小泉進次郎がついた嘘…アメリカとの「密約」で輸入米が大幅に増加、日本の農業は「危機的状況」へ
日米間で結ばれている「密約」
7月28日、東京大学特任教授・名誉教授の鈴木宣弘さんから聞いてほしい案件があるというメールが届いた。「今回の日米関税交渉の合意は、文書にするとWTO協定違反になります」というメールだった。日米関税交渉のいったい何がWTO(世界貿易機関)協定違反になるのか鈴木先生に取材した。
「毎年約77万トンのミニマムアクセス米(最低輸入量。以下、MA 米)を輸入していますが、そのうちの約半分の35万トンをアメリカから買っています。というよりも買う『密約』が日米間で結ばれています」
鈴木先生は続ける。
「『密約』とはいえ、関係者の間では公然の秘密です。『密約』をレポートした本があるので読んでください」
山田優さんと石井勇人さんが2016年に出版した『亡国の密約 TPPはなぜ歪められたのか』(新潮社)だ。鈴木先生は「未読」だが、「『密約』の内容を当時の関係者から聞いていた」と告白する。
「私は35万トンではなく、36万トンだと聞いていました。いずれにせよ、35〜36万トンのコメをアメリカから買う『密約』は文書に残していません。残すと『密約』ではなくなるから」
その『密約』が事実だとして、なぜ文章化していないのか。
「日本とアメリカの間でMA米の輸入量を決めると『最恵国待遇』違反になるからです」

東京大学特任教授・名誉教授の鈴木宣弘さん
米国だけ毎年輸入シェアが一定
現在、日本はMA米をアメリカだけでなく、タイやオーストラリア、中国などからも輸入している。WTO協定の基本のひとつに最恵国待遇原則というルールがある。経済通産省のHPには、「いずれかの国に与える最も有利な待遇を、他のすべての加盟国に対して与えなければならない」と記してある。
つまり、今回のMA米の場合、タイやオーストラリア、中国などにもアメリカと同じ待遇を与えなければならないということになる。アメリカだけを待遇する「密約」が文書として現存すると、他国に訴えられる可能性があると鈴木先生は指摘する。
農林水産省としても「密約」を公言できるわけがないし、HPにも公開していない。鈴木先生がいうように「関係者の間では公然の秘密」だった、MA米輸入量のうちの36万トンがアメリカ産であることを『亡国の密約』の著者はつきとめ、白日のもとにさらした。
「輸入シェアが一定であるのは米国だけに限られる。MA米輸入が始まった1995年度以降、タイ産が大きく増えた一方で中国産やオーストラリア産は減るなど、シェアは年度ごとに大きくばらつく。しかし、米国産だけはほとんど変動がない」(『亡国の密約』より)
アメリカを待遇していることで訴訟は起きていないようだ。けれど、中国は日本に苦情を伝えてきたことがあると『亡国の密約』は記している。
「中国政府はこれまでも日本の不透明なMA米輸入の運営に不満をぶつけてきたが、日本政府は聞く耳を持たなかった」(『亡国の密約』より)
農林水産省も政府も知らぬ存ぜぬを通してきたと鈴木先生は説く。
「誰が見ても『密約』が履行されていることは明らか。でも、そんな約束はしていないし、たまたま35万〜36万トンのコメをアメリカから買ってきただけだと言い続け、『密約』を認めていません。国民をごまかすことが許されてきたし、国民も追求してきませんでした」
日米関税交渉合意の「驚きの内容」
そして7月22日。ホワイトハウスは、日米関税交渉合意の内容をまとめたファクトシートを公表した。「日本はMA米輸入を75%に増やすことで合意した」と書かれている。
「『密約』で決めた35万トン前後から75%増の、約60万トンがアメリカ産という異常な差別待遇になります。ところが、日本政府は、アメリカ産米をどれだけ輸入するかは『こちらが考える』と主張しています」
日本農業新聞(7月30日)は、「小泉進次郎農相(ママ)は29日、日米関税交渉の米に関する合意について、『国際ルールを踏まえて対応していきたい』と述べた」と伝えている。さしずめ、WTO協定の最恵国待遇原則を遵守するということなのだろう。
筆者は、8月22日に農林水産省で行われた「米国の関税措置に関する日米合意に係る全国説明会」に出席。小泉農林水産大臣の発言を聞いた。「今回の合意によって輸入する米の総量が増えることはない。すべて既存のミニマムアクセスの枠内で対応し、追加で主食用米として国内に入ることはない」と言い切った。
こんな発言もあった。
「アメリカ側の内部手続きの過程で、合意と異なる内容の大統領令が発令され、そのまま適用が開始された」というのだ。
合意と異なる大統領令のひとつが、「MA米輸入を75%に増やす」ことだと思われる。アメリカ産米を毎年35万トン輸入することも「決まっていない」のだから、それをさらに「75%増やすことなどありえない」ということなのだろうか。

小泉進次郎農林水産大臣
日本の農家に影響はないとされているが……
今年4月、財務相の諮問機関である財政制度等審議会の分科会で、MA米のうち、主食用に回す上限を拡充する提案した。農家の反対が予想されるため、実現するかどうかは不透明だ。
石破茂首相は、8月4日の衆議院予算会議で日米交渉の合意内容について「日本の農業者、水田耕作者、稲作農家に影響を与えないと断言する」と伝えた(日本農業新聞8月5日)。
エコノミストの中には、「MA米の枠内であれば、アメリカの輸入量が増えたとしても農家や消費者への影響はほとんどない」という人もいるが、鈴木先生は異を唱える。
「アメリカからの輸入米が店頭に並ばなくても備蓄米に回せば、その分、国産米を備蓄に回せなくなります。備蓄米は加工用だとしていますが、今回も主食用に販売しました。9月9日、小泉農林水産大臣は『今後、備蓄米を定期的に主食米として販売する選択肢もある』と発表しました。今後もアメリカからの輸入米を主食用として販売すれば、国産の主食米市場を圧迫することになり、主食米の下落圧力となります」
備蓄米放出が滞っていることからまだ若干備蓄米が残っていると考えられる。とはいえ、緊急時用に備蓄米を補充しなければならない。これまで毎年1月に備蓄米の入札が行われてきたが、今年は昨年のコメ不足の影響で入札はまだ行われていない。ほぼ中止のまま。小泉農林水産大臣が言うように、アメリカ米を備蓄米に回し、主食用として販売する可能性も出てきた。
共同声明で日本政府が一転
9月4日、ホワイトハウスは、トランプ大統領が大統領令に署名したと発表した。これに合わせ、日米の両政府は共同声明に署名。日本がアメリカ産米の輸入をMA米枠内で75%増やすことなどを明記した。
日本政府は、ホワイトハウスが7月22日にリリースした「MA米を75%増やす」ことなど決まっていないし、増やす量は「日本が考える」と主張していた。ところが、4日の共同声明により、MA米枠内で75%増やすことを日本政府が認めたことになる。アメリカ産米の輸入量を35万トンから60万トンに増やすというのだ。嘘の上塗りならぬ「『密約』の上塗り」である。
2024年の日本の主食米の生産量は約679万2000トン。
「日本の生産量の約1割をアメリカから買うことになります。すごい量です」
MA米輸入量を日本とアメリカの2国間で決め、共同声明という形で文書化したわけだが、冒頭で鈴木先生が指摘したように「WTO協定違反」にならないのだろうか。
これまで小学生にもすぐばれるような嘘の説明で国民をやり過ごし、平然と事態を次の段階に進めてきた日本の政治・行政のお粗末さを鈴木先生は何度も見てきた。「あと5年以内に日本でコメを作る人はいなくなり、集落が崩壊する」という叫びが全国各地に広がっている中で、農業の生産現場を直視せずに、こんなことばかり続けていていいのだろうか。

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日本の農政が目指すべき道
「誰かがやらなければ手遅れになります。農業は国防。私が責任を取れる立場だったらこんな農政をします」という話を鈴木先生は語ってくれた。
①【防衛予算と国交省の防災予算を含めた安全保障予算として予算を組み直し、農水省予算を実質3兆円増やす】
②【農地10アールあたり3万円程度の食料安全保障基礎支払いを行なう】
③【主要農産物については消費者が安く買えて、農家が継続できる直接支払いを農家に行なう】
④【政府がコメや乳製品の買い上げを行ない、備蓄と内外援助に回す。買い上げと放出のルールを明確に数値化して需給の安定化を誘導する】
わが国は、これまでコメだけはほぼ自給してきた。その反面、小麦に加え、飼料の大豆もトウモロコシも莫大な量をアメリカに依存してきた。というよりも仕向けられてきた。
「経済学者だった宇沢弘文教授は、アメリカ人の友人から聞いた話としてアメリカの日本占領政策の第一は、日本の農業を弱体化してアメリカの余剰農産物を買わせることだった、という話を述懐しています」
高嶋光雪さんが書かれた、戦後の食糧事情を振り返る『米と小麦の戦後史』(ちくま学芸文庫)を一読いただきたい。鈴木先生が『胃袋からの属国化』と題する解説を書いている。筆者も【戦後、「日本人」の味覚は「アメリカ人」によって作り変えられていた…日本人の大半が知らない「驚きの事実」】で高嶋さんの本を紹介させいただいた。
「主食であるコメを早く増産して農家が安心して経営を継続できるようにし、消費者が買える値段で安定的に買えるようにしなければなりません」
鈴木先生が考える生産者に最低限確保すべき米価は、小売りレベルで5キロ3500円。「これがギリギリだ」と説く。
5キロ2500円程度でないと消費者が継続的に買えないのであれば、生産者にとっての3500円と消費者の2500円の「差額を政府が補填すればいい」と鈴木先生は力説する。
農政に詳しい鈴木先生が農林水産大臣だったら国民のために、農家のために働いてくれるにちがいない。そんな「妄想」をするのは筆者だけだろうか。と思っていたら「鈴木先生を農林水産大臣にしよう」というキャンペーンをXではじめた人がいる。「#鈴木宣弘先生を農水大臣に!」をXで展開している。
「農業は国防」。
このことを1人でも多くの日本人が気づいてくれることを。
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