「F1の下位互換」とは言わせない! 視聴者5.6億人突破、「フォーミュラE」が近年注目を集める根本理由

フォーミュラE成長の実力

 ABB FIAフォーミュラE世界選手権は2025年10月、シーズン11(2024/2025年)を過去最高の数字で締めくくった。累計テレビ視聴者数はシリーズ史上最高の5億6100万人に達し、前年から14%増加した。SNSインプレッションは13億9000万回を突破し、ファンベースは4億2200万人に達している。これらの指標から、フォーミュラEが確実に成長基調にあることがうかがえる。

【データ画像】「すげぇぇぇ!」 これがフォーミュラEの「成長記録」です! グラフで見る(6枚)

 一方で、フォーミュラEには依然として誤解も根強い。ネット上では

「F1の下位互換」

「音がしない」

「スピードが遅い」

といった声が散見される。従来型モータースポーツの爆音と比べると、静かな電動レースは異質に映る。しかし、都市型開催によって観客はマシンのすぐそばでレースを体感できる。街と一体化したコースでは、周囲の景観や街の空気もレース体験の一部となり、従来のサーキットにはない臨場感を提供している。

 さらに、フォーミュラEは従来のテレビ中継だけに依存しない観戦体験を提供する。SNSや動画配信を通じて、都市型レースならではのストリート感や都市景観とレースの融合が広く伝わる。こうした体験価値は、F1や他の従来型モータースポーツとの差別化要素となり、都市生活者や観光客を含む新しいファン層を取り込む力につながるだろう。

高コスト構造の限界

 モータースポーツ界を代表するフォーミュラ1(F1)が直面する課題は、数字だけでは測れない構造的な限界を抱えている。F1のファンベースは世界的に成長し、2024年には8億2650万人を超えた。ソーシャルメディアのフォロワーも急増し、1億人に迫る勢いである。

 しかし、1レースあたりの平均視聴者数は横ばいか、一部で減少傾向にある。2021年の平均は7030万人だったが、その後は中継がデジタルストリーミングに移行したため、従来の統計では把握できなくなっている。現在はテレビ観戦だけでなく、ハイライト動画やSNSフォロワーも含めた広範な視聴者がF1のファンとして再定義されつつある。

 F1の協賛スポンサーや参戦チームの年間コストは

「1~2億ドル(約150~300億円)」

に達する。参入障壁が高く、運営は高コスト構造に依存している。レース開催国は

・欧州

・中東

に偏り、グローバルにファン層を拡大するには限界がある。加えて、ハイブリッド化を進めているものの、化石燃料依存は依然として残る。脱炭素の訴求力も限定的で、環境対応の観点からも構造的な課題が浮き彫りとなる。

 マーケティング面では、F1特有の「音」や「スピード」に加え、

「ブランド神話化」

を重視する戦略が依然として中心である。しかし、こうした象徴的価値は現代のファンニーズに必ずしも合致しない。都市型レースのような新しい体験価値の提供に乏しいなか、F1はスピード追求の象徴から徐々に逸脱しつつあり、どのような価値を今後訴求していくかが問われている。

都市開催による高コスト構造

 フォーミュラEは都市中心部での開催に特化しており、従来型モータースポーツとは異なる挑戦を抱えている。

「電動 = 遅い」

「感動がない」

といった批判は根強く、F1エンジンの爆音に慣れた観客にとって、音のないレースは臨場感が乏しいと映ることもある。しかし、都市型開催は、観客とマシンの距離が最も近いモータースポーツという独自性を提供している点で大きな価値がある。

 一方で、都市型開催はコスト面での制約が大きい。

・サーキットの設営

・交通規制、

・騒音対策

には膨大な費用がかかる上に、行政手続きも煩雑である。さらに、安全規制や騒音規制の国際的強化リスクも抱えており、都市型イベントならではの調整力が求められる。

 また、F1ファン層の一部からは、フォーミュラEが

「サステナブル = 退屈」

と見られる逆風も存在する。電動化による環境配慮は評価される一方、観戦体験としてのエモーショナルな価値をどのように提供するかが、持続的な成長のカギとなる。都市空間を舞台にしたレースの成功は、単にスポーツとしての競技性だけでなく、都市政策や観光資源との連動に依存する構造となっている点も見逃せない。

高エンゲージメント層のデジタル戦略

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フォーミュラE・11シーズン参加ドライバー(画像:フォーミュラE)

 フォーミュラEは、開催地とファン層の特性を活かすことで差別化を図れる。F1が郊外開催を余儀なくされる一方、フォーミュラEは東京、上海、ベルリンなどの市街地に特化する。観客とマシンの距離が最も近いモータースポーツとして、体験価値を重視するファン層を取り込みやすい。

 来場者の58%は体験重視型の高エンゲージメント層であり、レース観戦だけでなく、イベント全体の演出やデジタル体験を通じて深く関与する傾向が強い。動画再生回数は前年から47%増加し、TikTokフォロワー数も37%増となるなど、

「SNSを起点としたファン化」

が進んでいる。ポスト放送型のメディア戦略は、観戦機会提供にとどまらず、都市型イベントの価値を高める手段としても機能している。

 さらに技術面での革新が、ファン体験を支える重要な要素となる。GEN3 Evoマシンは0-100km/h加速1.82秒でF1を上回る性能を誇るが、電動化の本質は加速だけにあるわけではない。エネルギー回生やバッテリー制御を駆使した戦略性が勝敗を左右する。こうした技術的挑戦は、観戦体験の知的刺激となり、ファン層の忠誠心やイベントへの没入感を高める役割も果たす。

都市政策と連動したイベント運営

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日産・アリアNISMO(画像:日産自動車)

 フォーミュラEに参戦する企業は

・日産

・ポルシェ

・ジャガー

など、電気自動車(EV)を軸とするメーカーが中心である。フォーミュラEで培った技術は市販EVへの応用事例もあり、新技術の実証場としての側面を持つ。日産はこれを「アリア・NISMO」のチューニングに応用し、開発効率やブランド価値の向上につなげている。

 開催地との連携も特徴的だ。東京E-Prixは自治体と協働して運営され、東京都の「ゼロエミッション東京戦略」の一環として、再エネ供給や公共交通最適化と連動する政策型イベントとして位置づけられている。モータースポーツイベントが

・都市政策

・観光

・テクノロジー展示

を統合した複合型インフラとして機能することで、都市型モータースポーツならではの価値を創出している。

 制度面でも革新性は際立つ。フォーミュラEはFIAの「ネットゼロ・パスウェイ」認証を取得した唯一の脱炭素型モータースポーツであり、CO2排出量の測定やオフセットの透明性は第三者機関によって評価される。環境パフォーマンスを競技の一部として組み込む仕組みは、従来型モータースポーツにはない都市型イベントとしての新しい標準を示している。

 こうした取り組みは、モータースポーツが都市社会の持続可能性と接続するモデルケースとして注目される要因となっている。

複合型都市インフラの形成

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東京E-Prixの様子(画像:フォーミュラE)

 フォーミュラEは、モータースポーツの枠を超えて自動車産業や都市社会全体に波及効果をもたらす可能性を秘めている。

 バッテリー冷却や再生制御技術は

「市販EVや公共交通への転用」

が可能であり、「走る」「止まる」「充電する」をデータ連携で最適化する技術は、都市交通DXの中核として活用できる潜在力を持つ。

 都市開発との連動も顕著だ。東京E-Prixは臨海副都心に新たなイベントインフラを形成し、モータースポーツが観光、エネルギー、テクノロジーを統合した複合型産業へ変貌する契機となった。都市の公共空間を活用することで、地域経済への波及や市民参加型の体験価値も生まれている。

 さらに、フォーミュラEの開催は市民意識の変革にもつながる。騒音や排ガスのないレース体験は、

「EVに対する心理的障壁」

を下げ、購入意欲を刺激する効果が期待できる。フォーミュラEは、環境政策の一環として都市生活の持続可能性を促すプラットフォームとして機能する点が、都市型モータースポーツの新たな価値である。

GEN4マシンと競技・商業の両立

 フォーミュラEはEVレースにとどまらず、持続可能な都市のプロトタイプとしての役割を担う。現代は成長の限界が前提となる時代であり、フォーミュラEは

「縮小を前提に設計されたスポーツ」

として独自性を持つ。限られた「空間」「エネルギー」「時間」のなかで最大の価値を生み出す設計思想は、都市社会の課題とも重なる。

 焦点は2026年に投入されるGEN4マシンにある。競技性と商業性の両立をどのように実現するかが問われると同時に、都市ごとの開催で生じる費用負担と経済波及のバランスを保つ課題も残る。市街地を舞台にした開催では、観光、交通、エネルギー政策との連携を深めることが重要であり、レース以上の価値創出が求められる。

 モータースポーツの未来は、従来のスピード追求とは直結しなくなりつつある。フォーミュラEは、新たなモータースポーツとして持続可能性を競う方向性を示している。かつてF1ファンから

「下位互換」

と揶揄されたフォーミュラEが、将来的に「上位互換」としてモータースポーツ界をけん引できるか――。その可能性は、2026年以降のレースによってさらに鮮明になるだろう。