県鴨川で実施した、メディア向けオートキャンプの様子(筆者撮影)

トヨタ関連ではレクサスが、「レクサス オーバートレイル キャンプ」としてアウトドア体験イベント事業を始めているものの、ブランド価値向上による新車販売効果が主な目的であり、アウトドア事業単独での将来性はまだ見えてこない。

そのほか、ホンダ、日産、マツダ、スズキ、ダイハツも、自社ホームページやSNSで企画を展開したり、メディアが主催する各種イベントに協賛する形で参加したりすることがあるが、本社主導のアウトドア戦略が継続的に展開されているとはいえない状況だ。

ユーザー目線では、自動車メーカー各社は「アウトドアに積極的」という印象を持っているかもしれない。

テレビCMやウェブ広告、そして各種メディアの新車試乗記事などで「クルマ×アウトドア」の切り口で取り上げられることが多いからだ。

だが、現実は「そうでもない」といったところなのだ。

「製販分離」というビジネスモデル

現時点では、自動車メーカーも販売店も、アウトドアを通じて十分に収益を上げるための仕組みを持っていない。「製販分離」という事業構造に、アウトドア関連サービスはうまくハマらないのだ。

製販分離とは、製造サイド(サプライチェーン)と販売サイド(バリューチェーン)がそれぞれ独立していることを指す。

具体的には、自動車メーカーは新型車を企画・設計し、サプライヤーから部品を調達、最終組み立てを行い、そしてディーラーに卸売する。

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自動車メーカーがユーザーに直接、販売することはなく、ディーラーへの卸売のみを行う(筆者撮影)

実際にクルマをユーザーに販売するのはディーラーだ。大手ディーラーの経営者は「メーカーのとってのお客はわれわれだ」と指摘する。

もちろん、ディーラーはユーザーに新車を販売することで収益を得るが、販売後の点検、車検、整備、修理なども収益の柱となる。

要するに、現在のディーラーでは、アウトドアに代表されるようなサービス事業を運営するリソースやノウハウがなく、カスタマーサービスの一環でバーベキューをするといった程度しかできないのだ。

一部のトヨタ販売店などでは、アウトドアサービス事業を自社開発しているが、そうしたケースは極めてまれである。

アウトドアサービス事業はもとより、アウトドア関連の用品についてもディーラーオプションが基本であり、タイヤホイールの変更や車高を上げるリフトアップといったアフターパーツの取り扱いに慎重な姿勢を示すディーラーは、少なくない。

そうしたカスタマイズをするユーザーは、新車販売全体でみれば少数派だ。

ランクルやジムニーは人気でも, アウトドアファンが多いスバルはいかに, 「製販分離」というビジネスモデル, アウトドアビジネスへの期待

アウトドア系アクセサリーを装着した新型「フォレスター」のデモカー(筆者撮影)

アウトドアといってもクルマそのものには手をつけず、ホームセンターなどで購入したアウトドアグッズを搭載してデイキャンプに出かける程度の人が、少なくない。

ここまで見てきたように、ディーラーでアウトドアを主力の収益源にするためには、自動車メーカーとの連携が不可欠なのだが、現時点ではそこまでの状態に達していない。

つまり、自動車メーカーがアウトドアに消極的なのだと考えられる。

アウトドアビジネスへの期待

スターキャンプを軌道に乗せた三菱の動きに自動車メーカー各社は注目しているが、これから先の道のりは決して平坦ではない。

それでも、マツダが国内営業戦略を刷新する中で立ち上げた、ディーラーのバックヤード業務を一括管理する新会社「マツダ ビジネス パートナー」や、トヨタ「AE86」のEVコンバージョンなど旧車のレンタル事業も手掛ける「KINTO」などに、アウトドアビジネスの事業化を期待できる要素はある。

いずれにしても、自動車産業界においてバリューチェーンの変革は、クルマの電動化や知能化が進むうえで避けては通れない。アウトドアビジネスが、その試金石になるのかもしれない。