大パラダイム変化のアパレル 変化する「直貿」の意味と戦略
私は前回、日本の10年後を見据え今すぐ実行に移さねば、日本のアパレル産業は恐ろしいほどの打撃を受けると論じた。その最大の要因は、少子高齢化と古い産業の温存である。あれだけ騒いでいたAIも、いくつかのスタートアップ企業は出たものの、われわれに寄り添っている生成AIと呼ばれる技術は、結果的にGoogle、Microsoft、 Open AIと米国の3社になっている。ポータブルPDAは米国製スマホ、家電製品は韓国Samsungに世界を席巻され、日本の生命線である自動車産業は、なんとかトランプ関税を15%に食い止めたようだ。これは、一時的なものだが驚きだった。

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しかし、猛スピードで追いかけているアジアのカーインダストリーも、結局「いつか来た道」を辿っているようだ。政治は「借金をして分配する」やり方でお忙しそうだし、「どうやって稼ぐのか」という根本的かつ、最も本質的議論をまともにしているようには見えない。成長が止まった先進国は「自国ファースト」を掲げ右翼化し、アジアの成長企業はどんどん近づいてきている。
私は、これからの経営アジェンダは、「M&A」「デジタル」「東南アジア」と考え、この3つをリ・スキリングしている。とくに、中国やベトナム、インドネシアの三国は集中的にウォッチしているつもりだ。これら専門家とチームを組み、「現物、現実、現場」を体感している実務家を仲間にして、多くの議論や調査を続けている。そのうえで、極論かもしれないが、日本はもはやマーケットとして成立しない日が来るだろうと予言した。
アパレル産業を取り巻く経営環境の変化も著しい。新型コロナウィルスのように、初期は風邪との違いさえハッキリしないウィルスが瞬く間に日本に広がった。夏は不可逆的に温暖化し続け、まだ7月だというのに、40℃という人間の体温より暑い国となり、昔のように「四季」をシーズンという概念で分けられなくなった。国民は高齢化し、財務三表も読めないまま「楽して稼ぐ投資」に興じ、その手の詐欺も増えてきた。
昔であればこうしたばらついた点をつなぎ合わせ、線のようにしてストーリーを組み立てていたところが、中長期的ヴィジョンもないまま、専門家の知識よりも今日、せいぜい1週間後のレベルでものごとを考えるようになり、課題の本質が変わっているのに処方せんはまったく変わっていない。「お腹が痛い」と言われた患者に問診も十分せず、便秘薬を渡すような対処療法の改善(改革ではない)のパッチワークでその場をしのぎ、本質的な議論はないがしろにされたままになっているように見える。
私は経済学者でもシンクタンク勤めでもなく、流通・小売業のコンサルティングという仕事を生業としている人間だ。しかし、多くの伝統的改善プランを盲目的に信じ、億単位のお金をドブに捨てるという産業界を俯瞰して見ると、その原因は必ず内側の改善で解決できるものでなく、経営環境を正しく分析し、どうすれば本質に近づけるかというところから考えるようになった。
人に納得してもらうためにはWhy–What–How 、「なぜそうなるのか、何をすればよいのか、その方法は何か」を考える必要がある。この基本的な物事の考え方をもとに、読者の皆さまと一緒に、アパレル産業の課題の要因と解決仮説を組み立てて、連載を始めたわけだ。先週はMDについて持論を展開したが、本日は「商社外し」の「直貿」に対する誤解と解決策について考えてみたい。

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今後、流通は益々短縮化されD2Cとなる
まずは、論理的に考えてみよう。この超円安の時代において、さらなる「原価低減」を唱えている企業が多いが、バングラデシュの次はアフリカにでも行くつもりなのだろうか。もはや、財閥系3商社は「繊維撤退」の姿勢であるし、神戸の名門企業であるワールドは投資会社になってしまった。
アパレルの企画段階の調達原価率は25~30%ぐらいで、メーカー出自のSPAアパレルは原材料調達からキャッシュアウトが発生し、リードタイムを計測している。一方、売場から拡張していったSPA型アパレル小売は、ものづくりを外注化し、原材料を工場に購買させている。巨大企業であるファーストリテイリングさえ、自家工場をほとんどもっていない。つまり、同じSPAといっても、メーカー発想のアパレルと店頭発想のアパレル小売は、そもそも比較にならない。それにも関わらず、そのあたりの事情を知らないまま、在庫回転率を考えている。結果、ゼロベースで物事を考えられなくなっており、同じミスを幾度も繰り返している企業もある。
それでは、パラダイムの転換とは何か?それは、原価でなく自社の販管費こそ最適化させるということである。
最近はどこのアパレルも「直貿」がデフォルトになっているが、その効果は計算すれば微々たるものであることがすぐわかる。たとえば、3000円で仕入れて1万円で売る場合を考えてみたい。商社のマージンは10%程度だから、原価3000円だとLDP (Landed Duty Paid: 海外から日本の倉庫に入るまでの原価経費)は300円程度となる(細かい話をすれば、CIF〈Cost Insurance and Freight=運賃保険料込み条件〉の10%程度)。
つまり、商社をいじめ抜き、工場の国籍を替えるほどの力業をもってしても、低減できるのは上代価格1万円のうちの300円、0.3%しかない。もはや原価低減も限界に来ているとみるべきで、着目すべきは販管費のトップ3、「地代家賃」「人件費」「システム償却費」の3つなのである。さらに言えば、日本企業のPL原価率は45%〜50%ぐらいであり、営業利益を10%増やそうと思えば、在庫ロスの圧縮、利益貢献していない店舗の閉鎖(ただ、貢献利益を超えていて、営業利益がマイナス店舗の場合、固定費のブレークイーブンを下げることもあるため、営業利益ベースで店舗撤退を決めると、道連れで赤字化する中型、小型店舗もあるので注意が必要だ)、デジタルによる生産性の向上をするためには、新規事業や海外進出などをして余剰人員をオフバランスする必要がある。
さらに、デジタルも今はSaaS(Software as a service:簡単に言えば、サブスクのようなもの)に替えて、まったく使わない機能をオーバースペックのように身にまとっている企業もある。この結果、業績が悪い日本企業の売上高販管費比率は50%前後まで高止まっているが、世界標準は40%台。ファーストリテイリングなどは(今はトランプ関税を考慮しているが)もともとは驚異の30%台となっていた。
また、ユニクロなどに導入されているデジタルは、一般アパレル企業の参考にならないことが多い。私は、ある基幹システムベンダーによばれ、「ビジネス的にこれでよいか」と尋ねられたことがあるが、その基幹システムは典型的なトップダウン型のもので、極めて高いストレッチ目標を上層部の鶴の一声で店頭ごとの「売る力」に変化をつけて、店舗に売り切る努力をさせるというものだった。
こんなものを日本の多くのアパレルが採用したらどうなるか。
多くのアパレルはQR対応といって、店頭起点で初期投入を抑え(全投入量の30%〜50%)、残りの70~50%は初期投入とわけて、売れ筋を追加するという手法を採用している。さらに、あるデジタルベンダーは店舗を横展(売れ残った商品を売れている店舗に横流しすること)を頻繁に起こし、全体最適を唄っている。
このように、同じアパレル、あるいはアパレル小売のSPAは、ビジネスモデルも、在庫に対する考えがまったく異なるのである。販管費の上位に地代家賃が存在する企業は、キャッシュを生み出さない店を温存している。地方から人口減少が拡大している日本に、まだ店舗を出して細かく顧客さえ分析すれば売上が上がると信じ、昔と同じことをしているようだ。
欠品と過剰在庫を最小化するというベンダーには要注意
そもそも世界のスタンダードは、追加を追いかける「作り増し型」(主要KPIは欠品率)ではなく、欠品がでれば、新商品でカバーするという客単価を主要KPIにし、欠品率を追いかけていない。私もスクロールという通販企業で実践してみたところ、大成功で過剰在庫が恐ろしく改善した。
アパレル小売は「絶対に在庫を持たない企業」が勝ち組となっている。賢い小売は、自社のセンターストックに納品はさせるも、ベンダーには預託にし、「うちの在庫じゃないから、保管料金を出せ」と、在庫リスクを持たないまま、倉庫在庫の保管料金まで請求しているぐらいだ。従って、キャッシュ・コンバージョンサイクル(仕入れてから店頭に出して換金化されるまでの期間)が、なんとマイナスとなり(当たり前である。売れた瞬間に、倉庫にあるベンダーの在庫の売上と仕入を同時に上げ、現金化期間の差分で超高速回転をしているのだ)、キャッシュがたっぷりと貯まっている。
さらに、これは最初に宣伝していた私の責任もあるのだが、PLM(Product Lifecycle Management:製品の開発・設計・製造といったライフサイクル全体の情報をITで一元管理し、収益を最大化していく手法)というのは、所詮ツールであって、物理的な商品リードタイムがそこで自動化された業務を達成するためには、物理的なリードタイムが半年とか1年前などという緩さでは管理以外のなんのメリットもない。

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悪いことばかりではない円安
実はトランプ関税は悪いことばかりではなく、アジア(とくに中国からの)米国向け輸出が減少する中、工場の稼働率が落ち、頼みのSheinやTemuもさまざまな文句を世界から浴びており、上場も見えなくなってきた。また、円の信用が下がる中、現在起きている円安は日本からの輸出にかけられた15%を相殺してあまるもので、実際、輸出企業の自動車のマツダは発表後の株価がストップ高になるまで上昇した。
本来、円安というのは日本にとって悪いことばかりではない。もともと日本が「Japan as No.1」と言われてきたのは、朝鮮戦争でひき上がった軍需景気に加え、さまざまなものを世界中に売りまくり、GDPを押し上げてきたからだ。たとえば、ユニクロは株価が一時的に下がったものの、同社は海外事業が日本事業を抜かし、また、世界中にアセット(資産)を持っている。よく考えれば、これらの資産が円安によって高値に評価され、大きな利益計上となっている。日本市場に絞って値引きの消耗戦に陥っている「ドメスティック企業」は、調達価格が円安で高くなり、キャッシュショートに陥っている企業も多い。従って、ファーストリテイリングは最高益を更新し、ZARA、H&Mなどは苦戦しているわけだ。
変わる「直貿」の意味
ここで、本日のテーマである「直貿」について語れば、もはや原価を絞っても、消費者に対して多すぎるアパレル製品投入量を改善することで、原価以上に自社の販管費に目をつける、目的のあいまいなデジタル化、赤字店舗の閉鎖とECの拡大に加え、追加生産を素材集めからはじめるやり方を改め、
きちんとABC 分析を行えば、売れ筋商品は、ほとんどが定番素材であることがわかるはずだ。だから、デザイナーのワガママを鵜呑みにせず、「先入れ、先出し」のルールを徹底し、残った素材から新しい素材を仕入れるというオペレーションに変える必要がある。
さらに、デザイナーに言われるがままに、仕入先を恐ろしいほど増やすといった悪癖(いままで見たもっとも酷いケースでは、売上高100億円程度の企業が500社も使って調達していた)は辞め、2年前、3年前の素材であっても、たとえば黒、ネイビーなどのスーツ生地であれば数年掛けて使うというFIRST IN FIRST OUTを徹底し、本当にキャッシュになる製品を中心に工場を絞り込み、工場ごとに特色をつけ、製品特性にあわせ、多くても10社程度に減らすことだ。
自社に内在化する「ムリ」「ムダ」「ムチャ」の3Mを、「100-1」 (続けるか辞めるかという極論)の議論をせず、MD戦略目的によってセグメントして統廃合してゆくバランスの問題と考え、1社の工場のシェアをできるだけ高める(理想はシェア80%、まずは50%の製品ラインを埋める)調達戦略をとることだ。
最後に、私の商社マン時代の話をしよう。当時は、アパレルの人を工場に連れて行っても、見向きもされず、工場は完全に商社の言いなりだった。なぜかといえば、実際に工場にお金を払うのは商社だから、工場にとってのお客様は商社だったのだ。私はそんな話を中国人とするたびに、「本当はアパレルさんが買ってくれるのに、なぜ商社マンばかり優遇されるのだろう」と感じていた。
このように、原価低減の限界まできている工場との関係を「われわれこそが、ファイナルバイヤーだ」ということを知らしめ、LTと柔軟性のイニシアティブをこちらが握り、デジタル化ツールと併せて直貿化をしてゆくのが、新しい調達戦略なのである。
幸いに、トランプ関税のため、アジアの工場の稼働率は落ちており、距離の近さからか、日本が注目されている。「一見さんお断り」「つくってもいいけど納期は1年後ね」などと言われ、結局商社との腐れ縁を切れなかったアパレル企業は、マッチに火をともす程度の原価低減に期待するのではなく、このピンチをチャンスに生かし、デジタルツールが威力を発揮できるよう、まずは、「自社こそがものづくりの主役である」という意見をしっかりとアジアの工場に知らしめる必要がある。これが、直貿の戦略的意味合いとなり、工場の柔軟性とデジタル化の原価償却費や在庫ロスをミニマイズ(最小化)させる新戦略だ。
繰り返し言おう、これからのアパレル企業、アパレル小売に必要なアジェンダは、「M&A」「デジタル」「オフショア(東南アジアへの販売)」の3つである