【現金信仰の終焉】インフレ防衛で日本人の資産は株式や投資信託にシフト、家計金融資産に占める現預金は純流出

円の現預金はついに50%割れ目前に, 最も下落幅が大きかった円の現預金, 円の現預金は18年半ぶりの流出に, 依然50%を占める現預金はさらなる投資原資か

家計の資金は株式市場にも流れ込んでいる(写真:共同通信社)

(唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)

円の現預金はついに50%割れ目前に

 10月のドル/円相場は高市政権発足とともに150円台に復帰し、値固めに入りそうな雰囲気も感じられる。相変わらずリフレ政策への期待は根強く、今後もリスク資産を中心として価格が押し上げられそうである。

 この点、日銀から公表されている2025年6月末時点の資金循環統計(速報)は興味深い内容であった。今回は、「解放の日」以降で初となる家計部門の金融資産構成の状況である。

 既報の通り、家計の金融資産残高は2239兆円と過去最高を更新した(図表①)。四半世紀前(2000年6月末)と比較すると、金融資産自体は約+838兆円増加しており、これを円貨性資産と外貨性資産で分けてみると、前者が約+740.1兆円、後者が約+96.9兆円と、この四半世紀の伸びは圧倒的に前者でけん引されたことが分かる。

【図表①】

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 もっとも、総資産全体に占める構成比で見れば、外貨性資産(筆者試算)は1.0%から5.0%へ5倍以上に上昇する一方、円貨性資産は99.0%から95.0%へ▲4.0%ポイント低下している。外貨性資産の構成比が5%台に乗ったのは初めてである。

 なお、統計作成上、外貨建て生命保険が含まれている円貨性資産の保険・年金・定型保証は約566.1兆円と全体の25%を占めている。この5%部分でも外貨だとすれば、外貨性資産比率は6%を超え、10%部分と仮定すれば7.5%まで上昇する。それを踏まえれば、「日本の家計金融資産の10%程度は外貨」というイメージを持っておきたいところだ。

 外貨建て資産の増勢は、主に投資信託にけん引されたものだ。過去四半世紀で約6.2兆円から約63.8兆円へ金額で10倍に膨らみ、全体に占める構成比では0.4%から2.8%へ4倍に増えた。新NISAの稼働と、「オルカン」に象徴される世界株式に低コストで投資できるエントリー商品が家計部門の現預金を引きつけたのは間違いない。

 取引コストの低下によって増えたのは対外証券投資も同様だ。過去四半世紀において、外貨建ての対外証券投資は5.0兆円から40.5兆円と金額にして8倍、全体に占める構成比で0.4%から2.8%へ4倍に膨らんでいる。

最も下落幅が大きかった円の現預金

 なお、個別項目を見ると、四半世紀で構成比率の上昇幅が最も大きかったのは円貨性資産における株式・出資金(+3.7%ポイント)だ。2025年6月末時点では13.1%と初の13%台に乗せ、過去最高を更新している(図表②)。

【図表②】

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 既報の通り、その後も日経平均株価指数は断続的に過去最高値を更新しているため、次回(9月末時点、12月公表予定)データも比率が続伸している可能性は高い。

 かねて論じているように、デフレ最適からインフレ最適にポートフォリオの入れ替えが起きている状況にあり、これまではリスク資産と考えられていた外貨建て資産や株式・出資金が資産防衛のツールとみなされている実情が透けて見える。

 こうした中、最も下落幅が大きかった項目は円貨性資産の現預金で、53.4%から50.0%へ▲3.4%ポイントも落ちている。日本の家計金融資産は「半分が円の現預金」という構図が象徴的に語られてきたものだが、いよいよそれも変わろうとしている。

 もちろん、インフレに脆弱な資産である国債も3.5%から1.5%へ▲2.0%ポイントも低下し、水準では外貨建ての対外証券投資とほぼ変わらない水準だ。

 金融庁から公表されているNISA口座の年齢別シェア変化を踏まえると、これらの動きは30~50代の現役世代がけん引しているようだ。彼らの原動力は円ひいては日本経済への諦観がありそうであるから、ある程度、持続性を伴った動きになるかもしれない。

円の現預金は18年半ぶりの流出に

 以上はストックベースで見た家計部門の金融資産動向である。これに対しフローベースで見たものが図表③だ。筆者は定期的に、四半世紀で起きたストックベースの変化を確認しているが、同期間の推移をフローベースで確認すると、変化はより顕著に把握できる。

【図表③】

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 ストックベースの議論で確認したように、「半分が円の現預金」という状況は変わりつつあるが、この事実はフローベースで見るとより鮮明である。

 フローベース(過去4四半期平均)で見た円の現預金は、2021年3月末を境として経験のない落ち込みに直面している。2025年6月末には、前期比で▲246億円と、ついに流出に転じている。流出は2006年12月末以来、実に18年半(74四半期)ぶりである。

 当時は、2005年6月末から2006年12月末まで1年半(6四半期)にわたって現預金から流出が続いていたが、これは2005年4月のペイオフ凍結全面解除(解禁)という特殊な理由を受けた動きだった。

 ペイオフ解禁に伴い、決済用預金以外の普通預金および定期性預金の全額保護が解除され、破綻時の保護は1金融機関当たり預金者1人につき1000万円(+利息)までに制限された。現預金の相対的な安全性が低下した結果、他の資産クラス(株や保険など)に分散が発生したのは必然の帰結である。

 もっとも、2005~2007年は円安バブルとも称された時代であり、薄型テレビを筆頭として日本の輸出製造業が世界を席巻した最後の時代でもあった。そのため、株価上昇の恩恵も、期待できる時代背景も、預金からの資金流出を促した側面はある程度はあったと思われる。

依然50%を占める現預金はさらなる投資原資か

 しかし、今の局面における現預金からの資金流出は、そうした制度変更と資産運用環境の複合効果を受けた現象とは明らかに異なる。

 インフレの常態化によって「運用としての投資」ではなく「防衛としての投資」の必要性が意識される中、外貨、株式、投資信託が選ばれているのであり、同じ文脈で不動産の取得意欲も高まっている(図表④)。

【図表④】

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 なお、2002年から2003年にかけての急増は統計改訂による住宅ローン区分の明確化・再分類、フラット35の導入などが寄与しており、現在の増勢とはやはり比較できない。

 こうした動きの持続性を検討するにあたっては、減ったとはいえ、依然50%を占める円の現預金が投資原資として注目される。もとより円の現預金が過半を占めているという構図は欧米対比でユニークな状態である(図表⑤)。

【図表⑤】

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 2025年3月末時点の家計金融資産に占める現預金比率を見ると、11.5%の米国が特別に低いが、ユーロ圏全体でも31.8%と日本よりかなり低い。現状、日本のインフレ率は米国やユーロ圏よりも恒常的に高いという事実を踏まえれば、リスク資産、とりわけ円建て資産の目減りを警戒した上での外貨建て資産への資金シフトは当面継続しても不思議ではない。

 円相場にとっては当面のダウンサイドリスクとして「貯蓄から投資」の趨勢を見守ることになる。

※寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です。また、2025年10月24日時点の分析です

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中

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