アメ車「品質低下」の一途? リコール急増の米フォード、信頼失墜で日本車が世界の模範となるか
フォード危機の財務影響
時事通信は2025年9月7日、米自動車大手フォードが2025年のリコール件数を100件以上に達したと報じた。これは2014年にゼネラル・モーターズ(GM)が記録した最多77件を上回る数字で、更新が続いている。フォードは2021年以降、3年連続でメーカー別リコール件数が最多となり、一部では「リコール王」とやゆされている。
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フォードの2025年4~6月期決算では、リコール関連の損失が6億ドル(約882億円)に達し、純損益は3600万ドル(約53億円)の赤字だった。売上高は前年同期比5%増の502億ドル(約7兆8380億円)で過去最高を更新したものの、リコールの増加が財務に重くのしかかり、好調な販売の効果を相殺している。
一方、日本車のリコール件数は米国勢に比べて少なく、ホンダの14件が最多で、トヨタと日産はそれぞれ6件にとどまる。
本稿では、リコール件数が増加傾向にあるフォードなどの米メーカーにとって、現場力を強みとする日本メーカーが参考となり得るかを検証する。また、米メーカーが今後取り組むべき課題を考察する。
リコールが揺るがす利益

フォード・F-150プラチナム(画像:フォード)
リコール対応による損失は、修理費用だけではない。直接コストには、交換部品代や工賃に加え、部品輸送にかかる物流費も含まれる。数百万台規模のリコールでは、影響が数百億円に上ることもある。
間接コストは主に販売やサービス部門の人件費だ。表面化しにくい影響には、ブランド価値の低下による販売減少やリセール価格の下落、保険料の上昇などがある。
フォードの決算資料によれば、過去3年間のリコール関連費用は数千億円に達し、利益構造に恒常的な負担を与えている。2024年11月には、米国道路交通安全局(NHTSA)から、リコール要件を遵守しなかったとして1億6500万ドル(約243億円)の罰金が科され、フォードは支払いに応じた。
リコール件数が増え続ける一方で、長年のベストセラー「Fシリーズ」や多目的スポーツ車(SUV)などの主力車種に支えられ、フォードの2024年の米国市場シェアはGM、トヨタに次ぐ3位だった。販売台数は約204万台で、前年から2.7%増加した。
株価は品質問題が報じられるたびに下落し、投資家の信頼を損ねている。2022年1月に25ドルを上回ったのが過去10年間の最高値で、現在は11ドル前後に低迷している。
米日メーカー格差鮮明

米国(画像:Pexels)
NHTSAが公表するリコール件数の過去10年間の推移をまとめると、近年は年間で1000件前後のリコールが発生している。
そのなかでフォードの占める割合は、ここ数年で4%から6%に増加した。2024年のフォードのリコール件数は67件だったが、今年はすでに109件に達し、異常事態であることを示している。
GMやステランティス傘下の旧クライスラーのリコール件数は、年間平均で約40件前後にとどまる。一方、日本メーカーのトヨタ、ホンダ、日産はその半分程度で、品質管理の差が数字に表れている。
米国市場の販売台数に対するリコール率を2024年実績で算出すると、フォード、GM、旧クライスラーの3社平均は33PPMだったのに対し、日本メーカーの平均は14PPMにとどまった。リコール発生の頻度でも日本メーカーは低く、品質管理体制の成熟度に大きな差があることを裏付けている。
米国新車品質の現状

JDパワー・2025年版新車初期品質調査(画像:JDパワー)
リコール件数と品質調査結果を照合して検証する。米調査会社JDパワーは2025年6月、2025年版の新車初期品質調査結果を公表した。このデータは米国市場における品質管理の動向を示す有力な指標である。全体として前年より改善傾向を示し、特にテスラの品質改善が寄与した。
同調査では、上位5社に
・レクサス
・日産
・現代自動車
・ジャガー
・シボレー
がランクインした。一方でフォードやGMの一部ブランドは全体平均を下回った。特にインフォテインメントやタッチパネルなどデジタル機能の不具合に、ユーザーの不満が集中している。
この調査結果は、全体として品質が改善する一方でリコール件数が増えるという、一見矛盾した状況を示している。背景には、インフォテインメントなど新機能の急速な普及による車両システムの複雑化がある。想定外の不具合が発売直後から頻発している現状が浮かび上がる。
開発体制のリスク露呈
米メーカーでリコールが頻発する背景には、開発体制の問題がある。
電動化への対応を急ぐあまり、複数のプラットフォームを併存させなければならないが、統合が遅れている。バッテリーやソフト開発の一部では、外部委託への依存度が高く、検証作業が分断されて一元化できていない面もある。車載システムの統合を設計段階で十分に考慮できず、不具合が見つからないまま販売されるケースもある。
さらに、サプライチェーンがグローバル規模で広がり、管理が複雑化している。各部品やシステムの検証工程に十分な時間が確保されていない課題もある。
一方、日本メーカーは現場主義を重視してきた。定められた標準に従った作業が忠実に実施され、不具合発生時には再発防止策が講じられるフィードバックループが確立している。このため、リコール件数は一定程度に抑えられる。長年蓄積された知見により、品質格差が長期的に生まれる土壌が形成されている。
日本流手法の導入限界

JDパワー品質工場賞2025を受賞したトヨタ・カナダ工場(画像:北米トヨタ)
トヨタやレクサスの工場は、数多くの品質賞を受賞している。高岡工場やカナダ工場はJDパワー工場品質賞を受賞し、国際的にも高く評価されている。
これに倣い、米メーカーの一部では、日本メーカーの
「カイゼン」
「ゲンバ・ウォーク」
といった品質改善手法を導入し始めている。しかし、単なる模倣では限界がある。米国の文化や組織風土に合わせた再設計が必要であり、米メーカーが取り組むべき本質的課題となっている。
今後の改善策としては、ソフトウェア主導の開発体制統合や、無線アップデート(OTA)による初期不具合の削減が挙げられる。早期の市場フィードバックの活用や、AIや統計手法による品質データ解析の高度化も、将来的なリコール削減に寄与するだろう。
さらに、新興市場向けに信頼性を価値として再定義すれば、販売後の利益率を維持する戦略が可能になる。また、日本車の強みを活かし、日米メーカーが共同で品質基準を策定し、国際的な人材交流を通じて品質文化を普及させることも検討に値する。
自動車産業の信頼戦略

フォードのロゴ(画像:Pexels)
米メーカーの品質低下は、単なる技術的な問題にとどまらず、経営体制や組織課題も浮き彫りにした。日本車が強みとしてきた高品質は世界的に普遍化しうるが、文化的に他社に移植するには限界がある。
顧客の信頼を再構築するには、短期的にリコール件数を減らすだけでは不十分である。開発、製造、アフターサービスを一体化した全社的な体制の刷新が不可欠だ。
品質競争はコスト競争に劣らず、企業価値を左右する時代に入った。米国の自動車産業が再び世界の信頼を取り戻すのか。それとも日本車がロールモデルとしての地位を確立するのか。どちらが早く着地点に到達するかで、自動車産業の未来図は大きく変わるだろう。