100円セールを脱却「ミスド」奇跡の復活の裏側

そうそうたるブランドの手土産が200円!?, ドーナツを「覆い隠す」逆転の発想, 「100円セール」が招いた“悪夢”, 「いいことあるぞ」なミスタードーナツへ

バラエティ豊かなドーナツが並ぶミスタードーナツのショーケース(写真:ダスキン提供)

ライター・編集者の笹間聖子さんが、誰もが知る外食チェーンの動向や新メニューの裏側を探る連載「外食ビジネスのハテナ特捜最前線」。今回は3回にわたって、ミスタードーナツ(ミスド)の強さの秘密に迫ります。
前編となる本記事では、コラボレーションメニュー誕生秘話を深掘り。フードグループ15億円赤字からの回復を牽引した、開発の裏側に迫ります。

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そうそうたるブランドの手土産が200円!?

いつもハズレなし。200円台と手頃な価格で、かなり喜ばれる手土産がある。ミスタードーナツの期間限定コラボレーション商品だ。

祇園辻利、ピエール マルコリーニ、Toshi Yoroizuka、ポケモン……。そうそうたるラインナップで、味も見た目も、満足度は普通のドーナツの2~3倍くらいある(と、筆者は感じている)。

特に筆者が贈った先で好評だったのは、京都の老舗茶舗「祇園辻利」とのコラボ商品だ。2025年春に発売された「ポン・デ・ダブル宇治抹茶」は、自分自身もハマって何度もリピートした。

もっちりやわらかな生地に宇治抹茶が練り込まれ、表面にも、上品な抹茶チョコがコーティングされたひと品。生地とチョコの両方から押し寄せる、ほろ苦い抹茶の風味があとを引くおいしさだった。

こんなふうに完成度の高いコラボ商品は、どのように生まれているのか。運営会社の株式会社ダスキン ミスタードーナツ事業本部 企画開発本部 巖(いわお)美里さんに聞いた。

そうそうたるブランドの手土産が200円!?, ドーナツを「覆い隠す」逆転の発想, 「100円セール」が招いた“悪夢”, 「いいことあるぞ」なミスタードーナツへ

(左)2025年春に発売された「ポン・デ・ダブル宇治抹茶」。(右)2023年冬にToshi Yoroizukaとのコラボで生まれた「トリオレショコラ」は、上品なチョコレート風味と、生地のサクホロ&しっとり食感が魅力だった(写真:ダスキン提供)

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ミスタードーナツでは年に3~4回、他ブランドとのコラボ商品をつくっている。春は抹茶、夏と年末年始はキャラクター、冬はショコラなど、シーズンによってジャンルが決まっている。

発売期間は約2カ月間で、登場するアイテムは4~8個。第1弾、第2弾と、1カ月ずつずらして発売する場合も。

販売個数の内訳を見ると定番商品が6割、コラボ商品が4割ぐらいになり、コラボ商品の人気がうかがえる。

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(左)2024年冬、ポケモンとコラボした「ピカチュウ ドーナツ」。見た目のかわいさもさることながら、カラメルカスタード風味のチョココーティングのおいしさも評判だった。(右)2025年のバレンタインシーズン、ピエール マルコリーニとコラボした「ショコラ ノワール」。ビターなガナッシュクリーム風味としっとりチョコレート生地の相性が抜群だった(写真:ダスキン提供)

なぜそんなにもコラボ商品は売れるのか。

「人気の理由のひとつは、『監修』ではなく『共同開発』であることではないでしょうか」と巖さんは分析する。共同開発とは、文字通り一緒に作り上げるということ。手順はこうだ。

まず、企画ごとに商品開発室から専任担当者が決定。コラボ先企業から「特徴や大切にしていること、こだわり」をヒアリングするところからはじめる。担当者はこの内容を生かして、新ドーナツ専用の生地やトッピングなどの開発に着手する。

次に、コラボ先企業に、試作品の味と見た目、食感を確認。「フィードバックを反映し、良いところを磨いていく」作業を繰り返す。さらに最終、社内外で広く試食調査を実施、その意見を反映して完成に至る。

構想から発売までの期間は短くても1年、長くて3年と、かなりの時間がかけられている。

ドーナツを「覆い隠す」逆転の発想

コラボ商品の開発においてルールはなく、自由度が高い。2017年からはじまった祇園辻利とのコラボでは、ドーナツを「パッケージで覆い隠す」大胆な施策を取った。

ミスタードーナツといえば、ガラスのショーケースに美しく並んだドーナツの「顔を見て買ってもらう」のが伝統である。色とりどりのグレーズ(糖蜜)、チョコレートのツヤ、ポン・デ・リングの愛らしい形──それらが視覚に訴える販売手法はミスタードーナツの強みのひとつだ。

その常識を180度転換したのだ。

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2024年の祇園辻利とのコラボで使われた「ドーナツを覆い隠す」パッケージ(写真:ダスキン提供)

理由は、ショーケースの明るい照明下では宇治抹茶の風味が劣化し、色もあせてしまう可能性があるからだ。抹茶の風味と色を重視する祇園辻利の姿勢が、ミスタードーナツの創業からの伝統を変えた。

商品開発と同時に、TVCMや広告、SNSなどの戦略も練られる。「コラボ先の商品の最大の特徴を伝えられる」ビジュアルやメッセージが考案され、発売1週間ほど前から告知が展開される。

こちらも祇園辻利のコラボを例にすると、抹茶が練り込まれた生地が特徴の際には、「ドーナツを割り、生地の断面」をキービジュアルにする手法がとられた。見た目の美しさやおいしさはもちろん、技術力と品質の高さも、視覚的に表現したい狙いだったという。

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「抹茶が入った生地の断面」がキービジュアルとなったポスター(写真:ダスキン提供)

加えて、メディアに向けて年に数回発表会も実施。発売前に事前試食をしてもらって生の声をレビューしてもらい、話題化につなげている。

ところで、開発においては驚くことに、性別や年齢など購買客のペルソナは決めないそうだ。少しはあるのでは……と何度も尋ねたが、「ミスタードーナツは老若男女に愛されるブランドです」と譲らなかった。ほかのドーナツにおいても、それは同様だという。

「100円セール」が招いた“悪夢”

コラボドーナツが生まれたきっかけは2016年、ミスタードーナツ史上一番の危機が訪れたことにある。

ミスタードーナツを含むフードグループ全体で、2015年に約2億円、2016年に約15億円、2017年に約7億円と、累計約24億円の赤字を計上したのだ。原因は、月2回実施していた「100円セール」にあった。

外食産業全体が価格競争に走る中、ミスタードーナツも同じ道を選択したそうだ。しかし振り返れば、この判断がブランドの価値を下げていた。

「1店1店で朝からキッチンで手づくりしているドーナツを、安価で販売してはいけなかったんです」

長年愛されてきたオールドファッションやフレンチクルーラーが、いつしか「100円の価値」として刷り込まれてしまっていた。顧客も「安いときだけ買えばいい」と学習し、通常価格では買わなくなっていた。

そうそうたるブランドの手土産が200円!?, ドーナツを「覆い隠す」逆転の発想, 「100円セール」が招いた“悪夢”, 「いいことあるぞ」なミスタードーナツへ

定番商品として親しまれているドーナツたち(写真:ダスキン提供)

「ほかに客を奪われたのではなく、私たち自身で価値を下げる結果となってしまいました」、ーーこの言葉は重い。

手づくりの技術、厳選された素材、50年の歴史ーー。本来は高い価値を持つこれらの要素が、100円セールによって「安売り商品」のイメージに取って代わってしまった。そのため、ブランドの独自性が失われ、顧客離れが加速していったのだ。

そこに追い打ちをかけたのが、立地戦略の失敗だ。駅前再開発などで生活動線が変化するなか、「客がいるところに出店できていない」状況が続いていた。創業から積み上げてきた立地という資産が、時代の変化についていけずに重荷になっていたのだ。

1店舗あたりの売り上げは減少し続け、これに伴って店舗統廃合を余儀なくされた。店舗数減少がさらなる売り上げ低下を招く、負のスパイラルに陥った。

店舗数は、2015年の1317店から、2016年には1271、2017年には1160、2018年は1086店。2020年にはついに1000店を割って、977店まで激減した。

そうそうたるブランドの手土産が200円!?, ドーナツを「覆い隠す」逆転の発想, 「100円セール」が招いた“悪夢”, 「いいことあるぞ」なミスタードーナツへ

安売り戦略と出店戦略の失敗で店舗数は急減。だが、2021年を底に再び増加に転じている(画像:ダスキン提供データより引用し筆者作成) 【注】拠点数は同社運営の拠点、子会社が運営する拠点およびフランチャイズ加盟店が運営する拠点の合計で積極店舗数で掲載(海外拠点数は、一部休店店舗数が含まれる。海外拠点数は12月末現在)。拠点数には直営店の事業を兼業する店舗があるため、全事業拠点数の合計は実際の店舗数とは異なる

「いいことあるぞ」なミスタードーナツへ

「このままでは、FC加盟店の信頼を裏切ってしまう」

2016年、経営陣は覚悟を決めた。100円セールの完全廃止だ。単なる価格政策の変更ではない。長い歴史を持つ老舗ブランドが自らの価値を見つめ直し、再定義する決断だった。

「もう決して100円でドーナツを売らない。ドーナツの商品価値を強化していこう」

目指したのは、「ちょっと懐かしいミスタードーナツ」から、「ワクワクする気持ち」や「居心地のいい空間」を変わらず提供しながらも、商品やサービスを通じて、客にたくさんの“いいこと”を感じてもらえるブランドへの進化だ。

言うは易しだが、実現は簡単ではない。商品、店舗、広告、社員の意識、そのすべてを変える必要があった。そうして2016年、「いいことあるぞ ミスタードーナツ」を新スローガンに、3つの改革がスタートする。

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