再エネ普及の切り札「蓄電所」導入進む 資源乏しい日本で収益チャンス拡大も… カギを握る「接続待ち」とは
電気が余る時間帯にためて、需要に応じ送電線に電気を供給できる蓄電所が全国で増えつつある。蓄電所は太陽光や風力など再生可能エネルギーを普及させる切り札ともいえ、国も推進する。再エネは、原発推進論者から「不安定だ」と批判されがちだが、蓄電所と組み合わせれば、その欠点を克服できる。首都圏でも整備が進む蓄電所の現場を取材した。(浜崎陽介、荒井六貴)
◆「ビジネスとして収支ラインに乗るようになってきた」

ノーバル・ソーラーが設置した蓄電所=茨城県取手市
茨城県取手市の比較的、交通量が多い市道沿い。白いコンテナのような建物(幅8.8メートル、奥行き1.7メートル、高さ2.8メートル)がフェンスに囲まれ、ポツンと建っている。全国25カ所で太陽光発電を手掛ける会社のノーバル・ソーラー(茨城県つくば市)の蓄電所だ。
すぐとなりには、ノーバル社の太陽光パネルが並ぶ。周りは木々が生え、住宅はない。使用する蓄電池は米テスラ社製といい、蓄電容量は3854キロワット時で2人以上世帯の1日平均電気使用量で換算すると、約300世帯分をためられる。電力は多少のロスはあるものの数カ月でもためられるが、今は毎日、充電と放電を繰り返しているという。
「蓄電池のコストが下がり、ビジネスとして十分収支ラインに乗るようになってきた」。ノーバル社の平文(ひらふみ)俊全(しゅんぜん)社長はそう説明する。2012年ごろから太陽光発電事業を始め、早くから蓄電池の必要性を感じていたというが、長らく値段が高く、手を出せなかった。だが、東京電力管内の蓄電施設に補助する東京都の制度を活用し今年6月、蓄電所の運用を開始した。
取手市のほかにも、同じ県内の常総市で中国の電池大手・寧徳時代新能源科技(CATL)製の蓄電池を使用し、蓄電所を運営する。
◆「資源が乏しい国…少しでもエネルギー自給を」

ノーバル・ソーラーが設置した蓄電所。近くには太陽光発電のパネルもある=茨城県取手市
2011年3月の東京電力福島第1原発事故後、太陽光発電が普及したことで、春を中心に電力供給が需要を大きく上回り、電気を捨てる出力制御が各地で頻発している。再エネ事業者にとっては、収益を得られなくなり、普及に水を差すことにもなる。
この問題の解決に導く一つが蓄電所だ。例えば、電気が余る昼の時間に充電し、太陽光がなくなる夜に送電線に電気を供給することができる。平文社長は「このまま社会全体で太陽光発電所だけをつくり続けても、需要と供給のカーブが合わず産業自体が成り立たなくなる。バランサーが必要だと思っていた」と蓄電の意義を強調する。
その上で「より大型の蓄電所もつくっていきたい。資源が乏しい国なので、少しでも多くエネルギーが自給できるようになればいい」と意気込みを語った。
◆異業種からも参入 東急建設が相模原で運営

東急建設が昨年から稼働させた相模原蓄電所=相模原市で
蓄電事業がもうかる仕組みになってきたため、異業種からも参入する動きも出てきている。
東急建設は、自社の相模原工場(相模原市)の敷地内で昨年7月、蓄電所の運用を始めた。二つの大きな直方体の建物(幅6メートル、奥行き2.5メートル、高さ3メートル)があり、蓄電池が納められ、蓄電容量は計4064キロワット時。現場では、室外機のような大きな音が響く。熱を逃す冷却ファンの音だという。
蓄電池のとなりには、小型の四角い箱が20個、等間隔に配置されている。これはパワーコンディショナーといい、蓄電池に充電するための「直流電力」を家庭などで使える「交流電力」に変換している。さらに、電圧を調整するキュービクルといった設備も設けられている。
◆太陽光と違い「収益の約束は一切ない」
東急建設の再エネ事業推進グループのリーダー渡辺大介さんは「新規事業として太陽光発電を始めて、その欠点を補うために蓄電事業を両輪でやることにした」と経緯を話す。運用から1年が経過しこれまでのところ、見込み通りの収益が得られているという。導入にあたっては都の補助金を活用した。相模原の他にも複数箇所で蓄電所の設置を決定済みという。

電力を家庭用に使えるよう、変換する蓄電所の設備=相模原市で
発電した電気を売買する「卸電力市場」と需給バランス維持のために電力の調整力を売買する「需給調整市場」で取引しており、来年度からは、4年後の供給力を取引する「容量市場」にも参入する予定だ。
「どの市場で取引するかという比率や、蓄電や放電の時間帯、入札価格などを月に一回ほど見直しながら計画を立てている」と渡辺さん。この指示に従い、日々の入札業務などは委託先の関西電力の子会社「EーFlow」が担う。運用の計画を立てるのに当たり、各市場の知識や的確な判断が求められるため、東急建設では専門性のある人材の採用にも力を入れている。
ただ、課題もある。渡辺さんはその一つに、設備の納期や送電線に接続するまでの期間が長期化していることを挙げる。また、20年間の買い取りが約束されていた太陽光と違い、蓄電については「収益の約束は一切ない」と話す。制度変更も頻繁で、将来的に収益が左右されかねないというリスクもある。
◆設置意欲高い事業者 原発20基分が工事待ち
全国の送電網に接続する蓄電所の総出力は43万キロワットで増え続けている。まだ原発1基分にも満たないが、送電線に接続させる作業を待っているのが原発20基分に当たる約2000万キロワットに上ることが分かった。東京新聞が全国の送配電会社の最新のデータをまとめた。蓄電所を設置する事業者の意欲は高いが、接続のためのインフラ整備が追いついてない実態が浮かぶ。

全国9エリアの送配電会社のデータ(10月7日現在)によると、最も蓄電所の出力が大きいのは北海道で19万キロワット、次いで東京の8万キロワット、関西の7万キロワットとなった。事業者が採算性を判断するなどし送電線への接続契約を申し込む「接続待ち」は2035万キロワット。うち最も多くを占めるのが東北(409万キロワット)で、東京(407万キロワット)や九州(358万キロワット)が続く。
経済産業省資源エネルギー庁新エネルギーシステム課によると、「接続待ち」が膨らみ、接続がなかなか進まないのは、送電線への接続工事に時間がかかっているからだという。工事には道路を使用することもあり、手続きに時間がかかる。
◆「蓄電所は再エネ普及のカギになる」
課の担当者は「電気を通す送電線の増強も必要になっている。例えるなら、血液を流す血管を太くするようなものだ。接続工事が進まないのがボトルネックになっている」と説明。蓄電所の接続は、技術的に不可能ではない限り、断れないルールになっている。
最多の接続待ちを抱える東北電ネットワークの担当者は「急激に申し込みが増えている。さまざまな調整があり、一気に接続するのは難しい」と説明する。
蓄電所に詳しい自然エネルギー財団の工藤美香主席研究員は「蓄電所は太陽光が発電しすぎている分をためることもでき、再エネ普及のカギになる」と強調。その上で、接続工事で時間がかかっている点に「送電線の増強が間に合わなくても、暫定でどんどん送電線に接続していくのも手だ。電気の需要が多い時に充電しないようにするなどの条件を付ける必要があり、その際は、事業者側にとって収益にも影響が出るので、情報提供が必要になってくる」と指摘する。
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