「私も一歩間違えば、事件を…」きっかけは、雪に埋もれて亡くなった生後間もない女の子 不安や孤独、悩み吐き出す場所がほしい。ママにも“お昼寝”を

“お昼寝”発起人の遠藤しのぶさん(右)。母親が昼寝をする間、別室で子どもを遊ばせる(右)=6月、宮城県塩釜市

 「おやすみなさい。心置きなく寝てね」 

 平日の午前。宮城県塩釜市のコミュニティーセンターで“お昼寝”をしていたのは、子どもたちではない。7人のママだ。ベッドはパーティションで仕切られ、半個室状態に。照明が落とされ、オルゴールの音がかすかに流れる。セラピストのヘッドマッサージを受けると、ママたちは気持ちよさそうに静かな寝息を立てた。 

 育児に追われるママに昼寝をしてもらう取り組みが始まったきっかけは、今年1月、地元で起きた事件。雪の中で見つかった生後間もない女児が亡くなり、母親が逮捕された。(共同通信=西尾真奈)

宮城県塩釜市のコミュニティーセンターで、市民団体「シエン」に子どもを預かってもらい、昼寝をする母親たち。マッサージを受けることができる=6月 

▽「私たちのところへ来て」

 宮城県塩釜市は仙台市の北東に位置し、人口5万人余りの港町だ。今年1月、未明に氷点下まで冷え込んだ日の朝、雪の中で生まれたばかりの女の子が見つかり、その後死亡が確認された。 

 自宅で産んだ娘を雪に埋めて殺害したとして殺人の疑いで逮捕されたのは、20代の母親。「嫌疑不十分」で不起訴となったが、地元で保育士として働く遠藤しのぶさん(48)は事件に大きな衝撃を受けた。 

 「女性は誰にも相談できなかったのでは…」 

 居ても立ってもいられず、インスタグラムでこう呼びかけた。 

 「塩釜市にはたくさんのママたち子どもたちのチカラになりたいと思っている人がいます。困ったとき辛い時 何も言わなくてもいいから 私たちのところへ来てみてください 来るだけで大丈夫」 

 そんな遠藤さんの思いに、保育士やセラピスト、カメラマンなどとして働く市内の母親5人が賛同した。4日後には対面で集まり、何ができるか話し合い、市民団体「シエン」を立ち上げた。 

 「ママのひとやすみ」と題した、“お昼寝”イベントを選んだのは、産後の母親は夜泣きや授乳で睡眠不足になりやすいとメンバーが実感していたためだ。 愛知県知多市の団体が昨年から始めた母親に休んでもらう同様の取り組みも参考にした。 

 「シエン」のメンバーの一人でセラピストの鴇田千秋さん(41)は「寝不足だとつい子どもに強く当たってしまい、『私は子育てに向いていない』と思い込みがち。体の余裕が心の余裕にもつながる」と指摘する。 

▽寝られない日本人女性、支援に課題も

 シエン発起人の遠藤さん自身、3人の子どもを育てる母親として悩んだ時期がある。長男は乳児のころ持病があり、看病のために約1カ月間、ほとんど寝られない日々が続いた。次男は3歳過ぎまで授乳が必要で、3時間おきに起こされる毎日。

 「ほぼ産後うつ状態だった。『この子がいなければ…』と思ってしまうくらい大変で、一歩間違えれば私も事件を起こしていたかも」 

 経済協力開発機構(OECD)の2021年版調査によると、日本人の睡眠時間は33カ国中最短だ。さらに男性より女性が短く、世界的に見ても日本人女性が睡眠不足であることがうかがえる。 

 近年、産後の母親たちに向けた支援の重要性が認識されつつあり、各自治体も産後ケアや一時預かりなどの施策を進めている。しかし、子どもの年齢や利用回数に制限があったり、料金が高かったりと課題も多い。

子どもを預かる間、母親に昼寝をしてもらう取り組みを始めた遠藤しのぶさん(前列中央)ら「シエン」のメンバーら=6月、宮城県塩釜市

▽「思いっきり寝たのは久しぶり」

 「ママのひとやすみ」では、母親たちが寝ている間、子どもたちはボランティアの保育士らが遊ばせる。取材をした6月のある日は、生後4カ月~2歳の乳幼児8人を遊ばせていた。約1時間半後、昼寝から目覚めた母親たちはすっきりした顔で、子どもをいとおしそうに抱き寄せた。 

 育休中の会社員星かおりさん(33)は実家は近くにあるものの、睡眠不足解消のために預かってもらうのは気が引けたという。「安心して何も気にせず、思いっきり寝られたのは本当に久しぶり」。11カ月の長男蒼大ちゃんは遊び疲れて眠っていた。 

 4月から始め、2カ月に1回程度実施している。3人の子を育てる主婦野村麻衣子さん(39)はリピーターで「普段子どもが寝ている間は、家事に追われてなかなか眠れない。今日を楽しみに乗り切った」とリラックスした表情だった。

“お昼寝”後、笑顔で子どもとのツーショットを撮ってもらう母親(左)。メンバーの経験から生まれたサービスだ=6月、宮城県塩釜市

▽「子育ては楽しい」、全ての人が思える社会に

 イベントではメンバーのカメラマンが保育の様子や、母親と子どものツーショットを撮影し、終了後にデータをプレゼントしている。「ママはいつも撮る側になりがちで、子どもとの写真が全然残っていない」というメンバーの経験から始めたサービスだという。 

 参加料は1回500円。手頃な値段設定にこだわった。 

 「行政の支援は一期一会になりがちで、初めて会った人に悩みを話すことは難しい。シエンがイベントを続けることで、お母さんたちが何かあったら相談しに来られる『居場所』になれたら」と遠藤さん。 

 現在、地元企業などの援助はあるものの資金は乏しい。運営は苦しいが、それでも遠藤さんは活動を続け夢をかなえたい。 

 「『子育ては楽しい』。全ての母親がそう思えるような社会をつくりたい」