年金繰り下げで増えた「74万円」に課される“見えない手数料”…70歳元会社員夫の落胆「税金と保険料で21万円引かれ、本当の増額は53万円だけ」【FPが解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)
年金の「繰り下げ受給」は、将来の受給額を増やす有効な手段として知られています。しかし、増額した年金が必ずしもそのまま手取りの増加に繋がるわけではありません。知らずに繰り下げを行うと、落胆する結果になることも……。本稿では、酒井富士子氏による著書『60分でわかる! 新・年金 超入門』(技術評論社)より、繰り下げ受給を判断するうえで重要なポイントを解説していきます。
年金の受給額が増えるとその分手取り率もさがっていく
最大10年繰り下げると手取り率は4%減少する
年金受給額が増えると、税金や社会保険料の負担額が増え、年金から天引きされる金額も多くなる分手取り率は下がる傾向にあります。これは、年金の繰り下げ受給をした場合でも同じ。つまり、繰り下げで年金額が増額する一方で支払わなければならないお金も増えるということです。
ここでは、繰り下げ受給で具体的にどのくらいの税金や社会保険料の負担が増えて、手取り率が下がっていくのかを見ていきましょう(図表1参照)。
本来年金額176万4,000円の場合、所得税も住民税の負担はありません。これを70歳、75歳と繰り下げていくと、増額率42%、84%で受給額が増えていっても、健康保険料が70歳では約2倍近く、75歳では約2.5倍近くと負担が大きくなります。その結果、保険料負担増により実際に家計に直結する手取りの増額率は42%から38%、84%から75%に減ってしまいます。
介護保険料については、妻が65歳になった時点で、妻の年金から差し引かれる形になるので、繰り下げ受給しても70歳以降に負担額が大きく増えることはありません。税金については、扶養する妻が70歳になると「老人控除対象配偶者」となり所得税の場合は控除額が38万円から48万円と10万円に増えますが、結果的に支払う税額は高くなるため、繰り下げ受給する年齢が高くなるほど手取り率は下がってしまいます。

[図表1]年金を繰り下げした場合の手取り率の変化 出典:『60分でわかる!新・年金超入門』(技術評論社)より抜粋 〈まとめ〉
■70歳まで繰り下げると手取り率は65歳に比べ3%減額に
■介護保険は65歳、健康保険は75歳以降自己負担に
年金受給額が増えると介護サービス費、医療費負担も上がる
医療費、介護サービス費が2倍になる場合もある
年金受給額が高いと、社会保険料と税金の負担が大きくなるだけでなく、収入に応じて変動する医療費や介護サービス費の負担割合が高くなることがあります。
具体的には、医療費の場合、69歳までは一律3割負担ですが、70歳以上~74歳までは2~3割、75歳以上は1~3割と収入に応じて割合が変動します。70歳~74歳の人が3割負担となるのは、本人の課税所得金額が145万円以上。課税所得とは、収入から公的年金等控除、配偶者控除や支払った社会保険料などを差し引いた金額のこと。75歳以上になると「後期高齢者医療保険制度」へ切り替えとなり、課税所得によって1~3割と変動します。
75歳以上の場合、課税所得が28万円以上から2割、145万円以上が3割負担になります。例えば、図表2のように、夫の年金を75歳まで繰り下げると、課税所得が28万円を超えるので、従来の年金額では1割で済むところ医療費の負担が2倍になります。この負担割合は扶養される妻も2割となるので、その分世帯の負担は大きくなります。介護サービス費も、収入に応じて1割~3割と変動します。
この場合は所得金額が対象で、税額控除や支払った社会保険料を差し引く前の金額のことです。前述の例のように75歳まで繰り下げすると本人の合計所得が自己負担判定要件の合計所得220万円以上に該当するので、夫の負担は2割にアップ。ただし、医療費と違い妻の割合は変わりません。医療費や介護費の負担が増えることは、高齢になるほど家計を圧迫するリスクになりかねません。
★ 例えば…夫の年金176万4,000円を繰り下げた場合(扶養の妻:年金88万円)

[図表2]繰り下げた場合の医療費と介護サービス費の負担率 出典:『60分でわかる!新・年金超入門』(技術評論社)より抜粋 [図表3]介護サービス費の自己負担割合 出典:『60分でわかる!新・年金超入門』(技術評論社)より抜粋 〈まとめ〉
■医療費の負担割合は夫が上がると妻の負担も共に上がる
■医療費・介護サービス費は高齢になるほど出費がかさむ可能性大
繰り下げ受給の損得をどう確認する?
繰り下げして受給額が増えても得とは限らない
年金の繰り下げ受給は、増額するメリットがある一方で、社会保険料や税金の負担が増えるデメリットもあることをお伝えしましたが、ここでもう1つ注意しておくべきポイントをお伝えします。それは、繰り下げ待機期中や繰り下げ受給開始後すぐに亡くなった場合、増額の恩恵を十分に受けられない可能性があるということです。
例えば、70歳まで繰り下げした人が、80歳で亡くなったとしたら、65歳から受給開始した場合と比べると5年受給期間が短くなることになります。この「短くなった5年間の年金総額」が、「繰り下げ受給で増額した年金受給額」より多かった場合、トータルでは損をしたことになります。
図表4は、70歳まで繰り下げした場合の年金受給額と65歳から受給開始した本来受給額のそれぞれの総額を比較したものです。繰り下げ受給の総額が本来受給の総額を上回るのはおおよそ82歳以降という結果に。つまり、70歳まで繰り下げした場合、82歳まで生きれば、結果的に得をしたということになります。この損益分岐点となる年齢は、厳密に言うと81歳11ヵ月で、70歳の繰り下げ受給開始から、11年11ヵ月経過後になります。
この11年11ヵ月という期間は何歳に繰り下げ受給を開始しても同じで、受給開始してから11年11ヵ月生きられるかが繰り下げした場合の損得を決めるポイントとも言えます。ですが、寿命を予測することは誰にもできません。繰り下げ受給は66歳以降1ヵ月単位で行えるので、働き方や家族構成、家計の状況に合わせて決めるようにしましょう。
繰り下げ受給の損得を確認しよう
★例えば…本来受給額176万4,000円を繰り下げ(繰り下げによる増額後の年金額250万4,880円・増額率42%)

[図表4]70歳まで繰り下げした場合の損益分岐点 出典:『60分でわかる!新・年金超入門』(技術評論社)より抜粋 [図表5]年齢別の繰り下げ分岐点をチェック 出典:『60分でわかる!新・年金超入門』(技術評論社)より抜粋 〈まとめ〉
■繰り下げ受給の損得は受取総額で確認すること
■繰り下げ受給の損益分岐点は受給開始から11年11ヵ月後
酒井 富士子
株式会社回遊舎 代表取締役
経済ジャーナリスト
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