実はけっこう休んでいるのに、日本人が「まだまだ休みたりない!」と感じる“たった1つの理由”

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たくさん寝ているはずなのに、なぜか疲れが取れない…。それは、休息では取れない「疲れ」を抱えているからだ。「朝からダルい、重い」といった疲労の正体を、延べ50万人以上の患者を診てきた脳神経外科の医師が明かす。※本稿は、菅原道仁『働きすぎで休むのが下手な人のための 休息する技術』(アスコム)の一部を抜粋・編集したものです。

疲れには「体の疲れ」と

「脳の疲れ」がある

 みなさんはどんなときに「疲れた」と感じますか。

 例えば、(できるかどうかは別にして)フルマラソンを走り終えたあとは、誰もが「疲れた」と感じるはずです。外回りの仕事で、一日中歩き続けた日の終業時には「疲れた」という言葉がポロッと漏れるのではないでしょうか。

 そのほか、どんなことを行った場合でも、体をたくさん動かしたあとは「疲れた」と感じることが多いと思います。関節や筋肉に、痛みや張りを覚えることも当然あるでしょう。体を酷使すれば、「疲れた」と感じるのは当たり前のことです。

 これらは、肉体的な疲れ=「体の疲れ」ということができます。

 では、体をたくさん動かさなければ「疲れた」と感じることはないか。そんなことはありません。

 長時間、デスクワークに集中したとき。気の合わない相手から興味のわかない話を聞かされ続けたとき。大勢の人前でしゃべる機会があったとき。お子さんの試合や発表会を見守ったとき。終わったあと、疲れがどっと押し寄せてきて、「あー、疲れた」と独り言をつぶやくこともきっとあるはずです。

 頭が少しクラクラしたり、呼吸が乱れたりすることも時にはあるでしょう。

 これらは、精神的な疲れ=「脳の疲れ」ということができます。

 まず、疲れは大きく2つの種類に分けられることを知っておいてください。

 体や脳を使いすぎたことによって「疲れた」と感じること――それが「疲れの正体」なのです。

体の疲労は感じにくくなったが

脳の疲れに悩まされるように

 そして、脳の疲れはさらに細かく2つに分けることができます。

 それは、「自律神経の疲れ」と「心の疲れ」です。

 自律神経の疲れは、自律神経が乱れることによって起こります。

 自律神経は自力ではコントロールできないので、無意識のうちに疲れを感じるのが特徴です。「疲れた」と感じても、その原因がよくわからないこともあります。

 一方の心の疲れは、嫌なことや面倒なことがあったりして、ストレスを感じることによって起こります。自律神経の疲れが無意識であるのに対し、心の疲れは意識することができ、感情をともなう点が特徴です。

 このように、疲れは大きく分けて2種類、さらに細かく見ていくと3種類に分類することができます。

 脳の疲れを「タイプ1」とするならば、自律神経の疲れが「タイプ1A」、心の疲れが「タイプ1B」、そして体の疲れが「タイプ2」というイメージです。

 いずれの疲れもほったらかしにはできませんし、効果的に休息をとって、回復に努めるのが唯一の選択肢になるのですが、ここでは体の疲れよりも脳の疲れ(自律神経の疲れ&心の疲れ)のほうを重視しています。理由は次のとおりです。

・現代人は昔に比べて体を動かすことが減り、体の疲労を感じにくくなった

・ストレッチやマッサージ、食事など、体の疲れを取る方法に詳しく言及したら、それだけで一冊の本になってしまう

・私の専門領域は「脳」なので、その強みを活かすことができる

異常気象やSNSが

自律神経を狂わせる

 便利な世の中になり、コンピュータ、機械、ロボットが、人間の代わりにさまざまなことをこなしてくれるようになりました。昔は洗濯板を使って服を洗っていたのが、今は洗濯機のボタンひとつで「洗濯→脱水→乾燥」まで完結する時代です。

 人間が体を使わずに済むことが増え、そのぶん別のことをしたり、考え事をしたりする時間がとれるようになりました。この状況が、脳疲労を加速させています。

 さらに、異常気象やSNSの普及など、自律神経の乱れやストレスを生みだす要因になり得るものが多種多様になってきたことも無視できないでしょう。現代人の脳が疲れるのは、ある意味、仕方のないことなのです。決して気のせいではありません。

 その疲れにははっきりとした原因があります。まずはそのことを理解して、疲れを感じたときは「正しく休息する」ことを徹底しましょう。

 ただし、注意したい点もあります。疲れのタイプを3つに分けましたが、これはあくまで便宜上の分類で、すべては密接につながっているし、明確に分けられないケースもあるということです。

 例えば「だるい」という感覚は、体の疲労を自覚できるケースもあれば、体は元気ながら精神的にどこか本調子ではないことを脳が感じて生じるケースもあります。

 また、「入浴」という回復法は自律神経の安定につながりますし、ストレス(心の疲労)も解消できますし、筋肉疲労も軽減できます。「お風呂に入れば自律神経の疲れには効くけれど、心の疲れには効かない」ということはありません。

 体の疲れだと思って休んでもなかなか疲れが取れず、じつは自律神経が乱れていた、ということもよくあります。よって、無理に分けて扱う必要もないのです。

自覚することができない

自律神経の疲れに要注意

 3タイプの疲れのうち、みなさんにとくに意識を向けていただきたいのは、自律神経の疲れです。

 心に関しては、イライラしたり、嫌なことを言われたり、不安を抱えていたりして、「ストレスを感じて疲れているな」ということを、なんとなく自覚できます。体に関しても、「体をいつも以上に動かしたから疲れたな」ということを、すぐに感じることができます。

 しかし、自律神経の疲れは、体感的に自覚することができません。

 自律神経は無意識下で働いているので、知らず知らずのうちに消耗し、それが脳疲労へとつながっていくこともあります。交感神経と副交感神経で構成される自律神経は、両者のバランスをとることが非常に大事になります(【図1】参照)。

同書より転載

たとえ睡眠中であっても

脳は休んでくれない

 疲れたら休むべき。これは正解です。

 休むには寝るのがいちばん。これも正解です。

 しかしいずれも、満点回答とはいえません。ただ単に体を休めただけでは、疲れが取れないことがあるからです。しっかり寝たはずなのに疲労感が抜けない、ということもあるでしょう。

 ゆえにこの2つは、「上手に」「効率よく」が必須となる、条件付きの正解ということができます。

 ここでみなさんに質問をしましょう。脳は起きているときと比べて、寝ているときは何パーセントくらいの働きをしているでしょうか。

「寝ているときは何も考えていないから、ゼロなんじゃないの?」

「いや、夢を見るのは脳が活動している証拠。20パーセントくらいではないか」

 おそらく、そんな答えが返ってきそうです。実際に、これまでは専門家の間でも、睡眠中の脳は休んでいると考えられてきました。

 しかし、脳の研究が近年進んだことにより、その常識は覆され、睡眠中も含めて脳は24時間休まず活動していることがわかってきたのです。一部の研究では、起きているときよりも多くのエネルギーを消費する可能性があることが示唆されています。

 では、まったく休まる暇がないかといえば、そんなことはありません。睡眠は、浅い眠りのレム睡眠と深い眠りのノンレム睡眠を交互に繰り返しており、ノンレム睡眠時に脳の疲労が回復することがわかっています。

 睡眠の質が悪いとノンレム睡眠の時間が短くなってしまいますが、上質かつ十分な時間の睡眠を確保できれば、脳の疲れを取ることができるのです。

 先ほど、単に休むだけ、ただただ寝るだけでは疲れが取れないこともあるので、上手に、効率よく休む(寝る)ことが必須になると述べたのは、ここに起因します。

日本人は休み方も

睡眠の取り方も下手

 2018年のOECD統計によると、加盟国の平均睡眠時間8時間25分に対し、日本は7時間22分で、なんとワースト1位だったそうです(【図2】参照)。

同書より転載

 私たちは、そもそも全体的に睡眠の質が悪くなりがちな国民とみなすことができます。

 また、マーケティングリサーチ企業の株式会社マクロミルが2019年に公表したデータによると、「プライベートの時間が増えたら何をしたいですか?」というアンケートを日本ならびに諸外国でとったところ、日本の第1位は「休息・睡眠」だったといいます。

 日本人の多くは、「とにかく休みたい」と思っているのです。

 しかし一方で、日本の1年間の平均労働時間は、OECD加盟国平均の1752時間を145時間下回る1607時間(【図3】参照)。「日本人は働きすぎ」というイメージを持っているかもしれませんが、じつはけっこう休んでいるのです。

同書より転載

 働いている時間が思いのほか少なくないにもかかわらず、「休息・睡眠」を欲する日本人は、休み方が下手な国民といってもいいのではないでしょうか。

 平均労働時間から判断すれば、十分な睡眠時間は確保できるはずですし、「働き方改革」が導入されて休むことを推奨される時代にもなっています。そんな状況、環境を上手に活かしきれていないのです。

 そしてその裏には、「休めば疲れが取れる」という意識があるとも考えられます。

 何度も繰り返しますが、ただ単に休むだけでは疲れは取れません。

 また、体を動かしながら脳を休ませる「アクティブレスト」という方法も存在します。休み方に対する正しい知識を身につけ、意識改革を行わないと、いつまでたっても疲れは取れないでしょう。

『働きすぎで休むのが下手な人のための 休息する技術』 (菅原道仁、アスコム)