あまりに楽観的なロシア2026年国家予算原案、経済危機隠蔽の意図か

プロローグ/ロシア近況概観, 第1部 2油種(北海ブレント・露ウラル)週次油価動静(2021年1月~25年11月), 第2部 2油種 (北海ブレント・露ウラル) 年次・月次油価動静(2011年~25年10月), 第3部 2油種 (北海ブレント・露ウラル) 2025年日次油価動静

プーチン大統領、お誕生日おめでとうという垂れ幕が下がったロシアの歩道橋(2023年10月7日、写真:AP/アフロ)

プロローグ/ロシア近況概観

 ロシア軍が2022年2月24日にウクライナに全面侵攻開始してから、この原稿を書いている11月17日でプーチンのウクライナ戦争は間もなく丸3年と9か月にならんとしています。

 今年10月7日は、ロシアV. プーチン大統領73歳の誕生日でした。

 10月7日付「毎日新聞」朝刊7面に、今月初旬に開催された露バルダイ会議におけるプーシキンの詩を引用したプーチン大統領演説が掲載されています。

「諸民族が進軍しロシアを脅かしたが、我々は猛攻を受け止めた」とプーシキンの詩の一節を朗読して、ロシア愛国心を鼓舞。これは1812年のナポレオン戦争を謳った詩です。

 ナポレオンは大陸封鎖令に従わない帝政ロシアに侵攻して、1812年にモスクワを占領しました。

 ロシアにとりこれは祖国防衛戦争でしたが、ロシアにはもう一つ祖国防衛戦争があります。

 1941年6月22日のナチスによる対ソ開戦です。

 この2つの戦争は文字通りロシアにとり祖国防衛戦争でした。しかし、ウクライナ戦争はロシアにとり祖国防衛戦争ではありません。

 A.ヒトラーの対ソ侵略戦争同様プーチンの対ウクライナ侵略戦争であり、戦争の本質が正反対なのです。

 後世のウクライナ詩人は「ロシアが進軍しウクライナを脅かしたが、我々は猛攻を受け止めた」と謳うことになるのかもしれませんね。

 米D.トランプ大統領は10月22日、露石油会社ロスネフチとルークオイルに対する経済制裁強化措置を発表。インドと中国に対しては、ロシア産原油の輸入停止を要請。

 プーチン大統領の「一定の影響はあろうが、経済に重大な影響は与えない」との強気発言は、気が動転した弱気の裏返しにすぎません。

 余談ですが、日系大手メディアは一様に「ルクオイル」と表記していますが、正しくは「ルークオイル」です。

 LUKのLはランゲパス、Uはウライ、Kはコガリム油田の頭文字にて、西シベリアの優良油田です。

 ソ連邦末期、石油工業省V.アレクペーロフ次官(バクー生まれ・バクー育ちのアゼル人)は混乱のどさくさに紛れ、西シベリア3優良鉱区の利権を獲得。新生ロシア連邦誕生後、LUKオイルを設立しました。

 筆者はバクー駐在時、同社アレクペーロフ社長と会食したことありますが、彼は「ルークオイル」と発音しておりました(当然ですが)。

 閑話休題。

 米の対露経済制裁発表直後に油価は高騰しましたが、OPEC(石油輸出国機構)は即座に反応して原油増産意向を表明。この結果、油価は下落傾向に入り、油価は元の実需給に基づく油価水準に落ち着くことでしょう。

 今回の米国の対露経済制裁強化措置により、「影の船団」を使用してのロシア産原油の海上輸送が困難になることは予見されますが、ロシア産原油が世界市場から完全に締め出されることはあり得ません。

 ロシア産原油は新たな市場を模索・開拓するはずですが、問題は油価。

 ロシア産原油(ウラル原油)を輸入停止した欧州市場に代わり新たに登場したのがインド市場でした。ロシアが払った(払っている)代償はウラル原油のバナナの叩き売り油価。これは、ロシアの国益がインドの国益に転化している姿です。

 油価下落と低迷。これこそ、欧米による対露経済制裁措置の効果と言えます。

 本稿では、定量的にロシア国家予算原案と継戦能力を分析・評価したいと思います。

第1部 2油種(北海ブレント・露ウラル)週次油価動静(2021年1月~25年11月)

 初めに、2021年1月から2025年11月までの代表的2油種週次油価推移を概観します。

 北海ブレント(軽質・スウィート原油)はスポット価格、ロシア(露)の代表的油種ウラル原油(中質・サワー原油)は露黒海沿岸ノヴォロシースク港出荷FOB(本船渡し)油価にて、この2種は性状(品質)が異なります。

 硫黄分含有量1%未満は「低硫黄原油」と総称されており、業界用語では「スウィート(甘い)原油」(硫黄分含有量0.5%以下)、「サワー(酸っぱい)原油」(同1%以上)という言い方もあります。

 米国は2022年5月度よりロシア産石油(原油と石油製品)の輸入を停止。一方、日本が2022年5月まで輸入していた露産原油3油種(S-1ソーコル原油/S-2サハリン・ブレンド/シベリア産ESPO原油)はすべて軽質・スウィート原油で、日本はウラル原油を輸入しておりません。

 油価は2021年初頭より2022年2月まで上昇基調でしたが、ロシア軍のウクライナ侵攻後、ウラル原油は下落開始。バルト海から出荷されるウラル原油の主要輸出先だった欧州向けは開戦後に激減。

 輸出先を失ったウラル原油は暴落。北海ブレントとの値差はウクライナ侵攻直後、一時期最大バレル$42の値差となりました。

 直近11月10~14日のウラル原油週次平均油価は$51.53/bbl(前週比▲$0.46、bblはバレルで1バレルは約158.9リットル)と続落。最近は値差$12前後の水準で推移していますが、この値差は拡大基調です。

 両油種の品質差による正常値差はバレル$2程度ゆえ、依然としてウラル原油のバナナの叩き売り状態が続いていることになり、これこそ欧米による対露経済制裁措置の効果であり露国益の海外流出です。

 財政赤字も大問題です。

 現行油価水準(ウラル原油)は今年の期首予算案想定油価$69.7(4月$56/9月$58に修正)を下回っているので、今年のロシア財政赤字幅はさらなる拡大必至となりました(後述)。

 この超安値ウラル原油を輸入し、自社で精製後石油製品(主に軽油)を欧州に国際価格で輸出して、「濡れ手に粟」の状態がインドです。

 一方、中国が輸入している露産原油は主にESPO原油にて、長期契約に基づき原油パイプライン(PL)で供給されています(一部は露極東コズミノ出荷基地から対中海上輸送)。

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註:黒色縦実線:2022年2月24日/赤色横実線:露国家予算案想定油価/黒色数字・油価実績

第2部 2油種 (北海ブレント・露ウラル) 年次・月次油価動静(2011年~25年10月)

 本稿では、2011年から2025年10月までの2油種年次・月次油価推移を概観します。

 原油需給は均衡しており、地政学的要因以外に油価上昇材料は現状存在せず、油価は下落傾向です。

 ロシア軍によるウクライナ戦争開始前までの北海ブレントと露ウラル原油の値差はバレル$2前後でしたが、これは上述通り品質差に基づく正常値差でした。

 下記グラフをご覧ください。

 ウクライナ開戦前までは正常な値差範囲でしたが、2022年2月のロシア軍による開戦後は油価急落したこと、およびこの値差が大幅拡大したことが一目瞭然です。

 油価(ウラル原油)下落は露財政を圧迫しており、2024年財政赤字は期首予算案比で倍増。$69.7だった2025年の予算案期首想定油価は、今年4月$56に下方修正、9月は$58に上方修正しました。

 ロシア軍は2022年2月24日、ウクライナに全面侵攻開始。露ウラル原油は主要輸出先たる欧州市場を失い、同年6月には北海ブレントと露ウラル原油の値差は最大バレル$42にまで拡大。

 今でも両原油の値差はバレル$12前後で推移しており、この値差拡大こそ欧米による対露経済制裁の効果となります。

 時々、「対露経済制裁措置は効果ない」と解説している評論家もいますが、トンデモナイ間違いです。

 このバナナの叩き売りとなった露ウラル原油に目をつけたのがインドの石油会社です。

 インド国営石油ガス会社ONGCはサハリン-1(S-1)プロジェクトに20%権益参加しており、同プロジェクトで生産されるソーコル原油(軽質・スウィート原油)を輸入していました。

 ところが、インドの民間石油会社は超安値となった露ウラル原油を2022年3月以降、輸入開始。今ではインドが輸入する原油の約3~4割がロシア産原油となりました(後述)。

 インドの石油会社はロシアから超安値原油を輸入して、自社リファイナリー(石油精製工場)でガソリン留分・軽油・重油等を生産。

 軽油(ディーゼル油)を国際市場価格で欧州市場に輸出しているのですから、儲からないはずはありません。文字通り、「濡れ手に粟」の状態です。

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出所:米EIA統計資料、露財務省統計資料より筆者作成

第3部 2油種 (北海ブレント・露ウラル) 2025年日次油価動静

 次に、北海ブレントと露ウラル原油の2025年月次・日次油価推移を概観します。

 下記グラフの北海ブレントと露ウラル原油月次油価は今年9月度まで、日次油価は4月1日から11月14日(北海ブレントは11月12日)までの日次油価推移を表示しています。

 欧米は2022年12月5日、ロシア産海上輸送原油に対し上限油価バレル$60(FOB)を発動。2023年2月5日には石油製品の上限設定(軽油類$100/重油類$45)も導入。

 日本政府もこの措置に追随する旨を発表しました。なお、$60の建値はFOB(積出港油価)にて、海上輸送運賃や保険料は含まれていません。

 また、上限価格はあくまでも海上輸送による油価上限であり、PL輸送原油には適用されません。

 ちなみに、欧州は今年9月、従来の上限油価FOB$60を$47.6に引き下げました。

 しかし、ロシアが原油生産を停止して困るのは石油消費国です。ロシア石油企業は原油生産を継続するが、大儲けはできない上限油価がFOB$60程度となり、$47になれば赤字操業になります。

 欧米による対露経済制裁措置導入により、従来欧米に向かっていたウラル原油は輸出先を失い、インド向けに超安値販売となりました。

 今ではロシア産原油の約半分は中国向け(ESPO原油)、約4割はインド向け(ウラル原油)になっており、従来ロシア産原油を輸入していなかった国々も輸入開始しました。

 しかし、ここには政治性はありません。ビジネスとして、安く買って高く売っているだけの話です。

 これは、ロシアの石油会社に入るはずの利益をインドの石油会社が享受している構図です。

 換言すれば、ロシアにとり国益の流出であり、「ロシアの国益」を標榜して2000年5月7日にロシア大統領に就任したプーチン大統領は、結果として「ロシアの国益」を毀損しているのが実態です。

 ご参考までに、今年2025年の月次・日次油価推移は下記グラフの通りです。

プロローグ/ロシア近況概観, 第1部 2油種(北海ブレント・露ウラル)週次油価動静(2021年1月~25年11月), 第2部 2油種 (北海ブレント・露ウラル) 年次・月次油価動静(2011年~25年10月), 第3部 2油種 (北海ブレント・露ウラル) 2025年日次油価動静

出所:米EIA統計資料、露財務省統計資料より筆者作成

後編につづく

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