完全無人タクシーが当たり前の中国と日本との差

中国・深圳で完全無人タクシーに乗車した感想, 70%のコスト削減を実現, グーグル出身者が創業、ナスダック上場, 日本勢は実証段階、商用化に壁, 技術・規制・スピード、すべてで差

車内から見た走行中の様子。タブレットには周囲の車両をリアルタイムで認識する3D画面が表示される(筆者撮影)

中国・深圳で完全無人タクシーに乗車した感想

午後8時半、中国・深圳。スマートフォンのアプリで配車を依頼すると、13分後に白い車両が到着した。運転席には誰もいない。小馬智行(Pony.ai)が展開する完全無人の自動運転タクシーだ。

【写真で見る】深圳市内を走るPony.aiの無人タクシー。屋根に搭載されたLiDARやカメラで360度を監視する

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深圳市内を走るPony.aiの無人タクシー。屋根に搭載されたLiDARやカメラで360度を監視する(筆者撮影)

配車アプリの画面には「安全担当者なし」の表示。ドアを開けると、運転席との間にアクリル板が設置され、物理的に運転席へのアクセスを遮断している。後部座席に座ると、目の前のタブレットに周囲の車両を3D表示した画面が映し出された。残り距離、到着予定時刻、そして「Pull Over」「Assist」といったボタンが並ぶ。

車両は北京汽車のBAIC Arcfox T5。Pony.aiの第7世代システムを搭載した最新モデルだ。目的地までの距離は約4.2km。夜の深圳市街を走り始めた車は、驚くほどスムーズだった。

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配車アプリで目的地を入力するだけ。UberやDiDiと変わらない操作感だ(筆者撮影)

35km/h制限の道路では上限速度を厳守し、交差点では確実に減速する。他車に追い抜かれても動じず、淡々と法定速度を守り続けた。60km/h道路では制限速度の上限に張り付いて走行する。車線変更は滑らかで、人間のドライバーのようなバラツキがない。

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夜の深圳を走行中。運転席には誰もいない(筆者撮影)

翌日、再び乗車した。今度は80km/h道路も走る少し長めのルートだ。直線道路に入ると、同乗者が声を上げた。「まっすぐなところでめちゃくちゃ安定してますね。全然ブレがない」。確かにその通りだ。80km/h道路でも制限速度の上限に張り付いて安定した走行を見せた。車線変更も的確だ。

ただし一度歩行者が飛び出した時は急ブレーキをかけて驚いた。割り込み車両には積極的に譲る傾向があり、2台同時に割り込まれる場面も。安全優先の設計だが、到着時間は通常のタクシーなら30分の区間を40分かけた計算だ。

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車内のタブレットに表示される3D画面。周囲の車両を認識し、信号機の色も把握している(筆者撮影)

「ここまで技術が完成されていて、日本ではなぜダメなのかわからない。法律なんですかね?」。同乗者の問いかけに、明確な答えは返せなかった。

70%のコスト削減を実現

Pony.aiのオフィスを訪問した際、担当者から聞いた技術説明は衝撃的だった。第7世代システムは、前世代と比較してセンサーやカメラを含む総コストを70%削減したという。つまり前世代の30%のコストで、同等の性能を実現した。

車両には9基のLiDAR、14基のカメラ、4基のミリ波レーダーなどを搭載。360度全方位を監視し、650m先まで認識できる。

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屋根に搭載されたセンサーユニット。9基のLiDAR、14基のカメラ、4基のミリ波レーダーを装備(筆者撮影)

信号機の色や残り秒数も把握しているが、これは信号機からの直接通信ではない。カメラでの視覚認識と地図会社・四維図新から提供される高精度地図情報を組み合わせた結果だ。

遠隔監視センターでは、技術的には1人で30台を監視できる水準に達している。ただし地方政府の規制により、実際の監視比率はそれより厳しく制限されている。

現在、Pony.aiは北京、上海、深圳、杭州の4都市で合計961台を運行中。2025年末には1000台、2026年末には3000台への拡大を目指している。料金は通常のタクシーと同額に設定されており、12.9kmの移動で32.8元(約660円)だった。日本なら3000円以上かかる距離だが、中国の物価を考慮しても競争力のある価格だ。

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Pony.aiの深圳オフィス受付。pony.aiのロゴとマスコットが並ぶ(筆者撮影)

中国政府は料金を通常タクシーと同額にするよう規制している。「人間より安くしたら失業する」という配慮だという。将来的には人手不足を補う形で普及していくのだろう。

配車の操作自体はUberやDiDiと変わらない。アプリで目的地を入力してタップするだけだ。ただし配車待ち時間は13〜15分程度かかることが多く、通常のタクシーアプリと比較すると長い。車両台数が需要に追いついていない証左だろう。

グーグル出身者が創業、ナスダック上場

Pony.aiは2016年12月、米国シリコンバレーで創業した。CEOの彭軍氏は清華大学からスタンフォード大学に進み、グーグルで7年勤務後、百度米国研究センター創設メンバーおよび自動運転部門の首席アーキテクトを務めた。CTOの楼天城氏は清華大学在学中にプログラミングの世界大会で12年連続中国1位を獲得し、百度の自動運転技術委員会首席を務めた経歴を持つ。

資金調達も順調だ。2018年にユニコーン入りを果たし、2020年にはトヨタから4億ドルの出資を受けた。2024年11月には米ナスダック市場に上場し、時価総額は約45億ドル(約7000億円)に達した。自動運転分野では当時最大規模のIPOだった。

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後部座席から見た車内。運転席とはアクリル板で隔てられている(筆者撮影)

同社の技術進化は目覚ましい。第5世代ではトヨタ・シエナ、第6世代では北京汽車の極狐(Arcfox)、第7世代では広汽集団のAION(埃安)を採用してきた。屋根を透明から通常の車に近づけるなど、コスト削減のため元の車種をできるだけいじらない設計に転換した。

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最新の第7世代車両。広汽集団のAIONをベースにしている(筆者撮影)

トヨタとの提携も深まっている。2023年には広州市で合弁会社を設立し、自動運転専用車両の量産準備に着手した。韓国のソウル、UAEのドバイ、ルクセンブルクなどでもテスト走行を実施しているが、日本での展開計画はまだない。

日本勢は実証段階、商用化に壁

一方、日本の自動運転はどうか。

長野県塩尻市では、ティアフォーが2024年10月31日に「運転者を必要としない自動運転車(レベル4)」としての車両認可を取得し、2025年1月9日付で道路交通法に基づく「特定自動運行(レベル4)」の許可も得た。だが、運行はルートや条件を絞り込んだ形での段階的な実装であり、都市全域に広がる無人タクシーの常態とは距離がある。

名古屋ではNTTドコモが米May Mobilityと組み、中心部での定期運行を続けている。2024年11月に始まった運行は2025年3月まで実施され、さらに2025年10月14日から2026年3月19日までの運行も公表された。もっとも、運行形態はレベル2で、無料の実証にとどまる点は変わらない。

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トンネル内を時速80kmで走行中。タブレットには残り5.7km、到着まで14分と表示されている(筆者撮影)

トヨタとソフトバンクの共同出資会社モネ・テクノロジーズも、東京臨海部で実証を継続し、2025年8月からは豊洲側にも運行範囲を広げている。ただ、ここでも中心はレベル2の枠内での検証だ。

資金面でも差は大きい。ティアフォーの累計資金調達額は約296億円とされるのに対し、Pony.aiは累計で10億ドル(約1500億円)超と報じられてきた。技術の完成度だけでなく、規制環境と資本の厚みが、事業化の速度差として表れている。

技術・規制・スピード、すべてで差

深圳の夜、完全無人のタクシーは何の問題もなく目的地に到着した。配車待ちの長さや、法定速度厳守による時間のかかり方といった課題はあるものの、技術的な完成度は想像以上に高い。

日本でライドシェアすら議論が進まない中、中国では無人タクシーが日常の風景になりつつある。日本政府は2025年度に50カ所、2027年度に100カ所以上での自動運転サービス導入を目標に掲げているが、Pony.ai一社だけで既に4都市961台を展開している中国とは、スケールが桁違いだ。

技術開発、規制緩和、事業化のスピード。深圳の夜の体験は、この3つすべてで日本が後れを取っている現実を突きつけた。