「私鉄王国」に潜む廃線通告! 100km超路線の「老舗ローカル線」を救えない自治体ジレンマ
廃止回避の自治体動き
富山地方鉄道は2025年9月25日、公式ウェブサイトで「弊社鉄道線における関係自治体との協議状況等について(ご報告)」を公開した。同ページでは、まず人口減少や少子高齢化により利用客が減少するなか、さまざまな企業努力を重ねてきたことを説明している。
【画像】富山地方鉄道の「ご報告」を見る!
しかし、
・燃料や資材費の高騰
・労働力不足
が重なり、費用が収入を大きく上回る状態が続き、路線維持が困難になっているという。
2021年7月には、富山県に対して鉄道全線の維持が難しい旨を伝え、県や沿線自治体と協議を重ねてきた経緯も示されている。本線では、電鉄富山~上市間の採算区間と上市~滑川間の不採算区間、立山線では寺田~五百石間の採算区間と五百石~岩峅寺間の不採算区間を、従来通り単独で運営する方針だ。
不二越上滝線については、2026年度から富山市の示す「みなし上下分離」方式により維持する計画も記載されている。みなし上下分離とは、鉄道の施設部分(線路や駅舎など)と運行部分(列車運行や保守運営)を形式上分離し、運営主体が維持費や運行責任を一定条件の下で分担する方式である。これにより、自治体の財政負担を抑えつつ路線を維持できる仕組みとなっている。
最後通告後の協議結果

富山地方鉄道のウェブサイト(画像:富山地方鉄道)
これに先立ち、富山地方鉄道は2025年9月1日、富山県に「富山地方鉄道 鉄道線経営の範囲に伴う運営区間の考え方について」を提出した。
資料では、本線の滑川~新魚津間について廃止届出の準備に入ることを明示した。本線の新魚津~宇奈月温泉間も廃止を基本とし、自治体から要請があれば条件に応じて運営のあり方を協議するとした。立山線の岩峅寺(いわくらじ)~立山間についても廃止届出の準備に入る方針を示している。
富山地方鉄道は2026年度以降、沿線自治体に対して対応の結論を2025年6月末までに求めてきた。しかし、明確な方針は示されなかったため、一部区間の廃止に踏み切ることにした。
単独運営区間のうち、不採算区間である本線の上市~滑川間と立山線の五百石~岩峅寺間については、自治体が駅を中心とした町の活性化など利用者増策に取り組むことを条件としている。
富山地方鉄道はこれまで県や沿線自治体への支援を求め続けてきたが、反応が芳しくないことから、「廃止」といういわば最後通告を突きつけた形となった。
地元報道によると、2025年11月22日、富山地方鉄道、富山県、立山町は協議を行った。立山線の岩峅寺~立山間は国の支援措置を活用することで、一旦廃止を回避した。本線の滑川~宇奈月温泉間は合意に至らなかったが、協議は継続するという。
私鉄王国の成立理念

2025年9月1日に富山地方鉄道が示した運営区間(画像:富山地方鉄道)
そもそも、富山地方鉄道とはどのような会社(鉄道)か。
現在の富山地方鉄道は、1943(昭和18)年の陸上交通事業調整法に基づき、富山電気鉄道を母体として発足した。当時、富山県内の私鉄や公営の鉄軌道、バス会社をすべて合併した形だ。こうした合併は富山県に限ったことではなく、当時は軍事統制の意味合いが強かったとされる。
現在の路線は、本線(電鉄富山~宇奈月温泉間)53.3km、立山線(寺田~立山間)24.2km、不二越線(稲荷町~南富山)3.3km、上滝線(南富山~岩峅寺)12.4km、富山港線(奥田中学校前~岩瀬浜)6.5km、富山軌道線8.7kmの合計108.3kmである。
一部路線の廃止で一時は100kmを下回った時期もあったが、大都市圏の私鉄や第三セクターを除けば、長期にわたり100kmを超える路線を持つ地方私鉄は富山地方鉄道のみである。この大規模な地方私鉄の存在により、富山県は「私鉄王国」と呼ばれてきた。
なお、本線の滑川~新魚津間は、現あいの風とやま鉄道(旧国鉄・旧JR北陸本線)とほぼ完全に並走している。電鉄富山~滑川間はそれぞれ離れた区間を走っているが、富山~魚津間全体で見ると競合関係にある。
研究ノート「ある地方鉄道創業者のアントレプレナーシップ(田中祥子)」(高岡法学第33号2015年3月)によると、国鉄と並走する区間は計画当時、私鉄は国鉄の枝線とみなされ、認可されなかった。しかし、創業者は「並行すれども競争せず」の理念を貫き、開業にこぎつけたという。
1943年の合併の際、富山県も関与しており、現在でも少額ながら富山地方鉄道の株式を保有している。富山地方鉄道は、大規模な地方私鉄であると同時に、発足当時から第三セクター的な要素も備えていたといえる。
株主構造の富山関係

富山地方鉄道本社(画像:菅原康晴)
有価証券報告書によると、2025年3月31日現在、富山地方鉄道の筆頭株主は立山黒部アルペンルートを運営する立山黒部貫光(かんこう)で11.05%、次いで富山県が3.56%である。上位には銀行や保険会社、電力会社なども名を連ねるが、上位10社を合計しても22.82%にとどまり、支配的な株主はいない。
一方、あいの風とやま鉄道は第13期事業報告によれば、筆頭株主が富山県で63.0%、次いで富山市が14.0%となっている。沿線自治体や電力会社も株主に名を連ねるが、富山県が過半数を占めており、典型的な第三セクター鉄道の株主構成である。
富山地方鉄道の筆頭株主である立山黒部貫光も、有価証券報告書によると2024年3月31日時点で、筆頭株主が富山地方鉄道で24.8%、次いで富山県が17.8%となっている。両社は相互に株式を持ち合う関係であり、あいの風とやま鉄道ほどではないものの、富山県も大きく関与していることがわかる。
富山県が富山地方鉄道に直接出資している割合はわずかである。しかし、立山黒部貫光については、過半数ではないものの大株主である。立山黒部アルペンルートを売り込みたい富山県としては、立山線を存続させることでルートの寸断を避けたい意向が働きやすい環境にある。
一方で、富山地方鉄道とあいの風とやま鉄道が一部競合する本線では、こうした意向は働きにくい。かつてあいの風とやま鉄道が国鉄・JRだった時代であれば、持ち株比率は少なくても、富山県は富山地方鉄道を躊躇なく支援する方向に動けたかもしれない。
しかし、現在は第三セクターの支配株主という形で、並行在来線の
「実質的な経営者」
となっている。形式上は民間企業である富山地方鉄道を支援しにくくなった側面もあると考えられる。
地方鉄道再生モデルの期待

立山駅から先のアルペンルートは世界屈指の山岳観光地(画像:立山黒部貫光)
前述のとおり、2025年11月22日の協議時点では、富山地方鉄道が自治体に示していた一部区間の廃止は一旦回避された。しかし、富山県などが示した支援措置は一時的な延命に過ぎず、路線の継続的な存続は現時点では不透明である。
特に本線の滑川~新魚津間は、富山県が株式の過半数を占めるあいの風とやま鉄道と完全に競合する区間であり、両社の調整は容易ではない。地図上では、並走区間を廃止し、電鉄富山から滑川方面、新魚津から宇奈月温泉方面の列車をあいの風とやま鉄道に乗り入れさせれば重複区間を解消できそうだ。しかし、現実はそう単純ではない。
両社の線路幅は同じ1067mmであるものの、鉄道は電気系統や信号など複雑な設備・技術によって成り立っている。そのため簡単に乗り入れられるわけではない。
既に2026年度から「みなし上下分離」方式で不二越上滝線を維持する方針を示した富山市も、「ライトレール以来の大事業になる」としている。財政負担を含め、今後詰めるべき課題は多い。
鉄道として存続させる意義の是非は別として、存続させるなら、富山地方鉄道と自治体はこれまで以上に知恵を出し合う必要がある。新たな地方鉄道の存続・再生モデルとなることが期待される。