コメ価格は「集荷競争」の中で上がっていった…生産農家が巻き込まれた騒動 「勝者不在」の現場を歩いた
〈連載 コメ価格の現在地〉前編
コメ価格の高騰が続いている。農林水産省は今年の新米の収穫量が需要を大きく上回ると見通し、コメ不足の不安払拭に努めるが、今のところ値下がりの気配はない。首都圏最大のコメの産地・茨城と最大の消費地・東京で何が起きているのか、現場を訪ねた。(佐野周平、白山泉)
◆提示された上積み額に「思い切ったなぁ」
「今年はJAの買い取り価格にプラス1000円でどうですか?」
新米の収穫も始まっていない8月。茨城県有数のコメどころ、筑西市で農業法人「山善農園」を営む杉山善昭さん(40)の携帯電話が鳴った。昨年も取引した卸売業者からだった。

工場で作業する杉山善昭さん=茨城県筑西市で(佐野周平撮影)
これまでの業者との取引では、JAが提示したコメ60キロ当たりの買い取り価格にプラス500円程度の上乗せが相場。「1000円は思い切ったなぁ」と価格競争の過熱ぶりに驚く半面、「本当にコメが足りないんだな」とも感じた。今年出荷した新米約250トンのうち、約150トンはJAではない別の業者に卸した。
土浦市の米農家、滝田賢治さん(48)は今年、売り時を見極めるため、JAと業者の提案がほぼ出そろうまで静観を続けた。昨年の苦い経験があるためだ。JAが提示した前払い金は60キロ2万5500円と満足のいく価格だったが、その後に米価が急騰。3万円を提示してくる業者もあり、早めにJAと契約したことが悔やまれた。

米価の高騰を「農家主導で駆け引きできるようになった」と歓迎する滝田賢治さん=茨城県土浦市で(佐野周平撮影)
昨年は卸先の7割がJAだったが、今年は3割に減らし、7割がJA以外の業者。「『コメを売ってください』とお願いされる立場に変わり、農家主導で駆け引きできるようになった」と現状を歓迎する。
◆集荷競争の背景にある「供給する責任」
こうした中、筑西市を管轄するJA北つくばは、農家からのコメの買い取り価格を引き上げた。コシヒカリなら1等米が60キロ3万4500円。前年比でほぼ倍増した昨年から、さらに8500円も高い額だ。買い取り価格の高騰は、新米価格の高止まりを招く要因となっているが、JAにも焦りがある。JA茨城県中央会の八木岡努会長は「学校や病院などに年間を通して安定的に供給する責任がある。業者に買い負けないようにするには、それなりの価格を提示するしかない」と事情を説明する。

コメの在庫がなくなった昨夏の出来事は記憶に新しい。東京の米流通関係者は「農水省の作況指数が実態とずれていたこともあり、全国のJAが契約生産者からお米を集められなかった」と振り返る。農水省の資料によると、コメの流通経路が多様化する中、2024年産はJAを中心とする集荷業者が仕入れたコメの量が激減。安定した調達ができない中堅外食チェーンなどが高い価格を提示して数量を確保しようとしたとみられる。
ただ茨城県の集荷業者の男性(50)によると、高値で買い集めたが、卸先が見つからず、買い取り価格より安い値段で卸した業者もあったという。取引のリスクが高まる一方で、「一昨年以前と利益はほぼ変わらない」と漏らす。
◆生産農家の「5年契約」提案は拒まれた

とはいえ生産者の不安も根強い。杉山さんは来年は、国が増産にかじをきったことで米価が徐々に下落に転じるとみる。その先には、1万円台前半で買いたたかれていた一昨年以前のような状況が再来するのではないか。今秋、業者に「2万5000円固定で5年契約」と長期的な価格保証を提案したが断られた。「一過性で米価が急騰するよりも、ある程度の水準が安定的に続いてくれる方が、よっぽど助かる」と強調する。
「令和のコメ騒動」を招いた一因は、需給予測を見誤った農水省の対応の遅れだった。国が発信する情報が信頼を失い、不安定な米価に生産者が翻弄(ほんろう)される中、流通の下流では気になる変化も起きている。
【後編は22日朝に公開予定です】
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