三菱製鋼【5632】2期連続の無配から一転、3期連続増配へ、配当性向・下限配当も引き上げ 懸案のばね事業6期ぶり黒字化の理由と今後は

配当性向・下限配当を上方修正 総還元性向50%を新設, 無配から高還元へ転換 ばね事業が黒字化でゆとり, 特殊鋼の中堅メーカー 鋼材は苦戦、ばね部品の好調がカバー, 今期は2ケタ営業増益も中計には未達の見通し 鋼材の改革が急務

三菱製鋼【5632】2期連続の無配から一転、3期連続増配へ、配当性向・下限配当も引き上げ 懸案のばね事業6期ぶり黒字化の理由と今後は

配当性向・下限配当を上方修正 総還元性向50%を新設

三菱製鋼の株価が堅調です。トランプ関税ショックで2025年4月には1208円まで売られたものの、比較的早く値を戻し、同年6月には年初来高値となる1849円まで上昇しました。直近5年では3.09倍に値上がりしており、日経平均株価(同1.82倍)のほか、同業の特殊鋼で最大手の大同特殊鋼(同1.85倍)も上回っています。

【三菱製鋼の株価チャート(過去5年間)】

・株価:1723円(2025年9月1日終値)

配当性向・下限配当を上方修正 総還元性向50%を新設, 無配から高還元へ転換 ばね事業が黒字化でゆとり, 特殊鋼の中堅メーカー 鋼材は苦戦、ばね部品の好調がカバー, 今期は2ケタ営業増益も中計には未達の見通し 鋼材の改革が急務

出所:Tradingview

堅調な株価は、株主還元の拡充も背景にあるでしょう。今期(26年3月期)の配当性向は従来の30%から40%へ、1株あたりの下限配当は同64円から80円へそれぞれ引き上げました。配当利回りは4.64%と、東証プライム市場の加重平均2.22%(2025年8月)を大きく上回ります。さらに、新たに総還元性向50%以上を目指す方針も設定したことから、自社株買いによる還元も見込まれます。

【三菱製鋼の予想配当利回り(26年3月期)】

・予想配当金:80円

・予想配当利回り:4.64%

出所:三菱製鋼 決算短信

とはいえ、三菱製鋼は数年前には無配の期間もありました。同社はなぜ高配当銘柄へと転身しつつあるのでしょうか。

無配から高還元へ転換 ばね事業が黒字化でゆとり

まずは配当金の推移を押さえましょう。

三菱製鋼が無配だったのは21年3月期までの2年間です。海外子会社の減損や、コロナ影響および高炉改修に伴う損失が重なり、2期連続の最終損失に転落しました。翌22年3月期は従来の水準を上回って復配。今期(26年3月期)は3期連続の増配を計画します。

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出所:三菱製鋼 決算短信より著者作成

無配から一転し、株主還元を積極化できているのは、ばね事業の改善が貢献しています。ばね事業は赤字が常態化していましたが、24年3月期に6期ぶりの黒字へ転換しました。赤字の主因だった北米で大幅な値上げを断行。三菱製鋼は撤退も覚悟しますが、現地の自動車メーカーを中心に受け入れられ、収益が改善しました。北米は複数の海外ばねメーカーが撤退していることから、三菱製鋼の受注は回復傾向です。厳しい環境でも事業を継続したことが実を結んだ格好です。

さらに、ばね事業は低迷が続いたドイツから撤退したほか、足元では精密ばね部品で大型受注を獲得し、増益をけん引しています。ばね事業が赤字を脱し、全体にゆとりが生まれたことで、三菱製鋼は株主還元にも資金を振り向けやすくなっています。

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出所:三菱製鋼 決算短信より著者作成

なお、ばね事業は精密ばねが好調な一方、自動車ばねが低迷しています。今後は自動車ばねで構造改革に取り組み、収益をさらに底上げする考えです。

特殊鋼の中堅メーカー 鋼材は苦戦、ばね部品の好調がカバー

三菱製鋼は、株式市場では比較的規模の小さい銘柄です。事業を知るために概要も押さえておきましょう。

三菱製鋼は特殊鋼メーカーの一角です。鉄と炭素で構成される普通鋼に対し、元素の添加や成分の調整で特別な機能を持たせた鋼材を特殊鋼と呼びます。たとえば、代表的な特殊鋼のステンレスは鉄とクロムおよびニッケルの合金です。三菱製鋼は自動車や建設機械業界が主な顧客で、特殊鋼メーカーでは中堅に位置します。

【主な特殊鋼メーカーの売り上げ(25年3月期)】

・大同特殊鋼:5749億円

・愛知製鋼:2993億円

・三菱製鋼:1596億円

・東北特殊鋼:212億円

※大同特殊鋼および愛知製鋼は国際会計基準(売上収益)、その他は日本基準(売上高)

出所:各社の決算短信

素材だけでなく、ばね部品メーカーとしての面も持ちます。自動車や建設機械用の大型の製品から、電子機器向けの精密ばねまで製造しています。先述のとおり、ばね事業は改善が進んでおり、特殊鋼鋼材事業に次ぐ収益源となっています。

【セグメント情報(25年3月期)】

配当性向・下限配当を上方修正 総還元性向50%を新設, 無配から高還元へ転換 ばね事業が黒字化でゆとり, 特殊鋼の中堅メーカー 鋼材は苦戦、ばね部品の好調がカバー, 今期は2ケタ営業増益も中計には未達の見通し 鋼材の改革が急務

出所:三菱製鋼 決算短信

続いて業績です。特殊鋼鋼材は需要の減少や円安による輸入原材料価格の高騰などから苦戦していますが、ばね事業の改善がカバーし、営業利益は横ばいに踏みとどまっています。直近の25年3月期は、売上高が前期比6.1%減、営業利益が同36.5%増の減収増益で着地しました。

配当性向・下限配当を上方修正 総還元性向50%を新設, 無配から高還元へ転換 ばね事業が黒字化でゆとり, 特殊鋼の中堅メーカー 鋼材は苦戦、ばね部品の好調がカバー, 今期は2ケタ営業増益も中計には未達の見通し 鋼材の改革が急務

出所:三菱製鋼 決算短信より著者作成

今期は2ケタ営業増益も中計には未達の見通し 鋼材の改革が急務

最後に業績の見通しを解説します。今期(26年3月期)は減収増益の計画で、ばね事業を中心に利益が伸びる想定です。鋼材は引き続き厳しい環境を見込みますが、採算の改善に取り組み、前期比で微減益に抑え込むよう目指します。

【三菱製鋼の業績予想(26年3月期)】

・売上高:1590億円(-0.4%)

・営業利益:74億円(+12.7%)

・純利益:30億円(+26.9%)

※()は前期比

※同第1四半期時点における同社の予想

出所:三菱製鋼 決算短信

なお、今期は23年5月に公表した中期経営計画の最終年度ですが、上記の見通しは設定した目標(売上高:1850億円、営業利益:110億円)を下回ります。鋼材が国内を中心に需要が低迷したことが響きました。今後は国内鋼材事業の改善が課題となりそうです。

若山 卓也/金融ライター

証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。