ソフトバンクG「株価4割」下落の深層…オープンAIが進める「200兆円投資」は回収可能か、それともバブル崩壊の序章か

ソフトバンクGの株価は先月、最高値から4割急落し、個人投資家の間に動揺が広がっている。背景にあるのは、同社からオープンAIへの約5兆円投資、そしてオープンAI自体が描く「200兆円超」という途方もない投資計画への懸念だ。2000年のテックバブル崩壊を証券アナリストとして経験した、『マネーの代理人たち』の著者で経済ジャーナリストの小出・フィッシャー・美奈氏が、企業も市場もAIへ「オール・イン(全賭け)」する現状に警鐘を鳴らす。

どうした?ソフトバンク株の急落

「ぎゃー」「なんやねん、これ」「大火傷おったわ」「底着いた。買いでしょう」「逃げた方がいいぞ」「孫さんについて行くのみ!」

先月、ソフトバンクグループ(ソフトバンクG、銘柄コード9984)の株が最高値から4割も下がって、株掲示板には個人投資家らの動揺のざわめきが広がった。

どうした?ソフトバンク株の急落, AI投資にとんでもなくお金がかかる訳, AIに「オール・イン」(全賭け)投資するリスク, AI過剰投資で「テックバブル崩壊」は繰り返すか?

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それもこれも、同社が「チャットGPT」を運用するオープンAI社に対して、約5兆円という、どえらい投資をしているためだ。追加投資の資金繰りの為に9000億円分のエヌビディア保有株を全売却したことや、チャットの競合であるグーグルAI「ジェミニ」の新バージョンの評価が高かったことなどが市場から悪材料視された。

ソフトバンクGはビジョンファンドを通じて、すでに100億ドル(約1.5兆円)の投資をしているが、年内に225億ドル(3.5兆円)の追加投資を実行する。

オープンAI社の私募市場での評価額は、日本円で約75兆円(5000億ドル、10月時点)と、日本最大企業トヨタの時価総額(約50兆円)をあっさり抜く。7-9月の四半期だけで推定約120億ドル(1兆8500億円)の大赤字を計上したにもかかわらず、1兆4000億ドル(約210兆円)という、とてつもない投資計画を進めている。

ここでまず、どうして一企業の投資金額が「200兆円」などという数字になるのか、という素朴な疑問がわく。いったい何に使うのか?

その使途の一つは、現在AIに必要なグラフィックチップ(GPU)市場をほぼ独占しているエヌビディアの競合を育てるべく、半導体メーカーのAMD(アドバンスト・マイクロ・デバイセス)社に投資することだが、お金が最も必要なのは、AI専用の巨大データセンターの構築だ。オープンAI、ソフトバンクG、オラクル3社が提携して、米国内にAIデータセンターを設置する「スターゲート」計画が発表されている。

AI投資にとんでもなくお金がかかる訳

でも、オープンAIはソフトウェア会社だ。それが何故データセンターに投資して、「インフラ会社」になろうとするのか?

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チャットGPTなどの大規模言語モデル(LLM)では、コンピュータが世の中のありとあらゆるテキストデータを「学習」することで、自然な言語の出力が可能となる。より多くのデータ学習のためには、人間で言えば、無数のニューロン(神経細胞)をシナプス(情報をやりとりするつなぎ目)がしっかりと結び付けて、あちこちで化学反応が起きているような賢い頭脳が必要だ。

コンピュータでシナプスに相当するのは、「パラメータ(変数)」。入ってきた情報に一定の条件を与えて結果に影響を与え、入力と出力の変換を調整する「つまみ」のような働きをする。そのパラメータの数がチャット GPT -3では1750億個だった。GPT-4は非公開だが、数兆個とも言われる。

料理に例えると、塩や砂糖の匙加減は、それによって料理の出来栄えという結果が左右されるから、一種のパラメータだ。このメニューの時はこういう匙加減で、という調整の仕方を沢山覚えていた方が、料理の腕前は上がる。AIでも「この言葉にはこれくらいの重要度がある」というウェイト(重み)を数値化した調整つまみが多い方が、人間の言葉のつながりや関連性などのパターンを沢山覚えることができる。

膨大な人間の言語パターンをAIに「学習」させるためには、初期化されたパラメータとしてランダムな数字をまず使い、世界中のテキストデータを読み込んで答えを出させ、正しい答えとの誤差が小さくなるように、その何千億~数兆個というパラメータを何億回も繰り返し調整する作業が行われる。パラメータが最適化されてはじめて、自然な言い回しや正しい意味のつながりを持つアウトプットが可能になる。

この作業には、数万枚の高性能GPUを数か月にもわたってフル稼働させる必要があるという。チャットGPT -3の学習時の消費電力は1.29ギガワット時(GWh)だったとされるが、GPT-4では50―80ギガワット時まで増大したと推定される。

試しに「チャット」に聞いてみたら、「50ギガ(500億)ワット時」というのは、新幹線を東京から新大阪まで8000本走らせたり、カップラーメンを電子レンジで16.6億杯温められる(蓋にはアルミがついているので、絶対やってはいけないが)発電量だという答えが返ってきた。AI学習は電力を爆食いするのだ。

オープンAI社のサム・アルトマンCEO (最高経営責任者)は、人間を超える人工知能(超人工知能)を目指して開発を進めるには、数兆ドル規模のインフラ投資が必要だとかねてから訴えており、それに共鳴したのが日本のビジョナリー、孫正義氏。「世界ナンバーワンのAIプラットフォーマーになる」ために「オール・イン(全力投球)」する、と熱く語る。AIをインフラから支配する「胴元」になる、とも宣言している。

「スターゲート」は、5ギガワット(ピーク時で最大5GWの電力を一度に消費できる)データセンターを全米に複数建設する計画だ。超高密度ラックや最先端の冷却設備などを備えるAI専用データセンターは通常のデータセンターの1.5~2倍高額で、自前の発電・送電施設まで作れば、ギガワットあたりの建設費用が400~600億ドルにもなるとも言われる。

ギガ単価が500億ドル(今の為替で8兆円近く)もすれば、5ギガワットのデータセンターを5か所作っただけで、200兆円近い資金が飛ぶ。

AIに「オール・イン」(全賭け)投資するリスク

しかも、それでは終わらない可能性が高い。

一部で報じられるところでは、アルトマン氏が社内メモで、2033年までに「250ギガワット」への能力増強が必要だという見方を社員に伝えたらしい。そうだとすると、上記の計算では「2000兆円」という、めまいのしそうな超巨額資金が必要になる。

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サム・アルトマン氏/Photo by Gettyimages

ソフトバンクは、この底なし沼のAI投資にどこまで付き合ってコミットするのだろう。投資回収できるのかーーその心配が株価に表れている。

AIに「オール・イン」しているのは、ソフトバンクだけではない。

マイクロソフト、アマゾン、アルファベット(グーグル親会社)、メタ(旧フェイスブック)の4社だけで、今年の投資額は3600億ドル(約56兆円)に上る。その大半がAI投資だ。これは米GDPの1.2%に相当する。今年の米GDP成長は1%前半から半ば程度と見られているので、経済成長の大部分がAI投資に支えられている。

言い方を変えると、わずか4社のテック企業がAI投資をやめたら米国の経済成長が止まってしまうのだ。

また株式市場では、AI関連の巨大テック企業が「市場そのもの」になりつつある。米国では、エヌビディア、アップル、マイクロソフト、アマゾン、アルファベット、メタ、それにテスラを加えた「マグニフィセント・セブン」が、S&P500指数の時価総額の3割超を占める。これら企業の業績が良くて株が上がれば市場全体が高騰しやすく、反対に業績不調だと下がる。わずか7社の株が市場を動かすのだ。

日本株はそこまで極端ではないとは言え、ソフトバンクGは日経平均の5%程度の寄与度があり、同社株が大幅下落した日は日本株市場に重しがかかる。それに日本株を動かすのは海外マネーだから、米国市場が変調をきたせば、その影響をもろに受ける。

AIへの投資集中を株のポートフォリオに例えれば、多くの銘柄に投資してリスクを分散するかわりに、1銘柄に全財産を賭けるようなものだ。もはや株式市場や経済そのものが、AIに「オール・イン」する高リスクのポートフォリオになっていると見ることができる。

AI過剰投資で「テックバブル崩壊」は繰り返すか?

筆者は2000年ごろ、証券会社のジュニア・アナリストとしてインターネット業界を担当したことがある。時まさに、ネットバブル崩壊直後で、前任者のシニア・アナリストが「強気の買い」推奨を残して辞めた後の穴埋め役だった。光通信やソフトバンクは、株価がピークの数十分の1に暴落しても買い手のつかない不人気株で、たまに来るのは「まだ空売りできるか」というヘッジファンド顧客の問い合わせくらい。

その時の教訓は、過度に楽観的な将来予測に基づく「過剰投資」だ。

バブルが弾けた時、インターネットのインフラである光ファイバーの使用率は1~5%でしかなかった。AT&T、ワールドコム、クエスト、レベル3など大手通信キャリアがこぞって敷設した長距離光ファイバーのほとんどは未使用で、点灯さえされない「ダークファイバー」として長い間、暗闇に放置された。

バブル崩壊の後には、米国史最大(当時)のワールドコム倒産や、資金引き上げが飛び火したドットコム赤字企業破綻の死屍累々の惨状が続いた。ソフトバンクは投資ファンドから通信会社に事業モデルを転換し、毎月手堅く現金収入を稼ぐ「キャッシュフロー経営」を投資家にアピールして生き延びた。

それから四半世紀。その時のインフラが今のネット社会の花を咲かせ、ソフトバンクは再び投資ファンドになった。だが昨今のAI投資を見ると、どうしても「デジャブ(既視感)」を覚えてしまう。過剰投資は大丈夫かと気にならざるを得ない。

投資をするからには、その事業が投資に見合う利益を生んで資金回収できる、という目処がなければならない。でも、仮に250ギガワットの能力開発に「2000兆円」の投資が必要で、それを10年で回収しようとすれば、世界で10億人の個人ユーザを獲得しても、年間20万円の利用料の徴収が必要になる。

月額では1万7千円程度。現行のチャットGPT課金モデル、月額3000円の5倍以上になる。AIは今よりはるかに賢くなるのだろうが、それを料金に見合うように使いこなせるユーザーが、どれだけ現れるだろうか。

もう一つの課題は、電力消費と環境問題。アルトマン氏によれば、チャットGPTにたった一つの質問をするだけで、0.34ワット時の電力が消費されるという。環境に優しいことを強調したかったらしいが、たった一つのリクエストでLED電球を2、3分照らすことができると聞くと、罪悪感を覚えてしまう。

現実的ではないものの、仮に「250ギガワット」のデータセンターが連続フル稼働する世界を想定すると、1年の消費電力は2.19テラワット時。日本の総消費電力の2倍以上に相当する。それを火力発電で全て賄うなら、日本全体のCO2が排出されるという。冷却に必要な水資源も莫大で、環境へのダメージが大きい。

AIに投資を集中させる分、他分野への投資機会が逸失されているわけで、その社会コストも考える必要があるだろう。AI投資に限って考えても、今の大規模言語モデル(LLM)への継続投資が「超人工知能」に到達する道だという保証はないし、それ以前に、そもそも「超人工知能」が人類に具体的にどのようなメリットとリスクをもたらすのか、その議論が尽くされているようには到底見えない。

超巨額のAI投資に「オール・イン」する前に、吟味すべきチェックリストは長い。

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