年収600万、クルマは800万円! 「オプションもりもりおじさん」は幸せなのか? 愛と消費の境界線を読み解く

オプション過多の自動車市場

 2020年代以降、SNSではオプションが多く付いた「オプションもりもり」の車の写真が増えた。これらの車は「自己満足」「無駄遣い」などと批判されることもあれば、「こだわりの理想の車」と称賛されることもある。

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 この現象の背景には何があるのか。消費者は幸せなのか、それとも制度や市場の問題によって不利益を受けているのか。好みの問題だけでなく、制度の設計や供給の仕組み、消費者の心理、そして社会の変化のなかで考える必要がある。「オプションもりもりおじさん」は幸せなのか、はたまた不幸せなのか――。

 さて、国内の大手自動車メーカーのあるミドルサイズのセダン、ベースモデルの価格を約500万円としよう。しかし、すべてのメーカーオプションと販売店のオプションを付けると、乗り出し価格は750万円を超えるだろう。これは単に「好きな仕様を選んだ」というだけではない。メーカーは意図的に装備を分けて販売し、基本価格を抑えながらオプションで利益を得る戦略をとっている。

 つまり、「フル装備」を求める消費者は、実際には上位モデルと同じくらいの支払いを強いられている。選択肢があるように見えて、

「実は選ばざるを得ない仕組み」

になっているのだ。これは一部の輸入車が「標準装備を充実させる」方向に戻っているのに対し、日本車がまだオプションによる利益確保に依存している証拠でもある。

促される装備と消費者のゆがみ

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自動車(画像:写真AC)

 オプション装着を促す制度的な理由が存在する。最大の要因は残価設定ローン、通称「残クレ」である。この仕組みでは、3年後の車の下取り価格(残価)を高く設定できる仕様が優遇される。たとえば全方位モニターや先進安全装備がついた車は、下取り時の価値が高くなるため、月々の支払い額を低くできる。

 また、自動車取得税の軽減やエコカー減税など、国の税制優遇も高機能グレードに有利に作られている。これが

「オプションをつけた方が得」

という錯覚を生み、市場では標準仕様車の競争力が落ちる歪んだ状況を加速させている。

 さらに、販売店の営業インセンティブもオプション推奨に拍車をかけている。多くの店では、オプションの販売額に応じて報酬が変わる。そのため購入者は

「この装備は皆つけています」

「リセール価格に影響します」

と繰り返し説明される。そこに本当の意味での合理的な選択はほとんどない。

 では、自分の理想の車を手に入れたという満足感は本物だろうか。心理的にはそうかもしれないが、経済的に見るとそうとはいい難い。

 例えば年収600万円の人が700万円の車を買い、さらにオプションに80万円を加えることは珍しくない。実質的に3~5年分の自由に使えるお金を車に費やしている。しかも多くは必要ではなく、勧められた装備である。これは自由な選択ではなく「誘導された支出」といえる。

 こうした状況が続けば、家計全体にゆがみが生じる。本来なら

・教育

・住宅

・健康

に使うべきお金が、将来の査定価格と今の所有欲に吸い取られる。消費者は自分で決めているつもりでも、実際には供給側の利益構造に組み込まれている。この現象が今の日本の車の市場に広がっている。

透明化で進むオプション改革

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自動車(画像:写真AC)

 一方で、この構造に抗う成功例もある。あるメーカーはオプションをほぼなくし、グレードごとに装備をまとめて設定した。顧客は装備内容と価格がはっきりしているため、選択に迷わず満足できる。さらに、OTA(無線によるソフト更新)を使い、購入後でも機能を追加できる柔軟な仕組みを提供している。

 また、新型の電気自動車(EV)で、ナビやセンサーなど安全装備をすべて標準にしたメーカーもある。過剰な選択肢をなくすことで逆に顧客の満足度を高めた。このやり方は「選ばせないことで安心感を与える」という逆転の発想である。

 問題は「オプションを自由に選べる」という形が見せかけであり、実際は制度や営業戦略によって消費者が選ばされていることである。これを直すにはいくつかの現実的な対策がある。

 まず、オプションの価格を透明にし、一元的に管理することが必要だ。メーカーは各オプションの実際のコストと利益率を公開する責任がある。これにより消費者はより正しい判断ができるようになる。

 次に、標準装備の基準を見直し、ある程度の安全や快適装備はすべて標準にして、そこから追加されるものだけをカスタムと明確にする考え方が求められている。

 さらに、ファイナンスの仕組みも改める必要がある。残価設定ローンの評価基準を装備の多さに過剰に依存させず、走行距離や整備履歴など実際の使用状況に基づいた指標へと移行させるべきだ。

 最後に、購入後のアップグレードを広げることも重要である。物理的な装備を増やすのではなく、ソフトウェアで機能を拡張したり、サブスクリプションサービスを導入したりすることで、購入時の費用を抑えながら満足度を高める方法が期待されている。

選択と安心の両立市場

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自動車(画像:写真AC)

「オプションもりもりおじさん」は、ネットの笑い話ではない。彼らは制度や市場のはざまで幸せな消費を求めている。

 その結果、過剰な支出に追い込まれる構造的な被害者でもある。一方で、自動車という製品に強い愛着を持ち、

「自分の選択に誇りを感じる主体的な利用者」

でもある。これはこれで美しい存在だ。自動車愛は美しい。このふたつの面を理解し、

・選べる自由

・選ばない安心

が両立する市場の仕組みが、次の時代のモビリティ経済に求められている。

 メーカーは、ユーザーが必要なものだけを納得して選べる環境を作る責任がある。こうした構造の変革のなかでこそ、本当の満足と幸福が訪れるのではないか。