無期懲役は“事実上の終身刑”…法律でもない「通達」で仮釈放の芽を摘む「マル特無期」という裏ルールの正体

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死刑制度をめぐる議論のなかで、「無期懲役はすぐに仮釈放になるから刑が軽すぎる」という意見がある。ならば、無期懲役の受刑者が仮釈放される可能性は、どの程度なのか。データをもとにたどっていくと、想像とは異なる現実が浮かび上がってくる。数字の背後には、語られにくい制度運用の実情が潜んでいた。※本稿は、丸山泰弘『死刑について私たちが知っておくべきこと』(筑摩書房)の一部を抜粋・編集したものです。
実はほとんど認められない
仮釈放の運用状況とは
実際に、どのぐらいの無期刑者が刑事施設にいるのかから見てみます。実は2008年8月に法務省内において「無期刑受刑者の仮釈放に係る勉強会」が設けられ、同年11月に結果がまとめられ、法務大臣に報告書が提出されています。その後、法務省では無期刑受刑者についての仮釈放の運用の透明性と国民に分かりやすい制度となることを目指して、毎年12月に「無期刑の執行状況及び無期刑受刑者に係る仮釈放の運用状況について」というデータを出しています。そこでは前年度までの過去10年間の無期刑に関するデータを見ることができます。表にしていますので、そちらを参考にしながら一緒に考えてみてください。

同書より転載
戦後最高に無期刑受刑者が多かったのは2013年で1843人でした。その後、緩やかに減少し、2022年には1688人まで減少しています。では、この1700人ほどの無期刑受刑者がいる中で、仮釈放はどのように運用がなされているのでしょうか。
この10年で新たに無期刑受刑者で仮釈放が認められた人の平均年数は2013年の31年2ヵ月から2020年の37年6ヵ月の間を行ったり来たりする値で推移しています。一方で2022年の新規に仮釈放が許可された無期刑受刑者の平均在所期間は45年3ヵ月でした。つまり、「10年や20年で仮釈放される」という運用実態にはなっていないことが分かります。数字を決められる有期刑は最大で、「(ふたつ以上の罪を犯したときに)30年」です。そのことからも、無期刑の仮釈放までの収容期間が30年より下回る形で運用されることは想像し難いでしょう。
また、前ページの表からも分かるように、新規で仮釈放になった人の数は2019年を除いていずれも1桁の数字となっています。最新の2022年に至っては1688人中の5名が新規に仮釈放となっただけであって、その平均在所期間も45年を超えています。
受刑者の高齢化が進み
出る前に亡くなるケースも
確かに10年や20年のようなスパンで仮釈放にはなっていないとしても、「いずれ出てくる」という部分には変わりがないので、やはり死刑廃止には「終身刑が必要であろう」という意見が出てくるかもしれません。しかし、表の右端にある「死亡した無期刑受刑者」の数を見てみてください。新規で仮釈放となった受刑者の数は1桁台の数字であったのに対して、少ない年で14名が、多い年で41名が刑事施設の中で亡くなっていることが分かります。
つまり、日本の無期刑は現在約1700人ほどが収容され、先ほど確認した厳しい基準をクリアした5人から10人ほどの受刑者が仮釈放を認められ、その2倍から4倍の人たちは仮釈放が認められることなく亡くなっていることが分かります。このように、仮釈放が認められる要件を満たしたごく僅かな人だけが仮釈放されるだけであって、日本の無期刑は実質的に終身刑としての運用がなされているのです。
もちろん、その年ごとの無期刑受刑者を見ている数字ですので、無期刑受刑者の全員が長期間入っているわけではありません。法務省の在所期間に関するデータによれば、2022年末の段階で、10年未満の者が無期刑受刑者全体の12.6%、10年から20年の者が46%、20年から30年の者が23.7%、30年から40年の者が13.2%、40年から50年の者が3.9%、そして50年以上の者が0.6%いるとされています。
年齢構成としては、20歳代の1.3%が最も少ない年齢層で、50歳代の24.1%が最大となり、次いで70歳代22.6%となっています。80歳代以上も7.8%おり、法務省の公表しているデータでは最高齢が何歳なのか判明しませんが、仮釈放審理状況を示すデータでは、許可されなかった受刑者の判断時の年齢が「90歳代」と記されている人がいることから、少なくとも1人以上は90歳以上の人も収容されていることが分かっています。
検察庁からの新ルール通達で
仮釈放のハードルがさらに高く
さらに、すでに終身刑としての運用がなされていると言えるような実態が少しずつ明るみになってきています。それは「マル特無期」の存在です。
1998年6月18日に最高検察庁は「特に犯情悪質等の無期懲役刑確定者に対する刑の執行指揮及びそれらの者の仮出獄に対する検察官の意見をより適正にする方策について(依命通達)」(最高検検第887号)いわゆる「マル特無期通達」を各地の検事長や検事正に向けて発出しています。通達による運用であるため、法律として議論されたわけではなく、この存在自体はしばらく知らされていませんでした。そのマル特無期通達の存在は2002年1月8日の朝日新聞の夕刊で報道されて初めて世間が知ることとなっています。
報道によれば、マル特無期通達の中身は「動機・結果の悪質性のほか前科や前歴などから同様の重大事件を再び起こす可能性が特に高いなどと判断した事件について地検や高検は最高検と協議し、指定事件に決まると判決確定直後に刑事施設側に「安易に仮釈放を認めるべきではなく、仮釈放申請時は特に慎重に検討してほしい」と文書で伝え、関連資料を保管すること。
そして仮釈放に関する意見照会があった際に、こうした経緯や資料などを踏まえて地検が意見書を作成する」というものでした。法律によってではなく、通達レベルによっても仮釈放審査が厳しくなるような運用が行われており、判決直後から仮釈放の見込みのない無期刑受刑者が多数収容され、施設の中で亡くなっているということが分かってきました。

『死刑について私たちが知っておくべきこと』 (丸山泰弘、筑摩書房)
こうした無期刑受刑者の仮釈放に関する実態を知ってもらうことで、死刑の存廃の議論に大きな影響を与えるかどうかは分かりません。実際に死刑が最終的に選択されることもあるでしょう。しかし、読者の皆さんが裁判員裁判で、有罪認定後に刑罰について評議を行うことになり、もしも死刑か無期刑か、が争われる事案に遭遇した場合に、少なくとも「日本には終身刑がないから、簡単に出てくる無期刑では不十分で死刑にすべき」という議論が評議の場で起きていた際には、「日本の無期刑はそのような運用はなされていないのではないか」と疑問をなげかけられるようになってもらいたいのです。