「役職なし・給与激減」それでも60代が働き続ける“リアルな理由”とは?【調査で判明】

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ミドルシニア世代にとって避けられない「ポストオフ」という現実。役職を失うことで給与や影響力の減少は避けられないが、重責からの解放や新たな挑戦の機会も生まれる。定年後シニアの働く目的から見えてくる、人生後半戦のキャリア設計のヒントとは──。※本稿は、坂本貴志・松雄 茂著『再雇用という働き方 ミドルシニアのキャリア戦略』(PHP研究所)の一部を抜粋・編集したものです。

ポストオフの前後で

最も大きな変化とは

 ミドルシニア期におけるポストオフという環境変化。役職を降りることによって立場や目標、手当など、さまざまなものを失う。その代わりに得られるものはあるのだろうか。ポストオフされた人たちは、実際に何を感じているのか。ポストオフによって失ったもの、得たものは何か。

 リクルートマネジメントソリューションズによるアンケート「ポストオフ経験に関する意識調査」を見ていこう。図表3-10は、現在の仕事における、ポストオフ前と比較したときの変化についての回答である。

同書より転載

 最も多かったのは「賃金」(82.8%)だった。続いて「周囲からの期待」(56.1%)、そして「仕事量.労働時間」(52.9%)、「人事評価」(51.2%)と続く。

「一日に会話する人の数」は、「下がった・減った」と「変わらない」の割合は半々程度。「自分で判断し、主体的に進める度合い」「顧客満足や組織業績の向上への影響力」「仕事の成果の見えやすさ」「新しいことを勉強する時間や機会」は「変わらない」とする割合のほうが高い。ひとくちにポストオフといっても、変化を感じている内容は多様である。

「失ったもの」以上の

「得たもの」とは?

 さらにこの調査では、ポストオフによって「失ったもの」と「得たもの」を尋ねている。こちらの回答も非常に興味深い。役職を外されたことによるマイナスの面もあれば、プラスの面もあることがよくわかる結果となっている。一部抜粋してみよう。

「給与が下がり、影響力がなくなった。一方、これまで考えたこともなかった新しい職務にチャレンジするのは、少し楽しい」(53歳男性・事務系・部長ポストオフ)

「仕事へのモチベーションがこれほど減るとは思わなかった。ただ、新しい業務へのチャレンジは毎日が勉強で、それはそれで面白い」(57歳女性・事務系・部長ポストオフ)

「みなぎる気力というか、ぎらぎらするものがなくなったと感じることが多くなっている一方で、優しい気持ちが出てくるようになった」(61歳男性・事務系・部長ポストオフ)

「会社からの成果の期待減によりモチベーションが失われた一方、会社内外へ個人の能力をアピールすることの重要性に気づきました」(53歳男性・技術系・課長ポストオフ)

「会社員としては、さまざまなことを失った(否定された)。プライベートの時間は得た」(52歳男性・事務系・課長ポストオフ)

「年齢によるものなので邪魔をしてはいけないと思うが、役職によってはまだ一線にとどまっている人もいることからすると、自分に足りなかったものは何だったのかと考えてしまう」(55歳男性・技術系・課長ポストオフ)

 調査の結果を概観すれば、給与や周囲の期待、影響力が減じ、時間や自由、余裕を得たという趣旨の回答が散見される。

役職の重責から解放され

挑戦も発言も自由にできる

 大きくやる気が失われた一方、重責から解放され挑戦や発言しやすくなった、優しい気持ちを言葉にしやすくなったといった回答も見られ、役職者として担う責任の重圧や、それゆえの張り合いの大きさ、それらから解放されて生まれる余裕や空白の大きさがうかがわれる。

 この結果を見ていて感じるのは、ポストオフによって失うものを受け止めると同時に、ポストオフによって得るものに光を当てる重要性である。

 役職を外されても、自身のすべてを失うわけではない。会社員としては、さまざまなことを失い、否定されたというコメントもあったが、ポストオフは単にポストの数が有限であることなど組織上の都合によるものがほとんどだ。

 また、ポストオフになった原因は何なのだろうかと逡巡してしまう心境になるのも致し方ないことではあるが、第一線にとどまっている同世代の人もいずれは必ずポストオフされるのである。

 その人が並外れて優秀だというのではなく、たまたまそのポストに替わる人材がいなかったというケースがほとんどであって、ポストオフの対象となった従業員の人格が否定された結果ではないのである。そう考えれば、ポストオフになる時期に差があったとしても、その差異は2年早いか、3年早いかといったわずかな時間的な差にすぎない。

 失ったものもあるけれど、それと同様に得たものもある。そう感じられるようになった瞬間には、もうポストオフ後のトランジションは成立していると考えてよいのではないか。

 当初は失ったものばかりが見えてしまうが、新しい職務や現場仕事へのチャレンジ、時間的・精神的な余裕、重責からの解放などによって、得たものもあることに次第に気づけるはずである。

 ポストオフされた瞬間に「いずれ必ず来るものだとわかっていた。これからは違う角度で仕事や私生活を楽しもう」と、すぐに考え方を切り替えられる人は少ないだろう。ポストオフになった人同士で飲みに行って話したりすれば、会社や上司の悪口のオンパレードになることもあるかもしれない。

 どうしたら考え方をうまく変えることができるのかは難しいポイントであり、ある程度の時間がかかることは多くの人が証言しているところでもある。

 しかし、それでも多くの人が自分なりに時間をかけながらではあるものの、仕事をしていく中で緩やかに考え方を変えていくのである。

「世の中はこうやって動いているんだ」「企業はミドルシニアをこんなふうに考えているんだ」「家計の問題もいずれは解消するんだ」と、自分や会社、世の中の流れをロングレンジで冷静に受け止めていく。そんな心持ちが必要になってくるだろう。

 ポストオフ後の意識改革に関するキャリア研修を実施する企業も、徐々に増えてきている。

 これまでは「高齢者に研修をしても費用対効果が低い」「今さら学ばない」と考える企業がほとんどだったが、近年はミドルシニアに対して一人前のプレイヤーとして働いてもらいたいと考える企業も増え、リスキリングのための専門教育や、ポストオフ後の意識転換を促す研修が増えてきている。このような取り組みがあるかないかによっても、ポストオフされたミドルシニアのモチベーションは変わってくる。

60歳以上の人が

「仕事をしたい理由」とは

 次に紹介したいのが、図表3-11である。これは2023年にリクルートジョブズリサーチセンターが、60歳以上の人を対象に「仕事をしたい理由」というアンケート調査をした結果である。定年後のミドルシニアは何を目的として働いているのか。興味深い結果が出ている。

同書より転載

 1位は「生計の維持のため」(41.9%)、2位は「健康維持のため」(38.0%)、2位は「自由に使えるお金(お小遣い)の確保のため」(34.7%)、4位は「社会とのつながりを得るため」(32.5%)、5位は「家計を補助するため」(31.5%)。この5つの回答が特に多かった。

シニア期の小さな仕事は

健康維持も期待できる

 この結果を見てもわかるように、現役時代のように高い給与が欲しいというわけではないが、高齢期もある程度の仕事をして、それなりの稼ぎを得たいという人が多い。

 この調査は、2016年、2018年、2021年にも実施されている。「生計の維持のため」という項目は、2016年は36.5%だったが、2023年は41.9%まで上昇している。現代においては年金の給付水準が厳しくなっている。

『再雇用という働き方 ミドルシニアのキャリア戦略』 (坂本貴志・松雄 茂、PHP研究所)

 また、寿命も伸びているので、シニアになってもある程度は稼がなくてはいけないという意識もあるのだと思われる。

 また2位の「健康維持のため」、4位の「社会とのつながりを得るため」、7位の「暇な時間をつぶすため」という項目からは、現実問題として仕事をしないと健康を維持できない、ひきこもりになってしまう、社会とのつながりがなくなってしまう、時間を持て余してしまう、といった不安やリスクがあることがわかる。

 そういう意味では、ミドルシニア期の経験を経て「小さな仕事」に移行していく中で、心身の健康を保っているという側面も大きいのだと考えられる。

 現役時代のようにがむしゃらに働きたいと考えているわけではないが、仕事がないとそれはそれで困る。お金に関してはもちろん、社会的なつながりや健康面を考えても、ある程度の仕事を無理なくこなしていきたい。このように考えている人が多いのだろう。