トヨタ「センチュリー」独立。「超高級車」市場開拓で狙う“和製ロールスロイス”の座

トヨタが「センチュリー」独立を発表した。

「『最高峰』にして『別格』のクルマ」──。トヨタ自動車の豊田章男会長がこう表現する車種がある。トヨタの高級車種「センチュリー」だ。同社は東京ビッグサイトで11月に開催された「Japan Mobility Show 2025」で「センチュリー」を独立ブランドとして展開すると発表し、コンセプトモデルを公開した。開催期間中は、一目見ようと一般来場者が殺到し、一時入場規制がかかるほどの盛況ぶりだった。

トヨタはセンチュリーを、これまでのトヨタ、レクサス、GR、ダイハツに続く「第5のブランド」として位置づけ、世界の超高級車市場へ本格参入する。トヨタでエンジン開発に約30年携わった愛知工業大学の藤村俊夫客員教授によると、3000万~5000万円超の価格帯で、「ロールスロイス」「ベントレー」「マイバッハ」という世界3大超高級車ブランドに対抗し、トヨタが強みとする「環境性能」を武器に市場を開拓する狙いがあるという。

「センチュリー」独立を発表した豊田章男会長。

藤村俊夫(ふじむら・としお)

藤村俊夫(ふじむら・としお)

愛知工業大学工学部客員教授(工学博士)。トヨタ自動車工業(現トヨタ自動車)入社後31年間、本社技術部にてエンジンの設計開発に従事。2004年に基幹職1級(部長職)となり、エンジンの技術開発推進、将来の技術シナリオ策定に従事。2011年に愛知工業大学に転出し、2018年4月より同大学工学部客員教授。またTouson自動車戦略研究所を立ち上げ、自動車関連企業の顧問をはじめ、コンサルティングなどを行っている。著書に『EVシフトの危険な未来 間違いだらけの脱炭素政策』(日経BP)。

皇室も利用する最高峰車種、技術継承の狙いも

「センチュリーが世界3大ブランドに挑むとなれば、ブランドとして独立させないと認知度が低い。トップオブトップの車として、トヨタ=センチュリーというイメージを浸透させたいのではないか」

元トヨタ自動車幹部で、現在も自動車業界の動向に詳しい藤村氏は、今回のブランド独立の狙いをこう解説する。

現在、世界の超高級車市場は、独BMW傘下の「ロールスロイス」(英国)、独フォルクスワーゲン(以下VW)傘下の「ベントレー」(英国)、独メルセデス・ベンツ(以下ベンツ)傘下の「マイバッハ」(ドイツ)の3ブランドを中心に形成されている。いずれも3000〜5000万円前後の価格帯で、「匠の技」による少量生産が大きな特徴だ。

現在はメルセデス・ベンツ傘下になった「マイバッハ」。

藤村氏は「ベンツとBMWは比較的、高級車路線で展開してきて、VWは小型車からミドルクラスまで幅広くやってきた。ドイツの2社(ベンツ・BMW)に対抗するため、ポルシェやアウディ、ベントレーを傘下にして高級路線にも進出してきた経緯がある」と解説する。

対するセンチュリーは1967年の初代モデル誕生以来、トヨタの最高級車としてだけでなく、日本を代表する「ショーファーカー」(専属運転手の運転を前提にした車種)として、皇室や政府関係者、大企業経営者などに利用されてきた。

センチュリーは皇室関係者も利用している。

2018年6月には21年ぶりにフルモデルチェンジし、2023年9月にはSUVモデルを発売した。

だが、藤村氏によると、これまでは「トヨタブランドの最上級車」という位置づけで、独立したブランドとしての世界的認知度は低かったのが実情だったという。

「センチュリーも3大ブランドも希少価値があるから価格が高い。儲けるためのブランドではない。メインの収益はトヨタやレクサスで確保しつつ、センチュリーのブランド独立によってトヨタとしてのブランド価値を高める狙いがある」(藤村氏)

SUVタイプもあるセンチュリー。

センチュリーは月間の販売台数は30〜50台と極めて少なく、社内で技術の高さを認められた専門の熟練技術者が、塗装やプレス、組み立てなど多くの工程を手作業で手がける。エンブレムでさえ、職人が手作りするほど細部にまで「匠の技」を結集するとともに、開発当時の最新鋭の技術を搭載した文字通り、トヨタ最高峰のモデルだ。

以前、筆者の取材に応じた別のトヨタの技術者によると「センチュリーの製造に関わることが多くの技術者の一つの目標になっている。それだけ社内でも特別な車ということ」という。

「センチュリーはトヨタ内で認められた熟練工の技が集まった車種。センチュリーのブランド独立によって、熟練の技術を継承し、次世代を担う技術者を育成するという意味でもセンチュリーのブランド独立は意義がある」(藤村氏)

職人の手作業によって生産されるセンチュリー。

トヨタがドイツ勢に挑む「2つの勝機」

3大ブランド以外にもステランティスのようなグループもある。

これまでドイツ勢の3ブランドを中心に形成されていた市場において、トヨタに勝機はあるのか。藤村氏は2つの点でトヨタに勝機があると分析する。

1つ目が、1社で小型車から超高級車まで全て手がける「全方位メーカー」である点だ。ダイハツや日野自動車などを加えると、そのラインナップはさらに広がる。

これに対し、ドイツ3社の場合、アウディやポルシェ、ベントレー(ともにVW)、ロールスロイス(BMW)など多くが買収によって手に入れたブランド。いわゆる“純血”ではない。「フィアット」「プジョー」「シトロエン」「アルファロメオ」などで構成する「ステランティス」というグループもある。

それだけに「欧米メーカーはブランドとして寄せ集めのような印象を持つ人が多いのではないか」と藤村氏。「トヨタは自社内で価格帯別にブランドを明確にできる。その点で欧米勢に対して分がある」と踏む。