マツダ「CX-80」は長年の夢なんです…開発者が明かす「次はベンツ」を覆す“逆転のシナリオ”
- 石垣島市長に「あ、あのマスクの……」と言われる
- 石垣島トライアスロン、死闘(?)の記録
- 「マツダの長年の夢」~顧客の離脱を防ぐラージ戦略
- マツダの利益の鍵を握る「アメリカ市場」
- 環境性能を追求するための6気筒エンジン
- 柴田さんが手がけたCX-5の大ヒットは「想定外」だった?
- 1999年当時、ディーゼルエンジンは完全に悪者扱いだった
- 「マツダ地獄」改め、「マツダわらしべ長者」?
- ガソリン6気筒、ディーゼル6気筒、プラグインハイブリッドの3種類
- アメリカはガソリンとEVが人気。日本で売れないPHEV
- 実は歴史が古い?3列シートのSUV
- 3列シートSUV、なぜ日本であまり普及しない?
- CX-8やCX-80の3列目はよくできている
- 家族5人以上じゃなくても、3列シートSUVはメリットが多い

マツダ「CX-80」は長年の夢なんです…開発者が明かす「次はベンツ」を覆す“逆転のシナリオ”
マツダのプレミアムSUV「CX-80」は、マツダの国内フラッグシップであり、2022年発売の「CX-60」に次ぐ「ラージ商品群」第二弾であり、日本国内で買えるマツダ車としては最も大きいサイズのクルマでもあります。CX-80の試乗記で、フェルさんは「マツダが大きいクルマを造るのは利益率が上がるからだ」と書いていましたが、いやいやその他にもきっと深い理由があるはず。CX-80の商品開発責任者に、そのあたりをじっくりと聞いてきました。(コラムニスト フェルディナント・ヤマグチ)
石垣島市長に「あ、あのマスクの……」と言われる
みなさまごきげんよう。
フェルディナント・ヤマグチでございます。
今週も明るく楽しくヨタ話からまいりましょう。
週末は、石垣島トライアスロン大会に出場してまいりました。

スタート前の沈んだ表情をご覧ください Photo by Ferdinand Yamaguchi
前夜からの大雨と強風。コンディションは最悪。バイクには昨年9月の大会以来、一度も乗っておらず、練習不足も甚だしい状況でした。「いっそバイクセクションが中止になればいいのに……」などと不埒なことも考えましたが、大会は容赦なく開催されました。
スターターを務める中山義隆石垣市長は、ご厚誼いただいている北海道名寄市の加藤剛士市長と盟友関係にあるお方。前日に加藤市長から連絡を取っていただき、スタート直前にご挨拶に伺いました。声がけすると、一言目が「あ、あのマスクの……」と。どのようにご紹介いただいたのでしょう……。

スターターを務める大会名誉会長の中山義隆石垣市長と Photo by F.Y.
石垣島トライアスロン、死闘(?)の記録
この時期にしては気温が低かったのですが、水温はちょうどいい。今年初めて泳ぐ身としては、伸びを意識して無理せずゆっくりと。

流して泳いだのでスイムのダメージはほぼゼロ Photo by F.Y.
向かい風が強く、バイクセクションは厳しかった。上り坂では50人くらいに抜かれました。

上り坂で抜かれまくる筆者。とにかく上りに弱い Photo by F.Y.
ランは59分もかかる体たらく。ここでは100人くらいに抜かれました。遅すぎる……。
トータルはまさかの3時間超。いくら練習不足とはいえこれはひどい。次回は6月のシーガイアトライアスロンです。ユルフン締め直して、練習を始めますか。

死んだ…… Photo by F.Y.
ということで、本編へとまいりましょう。
「マツダの長年の夢」~顧客の離脱を防ぐラージ戦略
マツダの明日を占う、「ラージ商品群」。現状はCX-60、CX-70、CX-80、CX-90のSUV4車種が展開されている。高性能、好燃費、そして高価格帯。これらの商品群がしっかり売れていけば、マツダの利益率はグッと良くなるはずです。
マツダは何を思い、何を狙ってこれらの高価格帯のクルマに打って出たのか。
じっくりとお話を伺っていこう。
フェルディナント・ヤマグチ(以下、F):今日お話しをうかがうのは、CX-80の主査・柴田さんです。よろしくお願いします。早速ですが、マツダのラージ車戦略について教えてください。ラージ車を造った、そもそもの目的は何ですか。単純に「高いクルマを造って儲けたい」というわけではありませんよね(笑)。
マツダ 商品開発本部 主査 柴田浩平さん(以下、柴):もちろん違います(苦笑)。マツダとして、ラージ車を造った目的は大きく二つあります。一つは「より上級志向なお客様のニーズを満たすような商品群を造ること」、もう一つが「環境負荷の低減」です。

マツダ 商品開発本部 主査 柴田浩平さん Photo by AD Takahashi
F:上級志向への対応、ですか。
柴:はい。これは「マツダの長年の夢」といっていいと私は思っています。今までのマツダは、マツダ車を買ったお客様が、「もっといいクルマが欲しいな」と思った時に、上に行くクルマを持っていなかったんです。上級車種を持っていないから、「上がないのならもうマツダはやめてBMWでも買っちゃおうか」と思われてしまう。そして何割かのお客様は、本当にBMWとかメルセデス・ベンツに行ってしまう。そんな流れがあったんです。しかも日本だけではなくグローバルで。
F:なるほど。例えば勤め人の人が、40歳になって役職がついて年収も上がって、ちょっと頑張っていいクルマでも買っちゃおうか、という時に、マツダは上のクルマを持っていなかった。CX-5を買って、マツダのクルマは良いよな。走りも燃費もいいし、カッコも良いよな、と高く評価しているのに、次に乗るクルマがない。そうした人が(メルセデス、BMW、アウディの)ジャーマン3に行ってしまう。あるいはレクサスに流れてしまう、と。
柴:そうなんです。自分で言うのもアレですが、マツダ車を選んでおられるということは、クルマに対する感度が高い方、ということです。所得が上がって余裕が出てきて、もっといいクルマを、となった時にマツダから離れてしまう……。そんなお客様が事実として結構いらっしゃった。
F:これは辛いですね。造る側としては……。
柴:辛いですし、悔しいです。だからこれはずっとマツダの課題だったんです。そういうよそに流れてしまうお客様に満足いただけるようなクルマをいつかは造りたい。そう思ってずっとやってきたんです。

マツダのラージ商品群。CX-60、70、80、90があり、日本国内ではCX-60と80が販売されている Photo by A.T.
マツダの利益の鍵を握る「アメリカ市場」
F:アメリカでも同じ状況ですか?
柴:国内外ともにそうです。アメリカでもそう。上がないと、やはりよそに行かれてしまう。
F:単価の高いSUVが多く売れているから、マツダの利益の半分はアメリカからでしょう。地域別の営業利益や純利益の内訳を詳細には公表していないのでハッキリとは言えませんが、アメリカの市場は絶対に外せませんよね。
柴:そうですね。アメリカはやはり大きいです。ただマツダとしては、そこまで一つの市場に依存しないというのが会社としての特性であり、狙いでもあったのですが。
F:しかし数字としては、やはり北米依存という形になってしまっている。少なくとも現状は。
柴:結果的にはそうなっていますね。
環境性能を追求するための6気筒エンジン
柴:ラージ車戦略の大きな目的のもう一つは、「環境負荷の低減」です。世の中は環境対応で、大きく電動化に動いています。そんな状況下でも、内燃機関でできるところまではしっかりと環境性能を高めようという狙いがあります。積んでいるエンジンは6気筒。ですがこの6気筒分の能力を全てパワーに費やしているわけではありません。余裕のある6気筒で、幅広い回転域で良い燃焼が起きるようにして、できるだけ排ガスをきれいにすることを狙っています。

マツダ「CX-80」(広報写真)
F:柴田さんは何屋さんなのですか?エンジン畑ですか?
柴:私はもともと商品企画畑なんですよ。
F:エンジンとか車体ではなく?
柴:そうですね。私はエンジニアではありませんので。ですが理系か文系の分類でいうと、理系の人間です。図面を描いたりする仕事ではありませんが、大学では理系を専攻していました。日本の自動車メーカーには、商品企画が理系にある会社と、文系にある会社の2種類があるんです。その中で、マツダは理系にある会社です。
F:会社によって違うんですね。
柴:トヨタさん系だと、おそらく文系に置かれていると思います。
F:ホンダも理系でしたよね。
柴:スバルさんは開発の中にありますね。会社に入って仕事を始めてしまえば、理系も文系もないのですが、マツダの場合、位置付けとしては開発部門の中にあるので、結果として理系の人間が多くなります。
柴田さんが手がけたCX-5の大ヒットは「想定外」だった?
柴:私は入社以来ずっと商品開発で、1世代前のデミオとか、初代CX-5に商品企画として携わっていました。

マツダ「CX-5」。初代CX-5は2012年に発売された(広報写真)
F:CX-5の商品企画を!あのクルマの登場は衝撃でした。マツダの歴史を大きく変えたと言っても過言ではない。何しろCX-5のおかげで「マツダ地獄」(一度マツダ車を買うと、下取りが安すぎて他メーカーに乗り換えられず、次もマツダを買うしかなくなる状態)という言葉がなくなりましたからね。
柴:おっしゃる通り、CX-5はよく売れました。大きく流れを変えた感もあります。ですが正直な話、国内でここまで人気になるとは思っていなかった。想定外の売れ行きではあるのです。
F:想定外。こんなに売れるとは思っていなかった?
柴:思っていませんでした。国内マーケは、みなさん出すことに反対していたので。
F:なんと!
1999年当時、ディーゼルエンジンは完全に悪者扱いだった
マツダ広報 辻本さん(以下、辻):非常に生々しい話をしておりますが、ここは誤解のないようにお願いします。要はディーゼルです。かつて石原都知事が、排ガス入りの真っ黒なペットボトルを振ったおかげで、「ディーゼル悪玉論」が東京都だけでなく、日本中で叫ばれたことがありました。初代CX-5を仕込んでいたのは、まだその影響が残っていた時期でした。
※石原都知事ペットボトル事件:1999年8月27日、東京都知事だった故・石原慎太郎氏は、ディーゼル車の排ガスによる大気汚染の深刻さを訴えるため、黒いススが入ったペットボトルを記者会見で振って見せた。このパフォーマンスは「ディーゼル車NO作戦」の開始を宣言する記者会見で行われた。石原氏は「こんなものが1日12万本出ている。みんなこんなものを吸っているんだよ」と述べ、ディーゼル車の排ガスが健康や環境に与える影響の深刻さを強調した。
F:や、なるほど。石原都知事ペットボトル事件。あれは衝撃的でしたね。都だけでなく、国の環境政策にも大きな影響を与えましたから。
辻:そうなんです。日本中が「ディーゼルは汚い。ディーゼルはダメだ」という雰囲気になっていた時代の話です。ですから国内マーケの人間が、単純に食わず嫌いで柴田の企画したクルマにNGを出したわけではないんです。そこはご理解ください。
F:あの雰囲気だったら当然そうなりますよね。ディーゼルエンジンは、あたかも毒ガス発生機のような扱いでしたから。
柴:それまでは「クリーンディーゼル」という概念すらありませんでしたからね。
「マツダ地獄」改め、「マツダわらしべ長者」?
辻:これは裏話なのですが、CX-5のディーゼルは、初期段階でウチの社員がこぞって買ったんですよ。それで勢い付いたという背景があるんです。
F:マツダの社員が。
辻:マツダ本体もそうですし、販売会社の方がどんどん買われました。彼らはずっとマツダのクルマを見ていますから、明らかに今までとは違うというのが分かるんです。自分で乗っているのだから、お客様に対する説明だって説得力があるでしょう。しかも後々乗り換える事になると、有り得ないような高値で下取ってくれる。月々3万円のローンで買っていたら、次に乗り換えたら同じ金額で上のグレードが買えてしまう。最初に一番下のグレードを買った人が、2回乗り換えたら一番上のLパッケージになっていた……なんて話はザラにありました。
F:「マツダ地獄」転じて、「マツダわらしべ長者」(笑)。
柴:自分の企画が大当たりして売れまくった、と言うつもりはさらさらありませんが、そういうクルマに関わってきた、ということは事実として申し上げます。
F:CX-5は正にエポックメイキング、と……話を本題のCX-80に戻しましょう(笑)。
ガソリン6気筒、ディーゼル6気筒、プラグインハイブリッドの3種類
F:ラージ車に積まれるパワートレインを教えてください。6気筒だけではありませんよね?
柴:ガソリン6気筒とディーゼルの6気筒があって、ガソリンの4気筒もあります。それにはプラグインハイブリッドを組み合わせています。マイルドハイブリッドはディーゼルの6気筒に組み合わせています。これらをマルチソリューションと呼んでいます。
F:ガソリンの6気筒もある?
柴:あるのですが、日本では出していません。
F:日本で売ったらメチャ受けそうな気がしますが。
柴:どうでしょう。受けるかな……。走りが良くて燃費も圧倒的に良いので、日本では圧倒的にディーゼルが人気なんですよ。ガソリンエンジンの伸びやかさとか、高回転まで気持ち良く回るというのはあるのですが、燃費はやはりディーゼルに敵いません。「付加価値エンジン」という位置付けで、面白いとは思うのですが、正直な話、国内市場で数は見込めないですね。
アメリカはガソリンとEVが人気。日本で売れないPHEV
F:アメリカ人は燃費を気にしないのですか?
柴:気にしなくはないのでしょうが、アメリカは何と言ってもパワーです。燃費よりもパワー。これは間違いありません。それにそもそもアメリカはディーゼル車が乗用車として普及していませんし。大きなクルマもみんなガソリンですね。ガソリンと電動。EVの普及率は1割に迫る勢いですし、実際にアメリカで売っているCX-70と90のPHEV比率は3割もあるんです。
F:なんと。国内のPHEV比率はどうですか?
柴:数パーセント程度です。
F:日本でPHEVは売れないんですね。三菱アウトランダーとか、とても良いんですけどね。
柴:でも逆にいうとアウトランダーくらいしかないでしょう?ちゃんと売れているのは。
F:いや、言われてみればその通り……。

マツダ 商品開発本部 主査 柴田浩平さんとフェル Photo by A.T.
このお話は次号に続きます。CX-60でつまづいた足回りのセッティング等、深い話を伺って行きます。
(フェルディナント・ヤマグチ)
実は歴史が古い?3列シートのSUV
こんにちは、AD高橋です。
マツダが多人数乗車のモデルをミニバンではなくSUVにしてから約7年。CX-80は3列シートSUVの第2世代になります。
3列シートのSUVは古くから存在していて、日本車だとトヨタのランドクルーザー(ランクル)が60から最新モデルまで3列シート仕様を設定していますし、三菱はパジェロに初代から3列シート仕様を設定していました。

1980年に登場したランクル60。ガソリン車のVXに3列シート仕様が用意された(広報写真)
ほかにも三菱アウトランダーは初代から、日産エクストレイルは3代目から3列シート仕様を設定しています。レクサス RXも2代目に3列シート仕様が追加設定されました。ただ、RXは現行型では3列シート仕様が設定されていません。また、ホンダは2022年まで販売された5代目CR-Vに3列シート仕様が用意されました。
SUV的な使い方ができるミニバンで有名なのは、三菱のデリカシリーズ。スターワゴン、スペースギア、D:5と、高いオフロード性能と3列シートによる居住性の高さを両立しています。SUV的なミニバンといえば、スバルが2015年に発売したエクシーガクロスオーバー7もありました。
3列シートSUV、なぜ日本であまり普及しない?
輸入車でも3列目シートを備えるSUVはあるので珍しい存在ではありませんが、これまでなかなか普及しなかったのは3列目の使い勝手にあったと思います。
ミドルクラスのSUVだと3列目に大人がゆったり座れるスペースを確保するのが難しく、座面や背もたれが薄いシートしか設置できません。大型のSUVならスペースの問題はクリアできますが、ラダーフレーム構造だとフロアが高くなってしまうため、3列目への乗り降りがかなり大変……。
CX-8やCX-80の3列目はよくできている
CX-8からスタートしたマツダの3列シートSUVが優れているのは、ミニバンに変わる形で投入されたこともあり、ネガティブな部分をつぶして、3列目までしっかり使えるように設計されていることです。
3列目席は厚みのある座面はもちろん、背もたれの高さもしっかり取られているのでリラックスして座ることができます。CX-8は日本の道でも走りやすいよう全幅が1840mmに抑えられていたのもポイントです。乗り降りも大きなスライドドアを備えたミニバンほどではありませんが、そこまで大変ではありません。

CX-8のインテリア。3列目席も背もたれの高さがあるシートが備わっていた(広報写真)
さらに3列目シートの格納が左右跳ね上げ式ではなく背もたれを前に倒すだけで荷室を拡げられるのも使いやすい部分です。

CX-80のラゲッジルーム。3列目の背もたれを倒すだけでスペースを拡げられる(広報写真)
家族5人以上じゃなくても、3列シートSUVはメリットが多い
3列シートSUVというと5人以上の家族向きのクルマと思うかもしれませんが、実は3~4人のファミリー、あるいは単身者にもメリットが大きい仕様です。とくに週末に仲間と出かける機会が多い人におすすめしたいですね。
キャンプを例にしてみると、キャンプ場までは荷物をたくさん積んでそれぞれのクルマで向かうはずですが、荷物を下ろした後はクルマ数台で動くのが意外と面倒なんですよ。そんな時に3列目までしっかり座れるCX-80やCX-8があれば、1台のクルマで楽に移動ができます。
また、子どもが野球やサッカーをやっていて、練習や試合の際に友達と一緒に行くこともあるという人にも3列目席を備えたSUVがあると便利。
もちろんこれらは大きなミニバンに乗っていればすべて解決しますが、一方でミニバンはどうしてもファミリーカーというイメージが拭えず、それが嫌で選びたくないという人は案外多いもの。だからこそ今のSUVブームがあります。

CX-8は2023年に生産終了となった(広報写真)
CX-80は発売されてまだ日が浅いですが、CX-8は発売と同時にヒットモデルになりました。CX-8に比べるとCX-80は一回り大きくなっていますが、その分利便性も高まっています。ミドルサイズからラージサイズのSUVを検討している人は、ぜひ選択肢のひとつにいれてみてください。
(AD高橋)