再生可能エネルギーの「切り札」は薄くて軽く、ぐにゃりと曲がる 激化する開発競争を勝ち抜けるか、“純国産”ペロブスカイト太陽電池の実力は【脱炭素 深掘り】

Jヴィレッジでペロブスカイト太陽電池について説明する積水ソーラーフィルムの担当者=3月、福島県楢葉町
毎年のように見舞われる猛暑や豪雨―。近年、気候変動の影響を身近に感じる機会が多くなった。地球温暖化の主な原因は二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスだ。政府は2050年までに温室効果ガスの排出実質ゼロを掲げ、産業界とともに脱炭素を目指す技術開発や取り組みに力を入れている。
再生可能エネルギーの拡大という追い風を受けて、日本国内の太陽光発電導入量は、この10年ほどで急激に増えた。しかし、大規模発電所(メガソーラー)の適地は減りつつあり、環境破壊や景観の悪化を懸念する住民との摩擦も強まっている。
そんな中、「切り札」と期待されるのが、薄くて軽く、ぐにゃりと曲がるペロブスカイト太陽電池。日本発の次世代技術として注目度は高く、関係者がノーベル賞候補に挙がる。各国も開発や実用化にしのぎを削る、その現状を探った。 (共同通信=石川恒太)

▽薄くて軽く、そして曲がる
2011年3月の東京電力福島第1原発事故の対応拠点となった福島県楢葉町のサッカー施設「Jヴィレッジ」。今年3月、センターハウス前のロータリーに黒光りするシートが敷き詰められた。薄くて軽く、ぐにゃりと曲がる。これがペロブスカイト太陽電池だ。
敷かれた面積は計60平方メートル。もちろん発電する。電気は蓄電池にためられた後、草刈り機の電源などとして施設で利用されている。実証実験との位置付けで、今後数年かけて電池の劣化の具合や発電効率の変化などを調べる。
福島県内では、あづま総合運動公園(福島市)や県立博物館(会津若松市)にも設置されている。Jビレッジでの説明会で、県の担当者は「脱炭素化に貢献でき、期待は非常に大きい」と胸を張った。

▽壁や円柱にも、スペースを有効活用
ペロブスカイトとは、どういう意味なのだろうか。19世紀のロシアの鉱物学者レフ・ペロフスキーに由来する、非常に小さな結晶構造の集合体の名称だ。ペロブスカイト太陽電池はこの結晶の構成要素として、ヨウ素と鉛の化合物を用いる。
シンクタンクの「自然エネルギー財団」によると、発電する層の厚さは0・001ミリ以下で、従来のシリコン型太陽光パネルの100分の1以下という薄さ。パネルを設ける台を含めた重さも、1平方メートル当たり3キロと従来型の3分の1程度と軽い。太陽光を電気に変える効率も遜色ない。
この薄くて軽く曲がる特徴を生かして、従来型では設置できなかった場所での利用が可能になる。例えばビルの壁や窓、円い柱、工場の薄い屋根、ドーム球場の屋根に貼り付けたり、置いたりできるようになる。
ビルの壁や工場の屋根を利用できるので、新たな土地開発はほぼ不要だ。環境省の幹部は「無駄にしていたスペースを発電用に有効活用できる」と利点を強調する。

政府はペロブスカイト太陽電池を、2040年に約2千万キロワット導入する目標を掲げている。だが、市場調査会社「矢野経済研究所」の予測によると導入量は150万キロワットに止まりそうで、目標とは大きなギャップがある。このため、政府はペロブスカイトの量産化や導入拡大に向けて、補助金などの支援を拡大させている。
企業もアクセルを踏む。積水化学工業は今年中に製造と販売を始める計画だ。パナソニックホールディングスはガラスと一体化し、透過性のある電池の事業化を目指しており、製造工程が短く大量生産と低コスト化が見込めるという。
▽“純国産”、苦い経験を糧に
注目される理由は他にもある。石油や天然ガスなどエネルギー資源を他国に依存する日本にとって、ペロブスカイト太陽電池は“純国産”の発電方法となりうる可能性があるからだ。
主な原料のヨウ素と鉛は国産でまかなえ、特にヨウ素の生産量は世界2位のシェアを占めている。経済安全保障上の利点は大きい。
さらにペロブスカイトという結晶構造が太陽電池に応用できることを発見したのは桐蔭横浜大の宮坂力特任教授で、ノーベル賞候補と目される。室内の照明でも発電できるため、宮坂さんは「一般の人にも良さを実感してもらえるように早く実用化してほしい」と期待を寄せる。
中国やポーランドなど各国も、量産化を見据えた動きを加速させており、開発競争は激化しそうだ。従来型パネルは、日本企業が事業化で先行していたが、中国企業との低価格競争の末、シェアを失ったという苦い経験がある。環境省幹部も「二の舞いは避けたい」と危機感をにじませる。
▽課題は、耐久性や制度整備
課題をどう克服するかも今後の拡大を左右する。
ペロブスカイト太陽電池の寿命は約10年とされ、従来型パネルの25~30年より短い。毒性がある鉛の扱いにも細心の注意が必要となる。さらに2030年代後半以降に従来型の廃棄量が急増すると見込まれるが、廃棄やリサイクルの制度は未整備で、将来的なペロブスカイトの拡大を見据え、制度作りも欠かせない。
再生エネに詳しい「環境エネルギー政策研究所」の飯田哲也所長は問題点をこう指摘する。
「湿気や熱、紫外線に弱いなど耐久性の課題を克服する必要がある」
産業界の取り組みに加えて、政府による政策や制度の整備を進めることが必要だ。飯田さんは「再生エネの普及が加速し、脱炭素社会への移行を促進させられる」と展望している。
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私たちの暮らしを支える電力や燃料などエネルギーの在り方が大きく変わろうとしている。政府の新たなエネルギー基本計画では再生可能エネルギーを将来の最大電源とし、原発も活用する方針が明記された。化石燃料から再生可能エネルギーへ。脱炭素の現在地と真価を、シリーズで追う。