東京地下鉄(東京メトロ)【9023】株価が軟調、初値を割り込む 上場後の値上がりが霧散した理由と今後の行方は?

決算公表で急落 株価は初値まで値下がり, 民営化で誕生、政府と東京都が大株主 都心で利益率に強み, 上場前はコロナで苦戦 戻り鈍いが回復続く、今期も増収を計画, なぜ株価は下落? 投資家が中期経営計画で抱いた懸念と好材料とは

東京地下鉄(東京メトロ)【9023】株価が軟調、初値を割り込む 上場後の値上がりが霧散した理由と今後の行方は?

決算公表で急落 株価は初値まで値下がり

東京地下鉄は2024年10月に上場しました。公開価格1200円に対し初値1630円で東証デビューを果たします。トランプ関税ショックもほぼ無風で通過し、上場から半年後の25年4月には2125円の高値をつけました。

しかし、直後に潮目が変わります。同月に25年3月期の決算が公表されると、株価は翌営業日に7.7%安と急落しました。その後も軟調な展開が続き、足元では初値の1630円を割り込んで取引されています。今期(26年3月期)の見通しや同時に発表された中期経営計画が投資家の失望を誘ったようです。

【東京地下鉄の株価チャート(上場来)】

・株価:1611.5円(2025年7月15日終値)

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出所:Tradingview

決算では配当金の見通しも公表されました。今期は前期比2円増配となる1株あたり42円を計画しており、予想配当利回りは2.61%となります。NISAで投資する場合、成長投資枠で1400株まで購入でき、配当金は総額5万8800円を受け取れる計算です。本来は約1万1760円の税金が生じますが、NISAなら非課税です。

【東京地下鉄の予想配当利回り(2026年3月期)】

・予想配当金:42円

・予想配当利回り:2.61%

出所:東京地下鉄 決算短信

なぜ東京地下鉄は株価が下落したのでしょうか。きっかけとみられる中期経営計画の中身を確認してみましょう。

民営化で誕生、政府と東京都が大株主 都心で利益率に強み

まずは企業の概要を解説します。

東京地下鉄は2004年に設立されました。民間企業が1920年に地下鉄の整備に着手し、1941年に発足した帝都高速度交通営団が事業を引き継ぎます。その後、民営化に伴い誕生したのが東京地下鉄です。この経緯から、株式の50%は政府と東京都が保有します。上場前は政府が株式の過半を保有していましたが、上場時の売り出しで26.71%まで減少しました。とはいえ、現在も政府が筆頭株主です。

主力は鉄道事業です。東京都心を中心とした地下鉄ネットワークを手掛けます。人口が集中するエリアで営業していることから、営業利益率は鉄道会社でも高水準です。売り上げはJR系3社(東海、東日本、西日本)を大きく下回りますが、利益率はJR東海に次ぐ水準です。

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出所:各社の決算短信より著者作成

鉄道以外は不動産業や流通業および広告業が収益源です。不動産は主に「渋谷マークシティ」や「渋谷ヒカリエ」といったオフィスビルの賃貸や、ホテルの運営を手掛けます。

流通業は「エチカ」や「メトロ・エム」などの商業施設の運営、広告業は駅構内や車両内における広告を取り扱っています。また、路線を活用した光ファイバーの賃貸も手掛けます。

【セグメント情報(2025年3月期)】

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※旧セグメント「流通・広告事業」はライフ・ビジネスサービスへ変更

出所:東京地下鉄 有価証券報告書および決算説明会資料

上場前はコロナで苦戦 戻り鈍いが回復続く、今期も増収を計画

続いて業績を解説します。上場前も含めて推移を確認しましょう。

東京地下鉄は、多くの鉄道会社と同様にコロナ禍は苦戦しました。輸送人員が回復に向かったことから、23年3月期以降は黒字となっています。ただし、旅客収入はコロナ前を取り戻すには至っていません。25年1月~3月はコロナ前比95.9%にとどまります。定期外は同105.5%と堅調な一方、定期が同82.7%と戻りが鈍い状況です。

直近の25年3月期は増収増益でした。運輸業が都心部を中心に好調で、全体の増収の大半を旅客収入が占めました。不動産セグメントは、東急プラザ原宿「ハラカド」の開業などから増収となった一方、物件の取得費や開業費の増加などから減益で終わっています。

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出所:東京地下鉄 決算説明会資料より著者作成

次に今期(26年3月期)の見通しです。連結では増収増益の計画で、引き続き運輸業がけん引となる想定です。人件費や撤去費および電気料といった経費の増加を、旅客収入の伸びでカバーします。なお、不動産は物件売却に伴う賃貸収入減から減益、ライフ・ビジネスサービスは人件費の増加および店舗リニューアルの影響から減益の想定です。

【東京地下鉄の業績予想(2026年3月期)】

・営業収益:4206億円(+3.1%)

・営業利益:887億円(+2.0%)

・純利益:582億円(+8.3%)

※()は前期比

※2025年3月期時点における同社の予想

出所:東京地下鉄 決算短信

なぜ株価は下落? 投資家が中期経営計画で抱いた懸念と好材料とは

では、株価が下落した理由を探ってみましょう。東京地下鉄は25年4月、上場して初の中期経営計画を公表しました。しかし、冒頭のとおり公表後の株価は軟調です。なぜ投資家は売りで反応したのでしょうか。

中期経営計画の主な財務目標は次のとおりです。営業利益は年率2.3%増、EBITDA(利払い前、税引前、償却前利益)は年率3.1%増を目指します。一方、ROE(自己資本利益率)および純有利子負債/EBITDA倍率は大きく変わらない想定です。効率性や健全性を維持しつつ、利益成長を目指す考えがうかがえます。

【中期経営計画の主な財務目標(~2028年3月期)】

決算公表で急落 株価は初値まで値下がり, 民営化で誕生、政府と東京都が大株主 都心で利益率に強み, 上場前はコロナで苦戦 戻り鈍いが回復続く、今期も増収を計画, なぜ株価は下落? 投資家が中期経営計画で抱いた懸念と好材料とは

※ROE…自己資本利益率(東京地下鉄は純資産ベースで算出)

※EBITDA…利払い前、税引き前、償却前利益(営業利益+減価償却費)

※純有利子負債…債務残高-現金および現金同等物

出所:東京地下鉄 決算説明会資料

この目標から、株価が下落した理由として2つ考えられます。

1つは利益成長の鈍化です。25年3月期の営業利益は前期比13.9%増と好調でした。しかし、発表された中期経営計画では平均2%台の成長にとどまる見通しです。また、利益の成長率は旅客収入の増加率(同3.3%増)を下回ることから、利益率の悪化も懸念されます。主力の運輸業で設備の償却費や人件費が増加すること、さらに不動産でも物件の撤去費用などを計上することから、利益の成長はペースが落ちる想定です。

もう1つは、ROEの目標です。営業利益が増加する一方で、ROEは0.1ポイントの低下を見込み、目安とされる8.0%も下回ります。会社は「資本効率を維持する」というメッセージで目標を設定したようですが、投資家は「資本効率は改善しない」と受け取った可能性があります。

とはいえ、中期経営計画の全てが失望されたわけではないでしょう。例えば、資本効率で考えると、純有利子負債/EBITDA倍率の目標は好材料です。

計画の期間中は、EBITDAは151億円の増加、さらにキャッシュフローは改善を想定します。これらから、純有利子負債/EBITDA倍率は低下しやすい環境です。仮に25年3月末の純有利子負債1兆130億円を目標EBITDA 1740億円で割ると、その倍率は約5.8倍となります。債務の消化やキャッシュフローの改善を踏まえれば、さらに低下する可能性もあります。

しかし、目標では0.1ポイント低下の6.3倍を想定します。このことから、負債による資金調達を想定していることが読み取れます。説明会でも「必要に応じて借入を活用した成長投資も考えていきたい」と言及しています。

負債による資金調達は資本の希薄化を招きません。借り入れを原資に利益を増加させれば、資本効率は改善することが期待できます。今後は利益成長につながる投資や、その調達方法に注目が集まりそうです。

文/若山卓也(わかやまFPサービス)

若山 卓也/金融ライター/証券外務員1種

証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。