自動車ディーラーの営業マンが、昭和・平成ほど「自宅に来なくなった」根本理由

飛び込み営業の時代

 日本が本格的なクルマ社会を迎えた時代、営業担当者は一軒一軒住宅を訪ねて売り歩く“飛び込み営業”が主流だった。経験の浅い担当者にとっては、どの家が見込み客になるか、どの時間帯に訪問するのが効果的かを経験で学び、自分なりの営業手法を確立する貴重な場でもあった。当時の営業スタイルは、単に車を売る手段であるだけでなく、地域経済やコミュニティとの接点を生み出し、自動車普及の加速にも寄与していた。

【画像】「えぇぇぇぇ!」 これがコンテナから発見された「盗難車両」です!

 かつては、店頭接客後に“いけそう”と判断した顧客宅へアポイントなしで訪問するスタイルも一部に存在した。ナンバープレートから住所を割り出して訪問する手法もあったが、現代の個人情報保護法施行後は原則として禁止されている。この手法は、経済成長期における自動車市場拡大と都市化の進行を背景に成立していたことも忘れてはならない。飛び込み営業は、営業担当者の技能や人材育成の場としても機能し、業界全体の人的資本の蓄積につながった。

 しかし近年は、働き方改革の影響で営業時間の見直しが進んでいる。広島トヨペットでは2018年9月、ショールームの営業時間を10時~18時に変更した。業界全体で労働環境の改善が進み、営業担当者の健康維持や持続可能な職場環境の構築に寄与している。

 さらに顧客側の意識変化も大きい。特に若年層では、自宅への訪問を嫌がる傾向が強まっている。このような社会環境の変化が、訪問営業から店舗中心の営業スタイルへの転換を促す原動力となった。飛び込み営業の時代は、単なる営業手法の歴史ではなく、地域経済や人的資本、社会的価値観の変化と密接に結びついた時代であったと言える。

ウェブ購入の浸透

飛び込み営業の時代, ウェブ購入の浸透, ナンバープレート営業の終焉, 顧客体験重視のサービス

近年ではインターネット上で自動車の購入も可能に(画像:写真AC)

 営業スタイルが大きく変化した最大の要因は、インターネットの普及による顧客行動の変化である。EY Mobility Consumer Index(MCI)が世界20か国、合計1万4500人の消費者を対象に実施したアンケートによると、車の購入検討時に「オンラインツール」を活用するユーザーが大多数を占めることがわかった。近年は顧客自身が情報を精査・比較することが当たり前となり、一方的な売り込み型営業は敬遠される時代であることが明確になった。これは、情報格差の縮小や市場競争の透明化にもつながり、ディーラー間の競争はより顧客中心に変化していることを示す。

 加えて、ナイルが2022年5月に自家用車を持つ全国1445人を対象に行った調査では、ウェブで新車を購入することに抵抗がないと答えた比率は19.9%、実際にウェブで購入した人は23.7%だった。むしろウェブの方がよいと答えた人のうち、58.3%は対面営業がないことを理由に挙げている。これにより、営業担当者は押し売り型ではなく、顧客の事前情報に応じた専門的なアドバイスや丁寧な説明が求められるようになった。

 また、オンライン購入の浸透は小規模ディーラーや新規参入ブランドにとっても機会を生んでいる。物理的な訪問に頼らずとも顧客に情報提供できることで、地域的制約や営業リソースの差をある程度カバーできるからだ。顧客が自ら情報を収集する習慣が定着したことで、商談時には複数の候補車種を比較済みのケースも増え、営業担当者には情報を整理し、要点をわかりやすく伝えるスキルが重要視されるようになった。

 こうしたデジタル化の波は、店舗営業のあり方にも影響を与えている。パソコンやタブレット端末を活用する店舗が増え、顧客体験を向上させる仕組みとしてデジタルツールの活用が進むようになった。顧客は利便性の高い情報提供を受けながらも、専門性の高い提案や相談が可能な環境を求めており、オンラインと対面のバランスが営業の質を左右する重要な要素となっている。

ナンバープレート営業の終焉

飛び込み営業の時代, ウェブ購入の浸透, ナンバープレート営業の終焉, 顧客体験重視のサービス

昨今では「顧客のプライバシー」と「労働者の健康確保」が優先されるように(画像:写真AC)

 営業スタイルの変化には、法制度の整備も大きく影響している。2005年4月1日に個人情報保護法が全面施行され、自動車販売業界では顧客情報の取り扱いが厳格化された。車検証や免許証など、特定の個人を識別できる氏名や住所が記載されたものは個人情報とされ、顧客の同意なく収集・訪問することは目的外利用として法律に抵触する可能性がある。

 日本自動車販売協会連合会は2005年2月25日にプライバシーポリシーを制定し、業界全体で個人情報保護に本格的に取り組み始めた。そのため、かつて行われていたナンバープレートから所有者情報を特定して訪問する営業手法は、現行法の下では原則実施できなくなった。この法規制は単なる制約ではなく、顧客の権利保護と信頼関係構築の観点で業界全体の成熟を促す契機となった。

 さらに、働き方改革の推進により営業担当者の労働環境も大きく改善された。2024年4月の改善基準告示を受け、多くのディーラーで残業時間の削減や休日取得の促進が進み、19時頃に閉店する店舗が主流となった。その結果、夜間訪問など従来型の積極的な訪問営業は制限され、営業担当者の健康維持や持続可能な職場環境の構築に寄与している。この変化は、労働環境の改善が人材確保や定着率に及ぼす長期的効果とも直結しており、業界の持続可能性を支える重要な要素となっている。

 こうした法規制や労働環境の変化は、顧客の権利を守るだけでなく、健全な取引関係や効率的な営業活動の設計を促す前向きな転換点となった。ナンバープレート営業の終焉は、単なる手法の消滅ではなく、業界全体がより透明で持続可能な仕組みに進化する過程の象徴である。

顧客体験重視のサービス

飛び込み営業の時代, ウェブ購入の浸透, ナンバープレート営業の終焉, 顧客体験重視のサービス

時代に合わせて自動車ディーラーの営業スタイルも変化(画像:写真AC)

 自動車ディーラー業界は、これまでの訪問営業から店舗中心の営業へと大きく変化した。顧客との長期的な信頼関係を重視する現代的な営業スタイルへシフトしている。この変化は単なる営業手法の変更にとどまらず、顧客体験全体の質を高め、持続可能なビジネスモデルの構築を目指すものとなっている。店舗は単に車を販売する場ではなく、顧客が安心して相談できる体験空間としての価値を持つようになった。

 J.D.パワーが2025年に発表した日本自動車サービス顧客満足度調査によると、総合満足度の平均スコアは1,000点満点中723ポイントだった。ラグジュアリーブランドではレクサスが804ポイントで首位を獲得し、マスマーケットの国産ブランド部門では日産が734ポイントで1位にランクインした。特に「店舗施設・サポート」「サービス品質/納車」「予約/入庫」の3項目が総合満足度に大きく影響している。

 この結果は、販売の場が単なる取引の場から、顧客体験と信頼構築の場へと進化していることを示している。営業担当者には従来の押し売りではなく、顧客一人ひとりの状況や価値観に応じた提案力が求められる。近年は顧客が事前にインターネットで情報を収集することが一般化し、商談時には複数の候補車種を比較済みの場合も多い。そのため、営業担当者によるタブレットや顧客管理システムなどのデジタルツール活用が増加し、情報を整理してわかりやすく伝えるスキルが重要視されるようになった。

 また、ウェブ予約を利用した顧客の満足度が全体平均を上回る傾向も確認されており、デジタル技術の活用は利便性を高め、顧客体験の向上に直結している。現代の自動車販売においては、対面での丁寧な提案力とデジタルを前提とした情報提供の両立が、顧客満足度向上の鍵となる。

 泥臭い手法で顧客を獲得することが難しくなった今、ディーラーは時代に即した営業方法で顧客獲得と満足度向上に取り組んでいる。こうした動きは、業界の持続的成長を支える基盤となるだけでなく、ブランド価値や地域経済への貢献という観点でも重要な意味を持っている。