スマホ新法でiPhoneユーザーが憂慮すべきこと

スマホ新法の中身と趣旨, EUのDMAで起きていること, EUで使えないiPhoneの機能も, 日本でも同様のことが起きうるが…

2021年のWWDCでアプリエコシステムについて話すティム・クックCEO(写真:アップル)

みなさんはiPhoneでアプリをダウンロードするときに、当たり前のようにアップルが用意するApp Storeを利用し、またアプリを購入、アプリ内課金、もしくはサブスクリプションに加入するときも、アップルが用意した課金システムを使っている。

【写真で見る】アップルは毎年の開発者会議で、OSやアプリ開発の最新機能を発表し、アプリの高度化に投資していることをアピールしている

この「あたりまえ」が変わるかもしれない。日本で新たに、2025年12月に施行されるスマホソフトウェア競争促進法、いわゆる「スマホ新法」の影響と、同様のルールが先行して施行されたEUで何が起きているのか、見ていこう。

スマホ新法の中身と趣旨

公正取引委員会は3月31日に、スマホ新法の対象企業として、米グーグル、米アップル、そしてアップルの子会社の日本法人「iTunes株式会社」の3社を選定した。

iTunes株式会社は、日本で音楽ダウンロードサービス「iTunes Music Store」が開始された際に設立された子会社で、現在もApp StoreやApple Musicといったサービスを日本で運営している。

スマホ新法の対象企業に指定されると、他社の参入阻害や自社サービスの優遇が禁止され、競争環境を保つ義務を負う。なお選定条件は、日本国内で月間4000万人の利用者を持つ企業とされている。

年に1度の報告も義務付けられ、違反している場合は国内売上高の20%を課徴金として徴収され、繰り返せば課徴金は30%に上昇する。

スマホ新法の趣旨としては、Google Play、App Storeで9割を占めるアプリストア市場に、中小企業を含めた事業者が参入できるようにすることで、寡占状態に風穴を開けることを目的としている。

後述するが、スマホ新法はあくまで、事業者間の競争環境に着目したルールであって、ユーザーの利害や意向は加味されず決められてきた経緯がある。

実際、アップルと違い、グーグルは同社のアプリストア「Google Play」以外のアプリストアの存在を否定していない。にもかかわらず、多くのAndroidユーザーがGoogle Playを利用することを選択している。

実際、これまで外部ストアを許可して来なかったiPhoneにおいても、同様の動きが生まれることになるだろう。

加えて、外部の課金システムの許可、OS機能に対する広範なアクセスも求められるようになる。

OS機能へのアクセスについてはiPhoneの場合、例えばファイルをその場で送受信できるAirDropや、暗号化されたメッセージがやりとりできるメッセージアプリ、アプリからの通知、同じApple IDでログインしている他のデバイスへのアクセス、Wi-Fiのプロファイルなどが該当するとみられる。

スマホ新法の中身と趣旨, EUのDMAで起きていること, EUで使えないiPhoneの機能も, 日本でも同様のことが起きうるが…

アプリストア課金の解放に加え、OSの機能へのアクセス、デバイス連携の開放も求められる(筆者撮影)

EUのDMAで起きていること

今回のスマホ新法は、EUですでに施行されているDMA(Digital Markets Act)のコピーと考えてよい。DMAは2023年5月2日に施行された、デジタルプラットフォーム事業者に対する規制を行う法律だ。

成立の経緯として、これまでの競争法では「エコシステム」による囲い込みを認定できなくなったこと、個々の事例の調査が長期にわたるといった問題点があった。

そこで、ここの認定が必要ない「ゲートキーパー」と言われるエコシステムの認定を行うDMAの仕組みが成立している。

ゲートキーパーに認定されるのは、オンライン仲介サービス、検索エンジン、SNS、メッセージアプリ、OS、ブラウザ、AIアシスタント、クラウドサービス、広告サービスが含まれる。

これらに認定されると、自己優遇の禁止、バンドリングの禁止、データの適正な利活用とアクセスの確保、広告サービスの透明性などが義務付けられる。

これの施行後、アップルはiPhoneなどのデバイスで、App Store以外の外部ストアと外部決済への対応を、EU地域のみで実施した。

App Storeのビジネスモデルはこうだ。アップルが投資して、アプリ開発環境やAPI整備・ストア・アプリ配信サーバ・課金サービス・顧客サポートと、アプリが正常に動作するかをチェックする審査を実施している。無料アプリについては、開発者の負担は年間開発者登録料のみだった。

その代わり、有料アプリやアプリ内課金については、売り上げ年間100万ドル以下の開発者は15%、それ以上は30%の手数料を徴収し、前述のコストを賄いながら利益を上げる仕組みだった。

スマホ新法の中身と趣旨, EUのDMAで起きていること, EUで使えないiPhoneの機能も, 日本でも同様のことが起きうるが…

アップルは毎年の開発者会議で、OSやアプリ開発の最新機能を発表し、アプリの高度化に投資していることをアピールしている(筆者撮影)

しかし外部ストアを許可する場合、アップルは開発環境のコストを回収する手段を失う。そこで、外部ストアや外部決済を利用したい開発者からは「コア技術手数料」を徴収し、ダウンロード数に応じた料金の徴収を行う仕組みへと切り替えた。

そのため、外部ストアを選択する場合、無料アプリであっても、アップルに手数料を支払う必要が出てくる。

また、App Storeでの審査を通さず、iPhoneにアプリをダウンロードできる環境も提供されることから、これまでアップルが許可してこなかったポルノアプリや、親によるダウンロードや課金のコントロールができない環境が成立している。

結果として、ユーザーにとっては、iPhoneに無条件に寄せることができていた安心や信頼は過去のものとなり、プライバシーや子どもの安全などに、より一層ユーザー自身が配慮しなければならなくなった。

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MacでiPhoneの画面を操作できるiPhoneミラーリング機能は、EUでは利用できない(写真:アップル)

EUで使えないiPhoneの機能も

DMAへの認知度と関心は高いとは言えないが、ユーザーにとって頭の痛い問題となるのが、最新機能が利用できない点だ。

アップルは、EU域内で提供しているiOS独自のサービスについて、中小・新興企業から開放のリクエストがあった場合、DMAに基づいて審査され、公開の命令が出される。

2025年3月19日に出された命令では、iOSにおいて、スマートウォッチやヘッドフォン、テレビなどのメーカーやアプリ開発者が、iPhoneの機能へのアクセスを改善すること、より高速なデータ通信、より簡単なペアリングを提供することを、法的拘束力を持って決定に従わなければならない。

こうした懸念を見越して、Appleは同社のセキュリティやプライバシーを脅かすと懸念される機能について、EUでの提供を見送る動きを見せている。

その1つが「iPhoneミラーリング」だ。

この機能は、Mac上にiPhoneの画面を呼び出して情報を見たり、操作したりする機能だ。DMAに則って他社からアクセス要求が出され、EUが法的拘束力を持って開放を命じれば、iPhoneミラーリングをMac以外でも利用できるようにしなければならなくなる。

例えば悪意のある操作や画面キャプチャなどを通じて、iPhoneのプライバシー情報が抜き取られるといった懸念が生じることから、アップルはiPhoneミラーリングをEUで提供せず、アクセス要求の対象にならないようにしている。

つまり、EUユーザーはMacでiPhoneを操作できる便利な機能が使えない状態のまま、ということだ。

日本でも同様のことが起きうるが…

スマホ新法が2025年12月に施行されると、日本国内においても、外部ストアや外部課金の許可、OS機能へのアクセス開放が求められるようになる。

もちろん、外部ストアを通じてより自由にアプリを配信したい、ダウンロードしたいという事業者とユーザーのニーズはかなえることができるが、前述のようにAndroidの状況を見ると、1割に満たないユーザーが対象となるだろう。

にもかかわらず、EUで起きていたように、機能開放によってプライバシーやセキュリティの保護が担保できなくなる可能性があるiPhoneの機能は、日本市場で導入されない、などの状況に陥る可能性が生じる。この点は、ユーザーにとっては不利益となってしまうだろう。

ただし、EUのDMAと比較して、日本のスマホ新法で1点、進歩的な条件が加えられている。

それは、サイバーセキュリティの確保、プライバシー情報の保護、青少年の保護、犯罪防止等政令で定める目的に該当する場合、アプリストア開放の例外が認められた点だ。

特に、子どもにスマホを持たせる親からすれば、ペアレンタルコントロールやデジタルウェルビーイングといったOSの機能をすり抜けてアプリが使えてしまう環境の成立は望んでいないだろう。

iPhoneでも春からマイナンバーカードが導入され、スマートフォンのプライバシーやセキュリティをより厳しく確認していかなければならない。他方、競争環境の維持によるユーザーのメリットも引き出していきたい。

ユーザーと事業者が、スマホ新法についての理解を深めつつ、何が最適か、考えていく必要がある。