中国が北方草原に築いた「レアアースの都」世界の供給網を支配する「長い腕」とは

中国内モンゴル自治区包頭市内に掲げられた「世界のレアアースの都」の標語=7月(共同)

 中国北部にある草原の小都市が世界のサプライチェーン(供給網)を揺らしている。内モンゴル自治区包頭には、世界最大の鉱山から高性能磁石の生産までレアアース(希土類)の関連産業が集積する。

 レアアースは、「産業のビタミン」と呼ばれ、家電や自動車、最新鋭の戦闘機まで幅広い工業製品に欠かせない原材料だ。米国のトランプ政権が仕掛けた関税合戦への報復として、中国がレアアース輸出を規制すると、世界中の産業がパニックに陥り、貿易摩擦の攻守は一気に逆転した。

 中国が一歩も引かない強気を貫いた背後には、40年以上かけて「伝家の宝刀」を磨き続けた長期戦略がある。その剣先は外交関係が悪化する日本へ向けられる恐れも出てきた。(共同通信=西川廉平)

▽中東には石油、中国には…

 北京から高速鉄道で約3時間。かつて騎馬民族の侵入を防ぐために築かれた万里の長城をトンネルで抜け、モンゴル高原にある包頭に着くと「世界のレアアースの都」と誇らしげに大書された看板が目に飛び込んできた。

 ホテルは「レアアース国際大酒店」、道路は「永久磁石通り」といった名称があふれ、街全体が鉱物資源に支えられている様子がうかがえる。

「レアアース大通り」と書かれた道路標識。奥はレアアース磁石大手「江西金力永磁科技」=7月、中国内モンゴル自治区包頭市(共同)

 中国はレアアースの生産量で約7割、精錬では9割の世界シェアを占める。中国の国内では埋蔵量の8割強が包頭北部にある「バヤンオボー鉱山」に眠る。モンゴル語で「豊かな神の山」を意味するという。包頭は元々、鉄鋼産業で発展した都市として知られるが、レアアースはこの山から鉄鉱石を掘り出す際の副産物だった。

 「中東には石油があり、中国にはレアアースがある」―。包頭市内にある「レアアース公園」の壁面には、かつての最高実力者、故鄧小平氏が1992年に語った言葉が刻まれていた。豊富な資源がありながら「白菜のような安値」(中国メディア)で輸出していたが、鄧氏はレアアースの戦略的価値に着目し、国家支援による産業発展を加速した。

 海外にも触手を伸ばし、1995年には中国資本が米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)傘下の磁石メーカーを買収し、生産技術を中国へ移転した。1980年代まで世界最大のレアアース生産国だった米国は、次第に中国とのコスト競争に敗れ、米国内の鉱山は相次いで閉鎖された。

故鄧小平氏の言葉が大書された壁面=7月、中国内モンゴル自治区包頭市(共同)

 ハイテク工業団地では、レアアース磁石の世界大手「江西金力永磁科技」の工場拡張のためブルドーザーがうなりを上げていた。タクシー運転手は「以前は発展の遅れた街だったが、政府の呼びかけに応じて新しい工場が次々と建てられている」と話した。サプライチェーン下流の先端材料の集積も進み、包頭市の2024年の経済成長は前年比8・1%となり、全国の5・0%を大きく上回った。

 現地では、包頭にもう一つの顔があることに気づいた。ホテルにチェックインすると「外国人が何をしに来た」「どの電車で来た」と子細に尋ねられた。なぜそんなことを聞くのかと逆質問すると「ここは軍需産業の街だろう。公安からの要請だ」と答えた。

 そういえば街全体に物々しさが漂い、広場の一角には旧式戦車が展示されていた。1950年代にソ連の支援を受けて生産した中国初の国産戦車だという。幹線道路は車幅が非常に広いが、地元の人は「生産した戦車が通るためだ」と教えてくれた。

中国・包頭の広場に展示されていた旧式戦車=7月(共同)

▽新たな長征

 「武器」としてのレアアースは、現在の習近平体制となって一段と磨かれた。きっかけの一つが6年前の「ファーウェイショック」。第1次トランプ政権との貿易戦争が始まってから約1年が過ぎた2019年5月、習氏の腹心である当時の劉鶴副首相と米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表との交渉は合意目前と思われていたが、土壇場で決裂した。

 憤ったトランプ氏は中国の華為技術(ファーウェイ)を輸出規制の対象に加えた。中国のハイテク戦略の中核を担う企業だ。先端半導体を調達できなくなったファーウェイはたちまち経営危機に陥った。

 米国の輸出規制が強力なのは、その効力が「域外適用」として第三国の企業にも及ぶためだ。この規定は「ロングアーム(長い腕)管轄権」とも呼ばれ、日本企業も米国に従って部品供給を止めざるを得なかった。国際法上の問題があるとされ、当時は日本の経済産業省幹部も「米国のやり方は強引すぎる」と不満を漏らしていた。

 ファーウェイが制裁を受けた直後、習近平国家主席は南部のレアアース産地である山西省を訪れ、金力永磁の本社を視察。「レアアースは重要な戦略資源だ」と語り、外国の技術封鎖に対抗するため「核心技術を自前で掌握すべきだ」と号令をかけた。その足で習氏は中国共産党の苦難の歴史である「長征」の出発点、山西省于都県に向かった。

 長征とは、国民党の圧迫を逃れるため共産党が中国大陸を大移動した行軍のことだ。1934年に始まり、国民党の追撃をしのぎながら1万2千キロの難路を走破し北部黄土高原の延安に到着した。「抗日戦争」を耐え抜いた共産党は国民党との内戦に勝利して天下を取った。

 習氏はその出発点に立ち「今日新たな長征の途上にある。国内外の重大試練に打ち勝たねばならない」と述べ、米国との長期対立に備えるべきだと訴えた。

 域外適用によるファーウェイへの制裁を「覇権主義のツール」だと激しく非難していた中国だが、2020年には「輸出規制法」を制定し、同様の規定を盛り込んだ。国有企業の再編・巨大化も進め、分散していたレアアース生産を「北方稀土集団」と「中国稀土集団」の2社に集約。2024年にはレアアースが「国有の資産」であることを明確にし、産業全体を完全な国家統制化に置いた。同時に外国への依存を減らす「自立自強」戦略に基づいて半導体の国産化にも注力し、米制裁への耐性を強めた。

北方稀土集団のビル(奥)の前に設けられた「世界のレアアースの都」の標語が書かれたオブジェ=7月、中国内モンゴル自治区包頭市(共同)

▽同じやり方で

 今年4月、トランプ米政権が「相互関税」を発動すると、中国は待ち構えていたかのようにレアアースの輸出規制で反撃した。供給が途絶えた米産業界から一斉に悲鳴が上がった。影響は世界中に及び、日本ではスズキの静岡県の工場が停止した。

 さらに米中首脳会談を目前に控えた10月上旬には、中国はレアアースを輸出規制の域外適用の対象にすると突如発表した。より強力な措置で、例えば米国に輸出するため日本で生産した磁石であっても、中国産レアアースが少しでも含まれれば、中国当局の許可が必要だとした。ファーウェイが半導体不足で苦しめられたのと同様の「長い腕」で米国の急所を突いたわけだ。衝撃を受けたトランプ氏は「中国が極めて敵対的な手紙を世界中に送りつけた」と憤り、100%の対中関税を発動すると警告した。

 ただ輸出規制導入の裏で、実は中国政府の内部でも混乱が生じていたという。北京の国際筋によると、中国商務省にある輸出管理部門のレアアースの審査担当者は4月時点でわずか数人しかいなかった。「世界中から申請が殺到して完全にパンクしていた。輸出許可が出なかったのは意図的というよりも単純に事務処理が間に合っていなかった」と国際筋は説明する。

高速鉄道の包頭駅前にある、工事の中断したツインのタワーマンション=7月22日(共同)

▽剣の下

 米中両国は10月末に韓国釜山で開いた首脳会談で、貿易戦争を1年休戦することで合意した。ただ中国はレアアース規制の一部停止に応じたものの、規制そのものは撤廃しておらず、供給の「蛇口」を中国が握る状況が今後も続きそうだ。

 「われわれはぼんやりと眠っていた」。米国のベセント財務長官は首脳会談後に悔しさをにじませた。米国政府内には2010年の段階でレアアースの中国依存が「国防上の脅威」だとし「依存脱却に15年以上の時間を要する」と警鐘を鳴らす報告書があった。だが有効な対策が打たれないまま15年が過ぎ、中国による供給網の完全支配を許す状況に至った。

 差し迫った状況にあるのは日本も同じだ。高市早苗首相の台湾有事を巡る国会答弁に対し、中国は猛反発した。中国の専門家からは「報復として日本の防衛産業へのレアアース供給を止めるべきだ」といった強硬な意見が相次ぐ。

 日本は2010年にも沖縄県・尖閣諸島を巡る対立で中国からレアアース供給を止められた経験がある。その後、日本の政府や企業は中国依存を減らす努力を進めたが、それ以上のスピードで中国は供給網支配を強化している。

 ベセント氏は「われわれは中国のこの剣の下から抜け出さねばならない」と述べ、今後は日米やオーストラリアなどの有志国で新たな供給網の構築を加速させる方針を示した。

 レアアースに関連する企業が多く集まり、経済成長が著しい包頭だが、高速鉄道の駅の真向かいには、工事の中断したツインタワーのマンションが野ざらしになっていた。地元住民は「景気がいいのはレアアース関連企業だけだ。この辺の住宅価格はピークから約3割下がった」と話した。

 不動産バブルが崩壊し、中国の地方都市では工事の止まったマンション群はありふれた光景となっており、包頭でも数多く見られた。中国経済は内需低迷によるデフレ圧力にも苦しむ。政府が外国に対して強硬な姿勢を取る背景には、冷え込む国内経済への不満をそらす狙いもありそうだ。