「吉野家」ラーメン店との初コラボに見る"新戦略"

「とんこつ醤油牛鍋膳」を食しに、さっそく吉野家へ行ってみた(筆者撮影)

2025年10月17日、「吉野家」が新商品「とんこつ醤油牛鍋膳」を全国で発売開始した。

【写真】発売したての吉野家「とんこつ醤油牛鍋膳」、クオリティの高さにラーメンライターも驚き!

一見すれば、いつもの“「吉野家」鍋メニュー”の延長線上のものに見える。しかし、その中身を紐解くと「吉野家」の新たな方向性が見えてくる。監修したのは、吉野家ホールディングスの傘下にあるラーメン店「ばり嗎」だ。

「吉野家」が店舗でラーメン店とタッグを組んで商品開発したのは今回が初めて。そこには、単なる期間限定メニューの枠を超えた戦略的な意味がある。

吉野家HD、うどんに続きラーメンを第3の収益源へ

吉野家HDはここ数年、ラーメン市場に対して着実に布石を打ってきた。牛丼を主軸に、うどん業態の「はなまるうどん」を第2の柱として育ててきた同社だが、第3の収益源として「ラーメン」に照準を合わせている。

既に「ばり嗎」を展開するウィズリンクを完全子会社化し、さらに東京の人気店「せたが屋」などもグループに迎え入れている。M&Aによって多様な味の資産を取り込み、それをグループ全体でどう生かしていくか。それが今、吉野家HDが描く中長期戦略の核心にある。

ラーメン市場は依然として競争が激しく、個人店から大手チェーンまで参入が絶えない。しかし同時に、成熟市場の中でも“味のブランド化”が進んでおり、一定の支持を得たブランドは安定した収益を上げやすい。吉野家HDがラーメン事業に注力する背景には、業態の多角化だけでなく、クオリティの高い味を提供することでブランド価値を高めるという狙いもある。

今回の「とんこつ醤油牛鍋膳」は、グループ内のラーメン店との連携による初の商品化だ。監修を担当した「ばり嗎」は中四国・近畿を中心に展開するとんこつ醤油ラーメンチェーンで、国内外に計48店舗を構える。

この店のラーメンの特徴は、豚骨と鶏ガラ本来のうま味を最大限に引き出した濃厚スープにある。そのコクとうま味を、「吉野家」の牛肉と組み合わせることで、これまでの牛鍋膳にはなかった新しい深みを生み出している。

「ばり嗎」のとんこつ醤油をベースにした「とんこつ醤油牛鍋膳」は満足度が高い(筆者撮影)

「とんこつ醤油牛鍋膳」の味の主軸となるスープは、「ばり嗎」のとんこつ醤油をベースに、牛肉や白菜などの定番具材を加えて仕立てたもの。そこに約1玉分のニンニクをフライ・おろし・刻みの3種でブレンドした別添の「にんにくマシマシだれ」を合わせることで、パンチと中毒性を演出している。

いわば牛丼屋が本気で作ったラーメンのうま味鍋であり、家庭的な鍋とも、専門的なラーメンとも異なる、新しいカテゴリーの料理といえる。

なぜラーメンでなく「鍋メニュー」として登場?

興味深いのは、今回のコラボがラーメンではなく「鍋」という形で登場した点である。「吉野家」は今年7月に「牛玉スタミナまぜそば」を発売し、麺メニューでの実験をすでに行っている。だが今回はあえてラーメンではなく、スープを中心とする鍋仕立てにした。この判断の裏には、「ラーメンの味をどう既存業態に溶け込ませるか」という経営的視点がある。

7月から発売した「牛玉スタミナまぜそば」(筆者撮影)

牛丼チェーンという既存フォーマットを崩さずに、ラーメンのうま味を導入する。そのことで、厨房設備やオペレーションを大きく変えずに新しい味体験を提供できる。つまり、グループの強みを最大限に活用した効率的な商品開発である。「鍋」という形態は、ラーメンの要素を残しながらも丼業態の範囲内に収まる、絶妙な落とし所だったといえる。

実際の味わいも高い完成度を誇る。コク深いとんこつ醤油スープが牛肉の脂と溶け合い、ニンニクの刺激が食欲を加速させる。ごはんが進む濃厚な味ながら、スープ自体にはバランスがあり、重すぎず最後まで楽しめる。具材に平打ちのうどんが入っているところもセンスが良い。

“牛丼屋で食べるラーメン鍋”という異色の組み合わせながら、どこか「吉野家」らしい安心感がある。食べ終えた後には、鍋メニューとしての満足感と、ラーメンを食した時の余韻が共存している。

“社内コラボ”でブランド資産を最大活用

「とんこつ醤油牛鍋膳」を皮切りに、新たな展開も見られそうだ(筆者撮影)

このラーメン的な体験を、既存店舗で提供できる点が今回のコラボの肝だ。つまり、「ばり嗎」という自社ブランドを店舗数48店の枠から、全国1200店の「吉野家」網に乗せることができるわけである。これは単なるコラボではなく、ブランド資産の最大活用だといえる。

今後、吉野家HDは傘下の他ブランドとの連携も視野に入れているとみられる。グループ内における各ブランドの味や技術を横断的に活用し、既存業態の商品開発に反映する。これは、外食産業では珍しい社内コラボモデルである。

ラーメン事業を単なる別業態として展開するのではなく、そのノウハウを牛丼、うどん、鍋など他事業に還元していく。これはグループ内のシナジーを最大化する新しい試みであり、単一ブランドでは生み出せない商品群を創出する可能性を秘めている。今回の「とんこつ醤油牛鍋膳」は、その第一歩として位置づけられるだろう。

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