囲碁の総本山「日本棋院」が経営難 東京本院の売却案まで…多すぎる棋士数、それでもリストラできない事情

 囲碁の総本山・日本棋院が、運営の危機に立たされている。

 財務状況を分析した経営改革委員会が、現状のままでは4年後に「安全な運転資金の確保が難しくなる」との最終報告を発表。

 棋士の退職金や年金の改革に加え、半世紀以上にわたり活動拠点としてきた東京本院(東京都千代田区)の売却移転も検討せざるを得ない状況となっている。(樋口薫)

◆「正直、途方にくれるような思い」

 「棋院の経常収益は30年前の半分」「数字に基づく意思決定が欠けている」

経営改革委員会の最終報告について記者会見する稲田修一副委員長(左)と武宮陽光・日本棋院理事長=東京都千代田区の日本棋院で

 10月の経営改革委の記者会見では、元総務官僚の稲田修一副委員長から厳しい言葉が続いた。経費削減策として、棋士の退職金や年金の2割カット案を提示。委員長を務めた武宮陽光・日本棋院理事長は「正直、途方にくれるような思い」と本音を漏らした。

 収支悪化の要因に挙がったのが、棋士への手当や福利厚生費などの支払いの割合が増加し、経常収益の半分以上を占めている点。2007年に一般企業の給与に当たる「棋士普及手当」を2割程度削減したが、改善には至っていない。

◆すぐには「引退制度」改革に着手できない

 背景には、囲碁の競技人口の減少が続く中、棋士の人数が多すぎるという問題がある。棋院の現役棋士は約350人で、将棋の棋士の約2倍。将棋界では成績不振に伴う強制引退の制度があるが、囲碁界では引退は本人の意向次第だ。

 棋院は既に、年6人の棋士採用枠を2028年度から4人に減らすと発表。稲田副委員長は「一般企業ならリストラをやる状況だが、退職金や年金を受け取る人が多くなるため、引退を促進することもできないところまで財政状況がひどくなっている」としており、ただちに引退制度改革には着手できないのが現状という。

◆棋士からもリストラ必要論が

 もうひとつの大きな課題が、JR市ケ谷駅近くにある東京本院会館ビルの老朽化対策だ。1971年に完成し、公式戦の対局場や普及の拠点としてファンに愛されてきたが、修繕費用が重くのしかかっている。最終報告では、売却して地区外に移転する案か、不動産デベロッパーと協働で建て替える案が有力とされた。ただ、建て替えの場合は12億円近い費用負担を寄付金などで賄う必要があり、実現へのハードルは高い。

日本棋院の東京本院会館ビル=東京都千代田区で

 一方、棋士からは待遇の悪化を懸念する声のほか、若手を中心に「採用数を絞るなら、引退制度も検討しなければ筋が通らない」との意見も渦巻く。あるベテラン棋士は「棋士間では何年も前から危機感を共有していたが、執行部の対応は遅すぎた。市ケ谷を出る前にまずリストラに手を付けるべきだ」と強調。第一人者の一力遼天元(28)=五冠=も、東京新聞の取材に「この状況で今の制度を存続していくのは難しい。抜本的な改革をする時期に来ている」と訴えた。

 武宮理事長は「来年3月までにある程度の方針を固めたい」としている。囲碁界はこの窮地に起死回生の一手を放てるか、注目が集まる。

 日本棋院 1924年創設の囲碁のプロ団体。棋士を統括し、普及活動や棋戦運営を行う。本部は東京・永田町から港区高輪を経て1971年、市ケ谷に移った。名古屋市に中部総本部、大阪市に関西総本部を置く。1950年に独立の関西棋院は別団体。

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(左)経営改革委員会の最終報告について記者会見する武宮陽光・日本棋院理事長 (右)日本棋院の東京本院会館ビル=東京都千代田区で

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