日本人より年間30日以上多く休んでいるのに…なぜドイツ人の『労働生産性』は約1.5倍なのか?
「『上司に忖度』なんてドイツ人はしません」
OECD統計による’23年の日本の1人当たり労働生産性は、4位のアメリカ、13位のフランス、16位のドイツ、26位の韓国にさえも大きく水をあけられ、34位。何が労働生産性を低下させているのか。
「ドイツでは上司に忖度する必要がない。これが大きいのかなと思います」
こう言うのは、『9割捨てて成果と自由を手に入れる ドイツ人の時間の使い方』の著者で、日銀、教育関連企業を経て、幼少期を含めドイツ在住通算17年の松居温子(まついあつこ)さん。
上司を忖度してしまうのは、評価が気になるから。上司に評価してもらおうと思うと、サービス残業をするかもしれないし、会議でも上司に反対することは言いにくくなる。その結果、会議に出席しても何も発言しなければ、その社員の、その時間の生産性はゼロということになる。

「人間関係と出世はまったく関係がないのです」と松居さん。ドイツでは、昇級は研修と試験で決まる。写真は、ドイツ・フランクフルト近郊のカール湖で
ドイツでは“上司に忖度”は、まったくないという。なぜなら、評価をするのは上司ではないから。
「ドイツでは、たとえばマネジャークラスになりたいと思ったら、研修を受けて、試験を受け、それにパスするとマネジャーとしての資格をもらい、それに応じた給料が支払われます。『専門性+リーダーシップ研修』により、自分自身の評価を上げれば、仕事の内容も責任も変わり、給与も上がるということです。
大手の企業の中には社内に研修制度をもっているところもあるけれど、社外の機関で研修・試験を受ける場合もあり、基本的に人間関係と出世はまったく関係がないのです」
先輩後輩もなく、学閥も関係ない。実力をつければ、昇格できるのだとか。
「だから、パワハラにはなりにくい環境があります。仮に部下が上司からの圧力を感じ相談したい場合には、相談できる仕組みがよくできています。そのためか、ドイツ人はハラスメントの感覚がなく、日本でパワハラやアカハラがあるという話をすると、とても驚かれます」
「この会社に入社したら何を学ばせてくれますか?」……ドイツではあり得ない!
最近は売り手市場が続き、日本では「この会社に入ったら、何を学ばせてくれるのか」と聞く就活生もいると聞く。
「これもドイツでは考えられないこと。ドイツの企業では即戦力がほしい。
だから、大学生は在学中にインターンシップで職務経験を積むことで、『こんな会社でインターンシップを経験した』『こんな技術を持っている』など、実績と経験をアピールして就職が可能になります。在学中に勉強だけしていればいいというわけではないのです」
日本では、新入社員を大事に育てる文化があるが、育つまでは当然生産性は低い。
「また、ドイツには大学に通わなくてもデュアルシステムという教育制度で、それぞれが希望する職種でプロになる仕組みがあり、日本でいう高校を卒業したあと、企業に就職し、研修生として学びながら、並行して学校に学び、それぞれの職種でプロになる仕組みがあります。
ドイツはスペシャリストの集団が会社を支えていると言っても過言ではありません。何らかの専門性をもったうえで、管理職を目指す場合には、そのためのスキルを得てマネジャーの職務を得るといったイメージです」
昨今、日本では少子化による人手不足が話題になっているが、ドイツではそのようなことはないのか。ドイツ連邦統計庁によると’23年6月現在のドイツの人口は約8500万人。日本より少ない。
「少子化の問題はドイツにもあります。そのために海外から優秀な人材を積極的に受け入れる仕組みがあります。さらには、IT化が進んで人が不要になる分野も多い。たとえば製造業だと製品工程はロボットに任せられるので、そのロボットを扱う人は必要だけど、製品を作る人は必要なくなってきています。
不要になるであろう人材は早いうちに解雇します。ドイツでは失業保険は最長2年間給付されますし、再訓練制度などにより失業期間中に、それまでとまったく違った職種で働けるようになるんです」
自動車の製造工場で働いていた人がITエンジニアになるなど、まったく異なる道に方向転換することも珍しくないという。
「また前述したように、ドイツにはデュアルシステムといって、週3~4日会社で働いて、残りの日を職業学校に通って、それぞれの職種でプロになる仕組みもあります。
失業しても、ほかの職業につけるセーフティーネットが用意されているので、解雇されても、それほど深刻にならずにすみます」
2年間の失業保険に、デュアルシステム……ドイツではさまざまな職種のプロになるための教育制度が整っていることから、日本のようにレールを外れたら、路頭に迷ってしまうという危機感がないという。
海外からも積極的に人材を受け入れているというが、
「それでも人手不足だからといって、誰でもいいわけではありません。ドイツ語ができることは必須になります。
ドイツでは優秀なスペシャリストにはドイツに残ってもらいたいので、そのためのシステムがよくできています。それぞれの職種のプロになった人には永住権が与えられます。このような条件で永住権を出す仕組みは、ほかの先進国にはないと思います」
外国人でも特定の職種でプロになった人には永住権が与えられる。勤勉で熱心な外国人にとっては、労働環境がよいドイツで安心して仕事をし、生活していく機会があるのは魅力的だ。
日本人のポテンシャルはドイツ人より高い?
しかし、生産性が低いからといって、日本人の能力が低いわけではないと松居さんは言う。
「むしろ、一人一人のポテンシャルは日本人のほうが高いと思います」
たとえば日本ではファミリーレストランなどで、注文を受けたあとの通りかかった店員に、さらに注文を告げることはふつうだが、
「ドイツだったら、別のテーブルの注文をとった人に、『こちらの注文もついでに』と思って声をかけても、『この注文を通したあとで、そちらの注文を取りに行くから』と待たされます。同時に2つも3つも注文を受けません」
日本人は短時間で仕事をこなしていくスキルが高い。ドイツでは3日も4日もかかる仕事を、日本人はたった1日でこなしてしまうともいう。
では、なぜ生産性が低いのか?
「そのサービスの付加価値に対して、きちんと対価を受け取っていないのではないでしょうか。また、ブランディングに課題があるとも言えます。
たとえばドイツではサービスは無料ではありません。急ぎの仕事の場合、価格が上がります。チップ制度もあります。すべてのサービスは有料という考えなのです。
ブランディングの観点からいえば、ドイツ最高峰の資格保持者マイスターの刻印を押されたベンツのAMGなどの自動車は、とても高く売れる。日本車は故障しないし、メンテナンス対応も非常に親切で安心できるのに、その価値が対価として価格に反映されていないのではないでしょうか」
価値をきちんと表現して価格に反映できていない、ブランディングが弱いという点に、生産性の低さの原因があるのではないかと松居さんは言う。
「おもてなしも、日本人のとてもすぐれているところだと思います。今やヨーロッパの人の中には『日本に行けば、無料でなんでもやってくれる』と思っている人もいるくらい。
日本人の善意や良心で行っているサービスは価値としては評価されているものの価格には反映されていないような気がします。
日本もサービスに対して対価をいただいてもいいのではないでしょうか。サービスは無料という考えでは生産性は上がりません。サービスは大きな価値です。人が人のために工夫したり、施したりすることで、しっかり時間も費やします。立派にコストとして計算されるべきだと思います」
もしかしたら、日本人は日本人の価値に気がついていないのかもしれない。海外に行けば、日本人のサービスはやっぱりすごいと感じることも多い。これらの点を価値として、しっかりマネタイズしていくことが大事なようだ。

ドイツの国家資格「ゲゼレ・マイスター制度(デュアルシステム)」を活用し、日本人が“好きな仕事でプロになる”ための留学・就職支援を行っている松居温子さん
▼松居温子 父親の転勤に伴い8歳から13歳までの6年間をドイツの現地校に通う。慶應義塾大学法学部法律学科を卒業後、日本銀行に就職。日本人の若者は目指したい道(各種の職人、スペシャリスト)があってもその目的に向かって歩む道が非常に少ない、将来に希望が持てないという相談を数多く受けたことをきっかけに、ドイツのマイスター制度にそのソリューションを見出し、高野哲雄と共同で株式会社ダヴィンチインターナショナルを設立、現在に至る。

時間が足りない日本人のために、ドイツ流の“幸福を追求する時間術”を紹介した松居さんの近著『9割捨てて成果と自由を手に入れる ドイツ人の時間の使い方』(SBクリエイティブ)
取材・文:中川いづみ