欧州レアアース新工場、「脱中国」の困難浮き彫り

レアアース磁石はEVや風力タービンなどに広く使用されている
欧州は世界のレアアース(希土類)市場における地位確立を目指しており、ロシアとの国境にある新たな施設がその第一歩となる。
かつてロシア帝国の繊維産業の中心地だったエストニア北東部ナルバ市は今、電気自動車(EV)や風力タービンに必要なレアアース磁石を生産する欧州最大の工場を擁している。これは、中国が全工程を支配する世界のサプライチェーン(供給網)で足がかりを確保しようとする、欧州の取り組みの一環だ。カナダのネオ・パフォーマンス・マテリアルズが建設し、欧州連合(EU)が資金の一部を提供したこの工場は、来年からドイツの自動車部品サプライヤー、ロバート・ボッシュなどの企業への商業出荷を開始する予定だ。
問題は、新工場が当初計画している永久磁石材料の生産能力2000トンは、アナリストらが推定する欧州メーカーの必要量のごく一部にとどまるということだ。
ネオは最終的に生産能力を5000トンまで引き上げる計画だが、それでも欧州の中国依存からの脱却には程遠い。業界動向を追跡するアダマス・インテリジェンス(本社・トロント)のデータによると、欧州全体の需要は2030年までに約4万5000トンに達する見通しだ。
米国ではさらに多くの計画が進行中だ。企業は現在、30年までに米国で4万トン超の生産能力構築を計画している、とアダマスは指摘している。
中国が4月に新たなレアアース輸出規制を課した後、米トランプ政権は業界支援のための補助金やその他の措置を強化し、米国での採掘、加工、製造能力の構築競争を加速させた。レアアースは多くの防衛システムの製造にも不可欠だ。

ネオのラヒム・スレマン最高経営責任者(CEO)は「生産能力の構築に向け、米国は非常に多くの資金を投入し、非常に積極的で強力な支援策を打ち出した」と述べた。
ネオの工場は500日で建設された。アナリストらはこのペースについて、西側諸国の新たなレアアース磁石施設としては速いとみている。米国で生産能力を大幅に拡大する計画は数年かかる見通しで、これらのプロジェクトが全て成功するか、または見込まれる生産能力に到達するかは保証されていない、とアナリストらは指摘した。
スレマン氏によると、欧州の自動車部品メーカーは、中国の措置が講じられる以前から永久磁石の調達先の多様化に意欲的だったが、4月の輸出規制を受け、他業界の顧客からの関心も高まった。
同氏は、欧州がレアアース磁石を全て域内で調達する必要はないと自身は考えていると述べた。だが欧州では「既存需要の一部を満たすだけでも、長い道のりがある」という。
欧州はここ数十年、ロシアから安価なガスを、中国からレアアースを輸入できる世界貿易システムの下で繁栄し、産業基盤を支えてきた。しかし22年のロシアによるウクライナ全面侵攻や中国が今年導入したレアアース輸出制限により、欧州がこれらの国にいかに依存していたかが浮き彫りとなった。
欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長は先月、EUがロシア産ガスへの依存を削減する従来の取り組みから教訓を得て、重要素材に関する計画の策定を進めていると述べた。同委員長によると、年内に発表予定のこの計画には、共同購入、備蓄、欧州プロジェクトへの資金拡充が含まれる可能性がある。
EUは既に輸入依存削減の目標を設定しており、より迅速かつ戦略的に行動する決意だと欧州委員会の報道官は述べた。
アダマス・インテリジェンスのマネジングディレクター、ライアン・カスティーユ氏は、米国のレアアース産業の急成長が供給不足を埋めるのに役立つ可能性があると指摘。しかし欧州は米国への過度の依存には慎重になるかもしれないと述べた。
「現在の米国は対立的な政策を取ることを恐れていないと、欧州も認識していると思う」
米国の補助金拡充を受け、一部の欧州企業が米国に拠点を設立する可能性もある。
英国に本拠を置くレアアース企業で、アンゴラで鉱山を開発しているペンサナは最近、英国で計画していた加工施設の建設を中止し、米国に焦点を移すと最近発表した。ペンサナのポール・アサーリー会長によると、米国輸出入銀行が同鉱山に対して提示した融資が1億6000万ドル(約248億円)だったのに対し、加工施設向けの英国の補助金は約660万ドル相当だった。
「英政府からの支援は必要な額を大幅に下回った」とアサーリー氏は述べた。「米政府はわれわれにいくら必要かと尋ねてきた」
ネオはEUから約1690万ドルの資金調達を確保した。米国での最近の政府支援はその水準をはるかに上回る。米政府は7月、レアアース企業MPマテリアルズに15%出資し、同社製品の価格に下限を設定すると発表した。
スレマン氏は、ネオがきょうナルバ工場について決定を下すとしても、再び欧州を選ぶと思うと述べた。欧州での顧客需要が米国よりもはるかに高く、またネオが既にナルバ近郊にレアアース分離施設を保有しているためだ。レアアースは採掘後、磁石製造に使用する前に分離・精製する必要がある。
欧州にはレアアースの加工・リサイクル施設はあるが、稼働中のレアアース鉱山はない。

エストニア北東部ナルバ市はロシアとの国境に位置している
エストニアはネオの計画を歓迎し、ナルバ市は4カ月半で同施設の建設許可を交付した。カトリ・ライク市長によると、これは同国の法律の下で最速の手続きだった。市長は厳しいスケジュールに遅れが出ないよう、可能な限り迅速に書類を準備するよう担当者らをせかしたという。
「われわれは彼ら(ネオ)のアイデアや計画を可能な限り強く支援した」と市長は語った。
ナルバ工場が欧州当局者にとって象徴的に重要であることを示すように、フォンデアライエン欧州委員長は今年6月にカナダで開催された先進7カ国(G7)首脳会議に同工場の永久磁石を持参し、各国首脳に披露した。