次の開業はどの国だ?「世界の高速鉄道」最新事情

各国の鉄道業界トップが語る最新事情, 着工予定は2027年, 期待は高いが開業時期は?, バンコク―チェンマイ間の構想も, 初の路線は「LA―ラスベガス間」か, 「テキサス新幹線」は先行き不透明に

アメリカのロサンゼルス近郊とラスベガス間で計画されている「ブライトラインウエスト」の車両イメージ(画像:Brightline West)

国際高速鉄道協会(IHRA)の国際フォーラムが10月22〜25日の4日間にわたって都内で開かれた。IHRAは東海道新幹線50周年のタイミングで2014年に設立された一般社団法人。新幹線を運営するJR各社およびメーカー、総合商社、コンサルティング会社などで構成される。

【図と写真はこちら】▶世界各国で計画されている高速鉄道、一番早く開業しそうなのはどこ?▶計画路線図や導入予定の車両のイメージなど▶すでに運行しているアメリカの高速列車や建設が進むインド高速鉄道の工事現場も

IHRA国際フォーラムでは高速鉄道を導入済み、または計画中の国・地域の成長戦略や高速鉄道の状況などについて広く議論や情報共有が行われ、2年に1度開催される。

各国の鉄道業界トップが語る最新事情

23日の会議の冒頭では石破茂前首相が会場に駆けつけ、新幹線が今後の世界経済の発展に果たす役割について期待を示した上で、「日本はリニア新幹線建設の一方で、明治時代に造られた鉄道がまだ走っている場所もある。国土のあり方として正しいのか」と在来線も含めた議論の必要性を訴えた。また、夜行新幹線のアイデアも披露するなど鉄道ファンとしての一面も覗かせた。

【図と写真】世界各国で計画されている高速鉄道、一番早く開業しそうなのはどこ?計画路線図や導入予定の車両のイメージなど。すでに運行しているアメリカの高速列車や建設が進むインド高速鉄道の工事現場も

その後は各国・地域における鉄道業界のトップたちが自ら現地の最新の状況を説明し、参加者はみな熱心に耳を傾けていた。その中の興味深い事例について、会議の内容に公式発表された事項を補足しながらいくつか紹介したい。

オーストラリア

オーストラリアは労働党政権時代の2011年にブリスベン―ニューカッスル―シドニー―キャンベラ―メルボルン間の全長1800kmを結ぶ高速鉄道構想があったが、2013年に労働党から自由党に政権が交代し、在来線の高速化に方針転換された。しかし2022年に再び労働党政権となり、高速鉄道計画が復活した。

1800kmもの長距離に専用線を新たに設ける壮大な計画で、まず中央部のニューカッスル―シドニー間から着手する。オーストラリア高速鉄道庁のジル・ロッソー会長は「わが国の将来を決める重要な投資である」と話す。

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オーストラリアで計画中の高速鉄道の車両イメージ(画像:Australian Government High Speed Rail Authority)

着工予定は2027年

第1期区間は「わが国で最も乗客の多い区間で年間約1500万人が鉄道を利用している」とロッソー会長。現状では電車で3時間ほどかかるが、高速鉄道の完成後は1時間程度に短縮される。

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オーストラリア高速鉄道の計画区間(画像:Australian Government High Speed Rail Authority)

建設はニューカッスル―セントラルコースト間、セントラルコースト―シドニー中央間、シドニー中央―西シドニー国際空港間の3段階に分かれ、着工は2027年。第1段階は2037年に開業、第2段階は2039年にシドニーの中心部まで結ばれ、第3段階は2042年にシドニーの西側に建設中の西シドニー国際空港まで結ばれる。

2024年12月にニューカッスル―シドニー間の投資価値検討書が政府の諮問機関、インフラストラクチャー・オーストラリアに提出され、今年7月、「計画を支持する」として承認された。

最高時速は320kmだが、建設コストを抑えるため、全体の6割におよぶトンネルの規格は大掛かりなものとはせず、トンネル区間は時速200kmに抑える。総工事費はトンネルの工事状況次第で大きく変わるという。

インド

インドではムンバイ―アーメダバード間508kmの高速鉄道が新幹線方式で建設中。土地収用を最小限に抑えるため全区間の92%を高架とした。高架橋の建設では、橋梁の桁を現場であらかじめ製作しておき、順次橋脚の上部に架設する橋梁上板一括架設工法(Full Span Launching Method : FSLM)という工法がインドで初めて採用された。

従来の工法と比べ作業スピードは格段に向上し、インド高速鉄道公社のアンジャム・ペルベス総裁は「毎月10kmずつ完成している」と胸を張る。桁を運搬する巨大な重機はインド製で、「Make in India(インドで作ろう)」を盛んにアピールしていた。

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建設工事が進むインド高速鉄道のアーメダバード駅(写真:NATIONAL HIGH SPEED RAIL CORPORATION LIMITED)

期待は高いが開業時期は?

インドの鉄道というと、列車にあふれるほどの人が乗り、駅も車両も汚いというイメージを想像する人は多いだろう。インド高速鉄道公社のアチャル・カレー初代総裁もその点は否定しない。そのうえで、「日本のようにきれいな高速鉄道を提供すれば、利用者はそれを維持してくれると思う。そしてパラダイムチェンジが起きる」と、カレー初代総裁は高速鉄道がもたらす社会変革への期待感を示した。

また、インドにはほかにも複数の路線が計画されており、「ムンバイ―アーメダバード間の成否はほかの路線に対するベンチマークになる」とも話した。

現在はインド高速鉄道公社の研修員たちが来日し、JR東日本の研修施設で高速鉄道の運転士として必要な技能を学んでいる。準備は着々と進んでいる。しかし、肝心な開業の見通しは立っていない。両トップからも開業時期に関する言及はなかった。本来の開業時期である2023年はとっくに過ぎた。2026年に一部区間だけ先行開業するという計画もあったが、その話も出なかった。

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10月22~25日に都内で開いた国際高速鉄道協会(IHRA)の国際フォーラム(記者撮影)

タイ

首都バンコクから5路線の計画がある。先行しているのはバンコクとラオスとの国境付近にあるノンカイを結ぶ約600kmのルート。ノンカイからはラオス高速鉄道と接続して中国と結ぶ計画だ。

ラオスとの国境を流れるメコン川には現在、鉄道と自動車の両方が走行可能な「タイラオス友好橋」が架けられており、現在の橋に並行して鉄道専用橋を建設する計画もある。「現在はラオスと橋の建設財源をどうするか話し合っている段階」とタイ運輸省のピチェット・クナダムラクス鉄道局長が話す。

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タイラオス友好橋を渡る列車(写真:trikehawks/PIXTA)

バンコク―チェンマイ間の構想も

バンコク―ノンカイ間の建設は2期に分かれ、現在建設中の第1期バンコク―ナコンラチャシマ間約250kmは2029年に完成予定。第2期のナコンラチャシマ―ノンカイ間約350kmは2026年に着工、2030年の完成を見込む。

バンコクとタイ第2の都市チェンマイを結ぶ構想もある。第1期はバンコク―ピサヌローク間380km、第2期はピサヌローク―チェンマイ間288kmで、完成すれば時速300kmの列車がバンコク―チェンマイ間を3時間半で結ぶ。

2015年に日本・タイ間で協力覚書(MOC)が結ばれた。だが、「新幹線を使う計画もあるがなかなかうまくいかない」とクナダムラクス鉄道局長が明かす。

アメリカ

アメリカには5つの高速鉄道計画がある。連邦鉄道局副局長・最高安全責任者(CSO)を務めた経験のあるロバート・ロウビー氏がそれぞれについて説明した。

1:北東回廊と呼ばれる、ワシントンD.C.―フィラデルフィア―ニューヨーク―ボストン間735kmを結ぶ高速鉄道「アセラ」に2025年8月、アルストム製の新型車両の運行が始まった。「車両の最高速度は時速約260kmだが、100年前の軌道の上を走るので最高速度で走れる区間は全区間のうちわずか51kmしかない。したがって平均速度は時速105kmにとどまる」とロウビー氏は話す。これでは在来線の特急列車と変わらない。それでも、運行するアムトラックにとっては唯一の黒字路線とのことで、旅客数をさらに増やすためにインフラ投資にも手を打っていくという。

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アムトラックの新型「アセラ」(NextGen Acela)(写真:Amtrak)

初の路線は「LA―ラスベガス間」か

2:カリフォルニア州にはサンフランシスコ―ロサンゼルス間を結ぶ高速鉄道計画がある。時速257kmで運行し、2038年開業の計画だ。さらに将来的にはロサンゼルスからサンディエゴに延伸、北側ではサクラメントまで支線を設ける構想もある。

ただ、当初330億ドル(約5兆1870億円)と見込まれた建設費用は1350億ドル(約21兆2190億円)に膨らんでおり、当面の計画は全区間の中間にあるマーセド―ベーカーズフィールド間約275kmに縮小された。2033年の開業を目指すが、連邦政府は支援を引き上げた。これがどのように影響するか。

3:ロサンゼルスから東へ約70km離れた場所にあるランチョクカモンガとラスベガスを結ぶ全長350kmを時速200kmで走行する得高速鉄道計画もある。ランチョクカモンガは通勤鉄道「メトロリンク」でロサンゼルス中心部と結ばれているため、交通アクセスはよい。

以前は中国系企業も出資する「デザートエクスプレス」という計画だったが、その後、フロリダ州の鉄道会社ブライトラインが経営を引き継ぎ、「ブライトラインウエスト」という計画で動き出した。シーメンス製の車両が導入される予定だ。

各国の鉄道業界トップが語る最新事情, 着工予定は2027年, 期待は高いが開業時期は?, バンコク―チェンマイ間の構想も, 初の路線は「LA―ラスベガス間」か, 「テキサス新幹線」は先行き不透明に

「ブライトラインウエスト」の計画路線図(画像:Brightline West)

建設費用は当初の124億ドル(約1兆9490億円)から215億ドル(約3兆3790億円)に膨らんだが、連邦政府から30億ドル(約4715億円)の補助金を得たほか、60億ドル(約9430億円)の融資も決まっている。「もしかしたらこれがアメリカ初の高速鉄道路線になるかもしれない」とロウビー氏は期待を寄せる。

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「ブライトラインウエスト」のイメージ。シーメンス製の車両を導入する計画だ(画像:Brightline West)

4:北東回廊のうち、ワシントンDC―ボルチモア間約64kmについては既存の鉄道路線に加えてリニアを建設する計画もある。この区間の既存路線は線路改良による速度向上がままならず、リニア計画が浮上した。環境影響評価など着工に向けた準備が進められていたが、2021年に中断。2025年に7月に連邦政府が「計画に実現性がない」として計画を撤回した。

「テキサス新幹線」は先行き不透明に

5:ダラスとヒューストンを結ぶテキサス高速鉄道は民間プロジェクトとして策定された。東海道新幹線のN700Sの技術を使った列車が走るなど実現に向けた詳細はほぼ固まり、あとは建設資金を調達できるかが鍵となっていた。2023年にはアムトラックが計画に参加した。これによって資金調達面で信頼度が増すとともに、アムトラック向けの連邦補助金が得られることも期待された。しかし、2025年4月に連邦政府は補助金を撤回、アムトラックも計画から離脱した。将来は不透明な状況となっている。「夢が遠ざかっている。だが、4年後には状況が変わるかもしれない」とロウビー氏は望みをつなぐ。

このように、アメリカ国内の高速鉄道プロジェクトがなかなか進まない状況について、ロウビー氏は「夜明け前は最も暗いというが、それどころか今は真夜中だ」と話す。

「日本で新幹線に乗ったことがある人はアメリカにも高速鉄道がほしいと言うが、新幹線に乗ったことがない大半の国民は今までのアセラのレベルが高速鉄道だと思っている。アメリカにおいては高速鉄道のメリットが知られていないのだ。国内に高速鉄道がないことが国民にとって機会損失になっていることが理解されていない」。計画を前進させるためには、「政府が計画にもっと関わる必要がある。今われわれに欠けているのは国の計画がないことだ」とロウビー氏は話した。