制裁回避に躍起のロシアへ、抜け道使って日本製品が流出 物々交換が復活、差額決済を導入…高まる中国ルートの存在感

入り口に中国語とロシア語が併記された商業施設=2023年10月11日、中国黒竜江省黒河市(共同)
開始から3年半以上がたつウクライナ戦争。終結への糸口が見えない中、日米欧は制裁を強化するが、ロシアやその主要貿易相手の中国はさまざまな抜け道を利用、終わりない「いたちごっこ」が続いている。(共同通信=太田清)
▽行方不明
ウクライナのブラシウク大統領顧問(制裁政策担当)は今年8月にSNSで、日本の中堅工作機械メーカーの製品が経済制裁をすり抜け、中国企業を介してロシアに流れていることを明らかにした。ウクライナの英字メディア「キーウ・インディペンデント」など複数のメディアが報じた。
同顧問によると、このメーカーはツガミ(東京)で、製品は作業工程をコンピューターで制御するコンピューター数値制御(CNC)工作機器。事実を把握したウクライナ側は、日本の経済産業省に調査を依頼した。
その結果、中国の7企業が購入した300台以上のツガミ製品の所在が不明で、うち30台がロシア国内で確認されたことが分かったという。ツガミはこの7社との契約を解除したが、残りの製品もロシアで設置される可能性が高いと同顧問は指摘している。
CNC機器は産業ロボットと並び、軍民両用(デュアルユース)製品で、ミサイルや軍事用無人機(ドローン)などの軍需品の性能・品質向上に不可欠とされる。ウクライナ侵攻以来、これまでも、ロシアが輸入を急増させているとの指摘がされていた。
ツガミ製品については8月、ラトビアを拠点としロシアに関する調査報道を手がける独立系メディア「ザ・インサイダー」が、通関統計を基に、ロシアへの輸出額が侵攻以降、急増したと報じていた。
ツガミは取材に対し「中国の現地法人を通じて販売した製品200~300台の所在が不明になったことは把握している。当社は製品が軍事目的に使用されることは禁止しているし、転売の際には当社の承諾が必要との約束を事前にユーザーと交わしており、問題の会社との取引は既に停止した。今後は本当に信頼の置けるユーザーにしか販売しないなど、輸出管理をさらに徹底したい」と回答。
一方、経済産業省貿易管理課は「個別の話には答えられないが、そうした話があることは承知している。ロシアへの転売を知りながら制裁対象品を輸出することは禁止されており、企業には十分留意するよう求めている」としている。
▽中国

上海協力機構首脳会議の式典で握手する中国の習近平国家主席(右)と、ロシアのプーチン大統領=8月31日、中国天津市(タス=共同)
ツガミ製品の迂回輸出の抜け道に利用された中国。同国はロシアにとり最大の貿易相手国であり、侵攻開始後、貿易額をさらに拡大。制裁を効果的にする面で、ロシアへの中国の協力にどう対処するかが焦点となっている。
中国とロシアの貿易額は2024年、前年と比べ伸びを減速させながらも2448億ドル(約36兆円)と過去最高を記録。しかし、今年に入り減少し、中国の通関統計によると、上半期で前年同期比9・1%減(中国からの輸出8・4%減、輸入9・6%減)となった。
特にバイデン米前政権時に始まった中国などへの金融機関への2次制裁が功を奏したとの見方もある。同制裁は、ロシアの侵攻や制裁逃れに加担する金融取引に関わった第三国の金融機関に制裁を科すもので、制裁を恐れる中国の大手銀行がロシア企業との取引を停止した。
しかし、ポーランドを拠点とし、ロシア・東欧などの安全保障分析を専門とするシンクタンク東方研究センター(OSW)は今年7月のリポートで「減少は特定分野に限られている。中国からのデュアルユース製品輸出は続いており、軍事用途が疑われる物資輸出は逆に増加している。ロシアの戦争継続における中国の主要な役割は変わっていない」と指摘した。
リポートによると、ロシアからの輸出で減っているのは原油などのエネルギー資源が中心だが、ロシアによるディスカウントや、世界市場での油価下落による見かけ上の減価の影響が大きい。
中国からの輸出については、乗用車など輸送用機器が大きく落ち込んだが、ロシア国内での車のリサイクル料金大幅引き上げなど事実上の関税引き上げが主因で、中国製部品を使った現地製造への移行が進んでいるという。
一方、マンガン鉱石やターボジェットエンジンなどの軍事用途が疑われる物資の輸出は増加。また、日米欧などが輸出規制の対象としているデュアルユース製品については、中国は2025年上半期に19億ドル(約2800億円)を輸出するなど高水準の取引が続いている。
▽バーター

7月28日、英スコットランド・ターンベリーで記者団に話すトランプ米大統領(AP=共同)
ロシアと中国はどのような手法を用い制裁を回避しているのだろうか。
まず挙げられるのが決済手段だ。両国は制裁の影響を強く受ける米ドル、ユーロなどのハードカレンシー(国際的な交換可能通貨)の貿易での使用を極力減らし、自国通貨である中国元、ルーブルでの決済を進めている。
インタファクス通信によると、ロシアの輸入におけるルーブル決済の割合は今年4月時点で、56・2%に達し過去最高を記録。一方、日米欧などの「非友好国」通貨による決済割合は15・4%と最低を記録した。ロシア中央銀行が発表した。
また、中国などBRICSとの相互協力などを担当するロシアのオベルチュク副首相は2024年3月、ロ中間の貿易決済の92%が既にルーブルか元で行われていることを明らかにした。
さらに最近注目されているのが「差額決済システム」だ。企業間の複数の支払いと受け取りをまとめて相殺し、最終的に出た差額分だけを決済するシステムで、決済手数料を節約できる以外にも、取引での金銭の流れの全体像を見えにくくする効果があるとされている。
ロイター通信は今年4月、ロシアの複数の銀行が制裁回避のため、中国側との決済において同システムを導入したと伝えた。「チャイナ・トラック」(中国ルート)と呼ばれるこのシステムについては、ロシアのトップ20行に入る大手銀行も取り入れ、取引の実態を見えにくくした上で、2次制裁への懸念などから一時最大12%にまで上った手数料を1%以下に抑えることに成功したという。
また、同通信は制裁回避のため、ソ連崩壊後に一時行われたバーター(物々交換)取引がロシアで復活したと報道。ロシア産小麦と中国の車が同取引で交換された事例を紹介した。
ロシアの経済発展省も2024年に企業にバーター取引の方法を伝える文書を発行。「国際的な決済を行うことなく」取引できるとして奨励した。
▽米国

都内でインタビューに答える中居孝文氏(共同)
ロシア経済などの調査・分析を行っているシンクタンク「ロシアNIS経済研究所」の中居孝文所長は、制裁回避のため、マージナル(周縁的)な存在が使われるようになっていると指摘する。
金融決済については、ロシアは極東やシベリアの、中国は黒竜江省や吉林省などロシアとの国境近くの、それぞれ中小の銀行を使い、欧米の制裁の目が届かないよう図っている。
また、カザフスタンやキルギスなど中央アジアやアルメニアなどを経由した取引が行われているほか、特に航空機部品などについて、ロシアの同盟国ながら制裁が比較的緩いベラルーシを経由した取引への懸念も高まっているという。
同氏はまた、トランプ政権となり、米国でロシア企業の資産を捜索する司法省タスクフォースが解散させられるなど、制裁実施機関の解散・縮小が続いており、米国の対ロ制裁が後退する可能性にも懸念を示した。