「国会議員夫婦」の夫が引退し、子育てを選んだ理由 妻の活動優先するため「自分が引く」、寺田学議員に聞く

寺田学衆院議員(右)、妻の寺田静参院議員(左)と長男=2019年7月(寺田学議員提供)
寺田学衆院議員(49)=立憲民主党=は9月、妻の寺田静参院議員(50)=無所属=の活動を優先するため、次期衆院選に出馬せず、政界を引退する決断をした。
仕事と、子育てや家事の両立は難しい。地方と東京を行き来する国会議員であれば、その厳しさはさらに増す。夫婦ともに、週末はそれぞれの地元活動が入り、子どもの予定に付き添うのは困難を極める。
数少ない女性議員の一人である妻の活動を優先しようと考えた寺田氏は、妻をこう説得した。
「俺には代わりがいても、あなたに代わりはいない」
11月19日は男性の生き方に目を向ける「国際男性デー」だった。今はまだ珍しい「現役男性の引退」は、妻や家族のために仕事を犠牲にする“美談”なのだろうか。(共同通信=渡辺顕子)

衆院政治倫理審査会の与野党筆頭幹事による協議を行った、立憲民主党の寺田学氏(手前)=2024年2月、国会
▽どちらかが辞めなければ…葛藤の2年間
―引退の理由を教えてください。
「妻が初当選し『国会議員夫婦』になったのが6年前のこと。現在は小学6年生になった長男と3人、東京で生活してきました。週末の地元・秋田での活動は議員にとって非常に重要で、長男が幼い頃は秋田に連れて帰っていました。
ただ、長男も成長につれ、やりたいことが増え、人間関係もできてきます。『サッカーの試合に行きたい』『友達の誕生会に誘われた』。土日の予定が入るのも当然です。
今より小さい頃は『どうしてもダダとママが秋田で用事があるんだ』と我慢させてしまったことも。ただ、長男がだんだん『大丈夫だよ』と気を使ってしまうようにもなってきた。また、思春期に入り、子どもの内面と向き合う時間も必要です。妻とは『どちらかが辞めなければ』と、2年ほど前から相談を重ねていました」
―地元活動は大切なのですか。
「コロナ渦が落ち着き、イベントが再開しはじめた2年ほど前から、週末に秋田で行われる行事への招待が増えました。議員はやはり、そうした行事に顔を出すことも重要です。参院で選挙区が全県にわたる妻に優先的に地元に帰ってもらい、私は週末東京に残ることが増えていきました。そうすると『地元に帰ってこない』という声も届くように。その影響は選挙結果にも出てくるようになっていました」
―寺田静議員とはどんな話をしたのですか。
「今夏の参院選を前に、妻は当初、『再出馬しない』と言っていました。しかし、今の日本にはまだまだ女性議員が少ない。妻は秋田選出の唯一の女性国会議員です。妊娠や更年期といった女性の体にまつわる問題など、男性が取り組んでいない分野でも頼りにされてきました。『俺には代わりがいても、あなたに代わりはいない』。そう強く説得しました」

寺田学氏のブログより
▽引退理由に向けられた「疑いの声」
―9月の引退発表への反応は。
「連絡をくれた同年代の男性の多くは、同じ悩みを抱えていると明かし、妻に育児や家事を任せている『後ろめたさ』を吐露してくれました。また、子育て中や経験者の女性からは『大変さを理解してくれている』と共鳴する声がありました。
一方で、私の引退理由を信じない人が一定数いたことには、少し驚きました。『辞めて何するの?』と聞いてきたベテラン議員、重病説や、根も葉もないスキャンダルを疑う声…。女性が家庭を理由に辞める時には、そうした声は出るでしょうか。家事や育児を誰かに任せ続け、その本質的な苦労を知らない人の発想だと感じました」

取材に応じる寺田学衆院議員。左は長男が昔好きだったおもちゃ=10月、国会
▽サポートではなく、主体的に
―家事、育児の分担に悩んでいる現役世代は多そうですね。
「『家事は何をやっているの?』と聞かれて、『●●と▲▲』みたいに答える人は、基本的に『サポーティブな人』だと思います。主体性がない。家事というのは、そうやって項目で挙げられるもの以外にたくさん転がっています。例えばシャンプーの詰め替えや領収書の保管。気づいた者勝ちとか、体が空いている人がやらなきゃいけないことがたくさんあります。
育児についても、『手伝うもの』と男性陣が思っている間は、まだまだゴールじゃない。結婚して子どもを授かり、家庭を築きたいという人は、最初からフルコミットして主体的な立場でやった方が、家庭も本人も幸せになれると思います」
―子育て当事者ならではの国会質疑がネットで共感を呼びました。
「私の質疑を切り取った動画が共有サイトで拡散され、話題になりました。『小学校の算数セット一個一個に名前シールを貼った経験』を話したものです。その動画のコメント欄には『解像度が高い』とのコメントが書き込まれていて、なるほどな、と感じました。
今の日本の国会では、家事、育児を担っていない『生活感のない議員』が多い。さまざまな政策が生活感に基づかずに審議され、国民に『そうじゃない』という感覚があるからこそ、こうした反響があったのだと思います」

取材に応じる寺田学衆院議員=10月、国会
▽「美談」とせず、柔軟な働き方を
―今回の決断は「夫婦どちらかが我慢しなければならない場面もある」という現実も突きつけたように感じます。
「だから私自身、今回の判断を『美談』のように捉えてほしくはありません。国会議員夫婦という特殊なケースだからこそ至った決断ですが、これを美談にすると『誰かのために誰かが我慢すること』を評価することになってしまう。本来は、男女とも互いを配慮しながら家事、育児と仕事を両立できる社会がいいと思います。
欧州では『この数年は妻、その後数年は夫を優先』という風に『重心の移し方』を柔軟にしている国もあると聞きます。そういう働き方が、日本にも根付いてほしい。そのためには、賃金が高い方が優先されることのないよう、男女の賃金格差を解消する必要があると考えます」
―男性にメッセージを。
「家事も育児もパートナーに任せ切りの人には、その負荷がどれくらいの重さを持っているか、一度立ち止まって見つめてみてほしいです。今、昼も夜も自由に仕事に割けているのは、自分の気づかない所で、ありとあらゆるケアワークをパートナーが担ってくれているから。そのことに謙虚に向き合ってみてほしいと思います」
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てらた・まなぶ 1976年、秋田県横手市生まれ。2003年初当選、民主党政権で首相補佐官を務めた。当選7回。