まさかの「トヨタ再登板」自工会が次期体制を発表 トヨタ佐藤社長が会長へ…新7つの重点課題とは

 日本自動車工業会(自工会)は、2025年12月18日の理事会で、来年度の重点テーマ「新7つの課題」と次期体制を決定した、と発表した。特に注目なのは、2026年1月1日付でトヨタ自動車が会長会社となり、トヨタの佐藤恒治社長が自工会会長に就任する点だ(これまでの自工会会長はいすゞの片山正則氏)。会見で「なぜ再びトヨタで、なぜ佐藤氏なのか?」と記者から質問があり(片山会長の前任はトヨタ・豊田章男会長だった。つまり2年置いて再びトヨタが会長会社になるということ)、片山会長はこれまでの「会長職輪番制」、つまり持ち回り方式ではなく、これから数年の日本自動車界の“戦い方”を見据えた決定だと強調。大変な時代だからこ適任者を選んだ、と語った。理事会全会一致だったそう。関税や輸出規制、半導体・レアアースといった経済安全保障の波が押し寄せる今、自工会はどこへ舵を切るのか。クルマ好きとして押さえておくべきポイントを整理する。

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文:ベストカーWeb編集部、写真:ベストカーWeb、トヨタ自動車

「新7つの課題」って結局なに? 自工会が示した来年度の地図

 自工会が本日の理事会にて「来年度の重点テーマ」として正式決定したのが、従来の7つの課題を発展させた「新7つの課題」だ。大枠の考え方として、自工会は「日本のモノづくりの未来を守り育てること」を使命に掲げ、競争環境の激化と技術変革の加速を踏まえ、生産性向上と国際競争力の強化を念頭に置くとした。

 その「新7つの課題」は以下の通り。クルマ好きにとっては「税制」や「マルチパスウェイ」が特に刺さるが、どれもクルマの値段・選択肢・買いやすさに直結する。

【新7つの課題】

①重要資源・部品の安全保障

②マルチパスウェイの社会実装

③サーキュラーエコノミーの仕組みづくり

④人材基盤の強化

⑤自動運転を前提とした交通システム確立

⑥自動車関連税制 抜本改革

⑦サプライチェーン全体での競争力向上

 言い換えるなら「クルマを作れる国であり続ける」「売れる国であり続ける」「選べる市場であり続ける」を、業界団体として本気で取りに行く宣言とも捉えられる。ちなみに昨年度までの「7つの課題」は以下のとおり。

【従来の「7つの課題」】

①物流・商用・移動の高付加価値化/効率化

②電動車普及のための社会基盤整備

③国産電池・半導体の国際競争力確保

④重要資源の安定調達と強靭な供給網

⑤国内投資を不利にしない通商政策

⑥競争力あるクリーンエネルギー

⑦業界横断のデータ連携(部品トレサビ含む)

 昨年度版と今年度版を比べると、やや抽象度が増したようにも見える。対象領域がより広範囲になり、自工会と正副会長の「やらなきゃいけないこと」が増えたようにも見える。がんばってほしい。

2026年1月から日本自動車工業会の会長職に就任する佐藤恒治トヨタ自動車社長。現在56歳で、くしくも豊田章男会長が2012年に初めて自工会会長職に就任した時と同い年

次期会長はトヨタ佐藤恒治氏へ—2026年1月1日に体制移行

 次期体制は明快で、2026年1月1日付でトヨタ自動車が会長会社となり、佐藤恒治社長が自工会会長に就任する。理事の全会一致で決定したという。

 会見で片山会長は、今回の体制移行を「なるべく早く新体制に移行したほうがいい」と説明。直近ではジャパンモビリティショー2025が無事に終了し、来期以降の重点テーマが固まったタイミングでもある、とした。

日本自動車工業会で実施された片山会長の会見。多くの記者が集まった

 また片山会長自身は会長職を退く一方、副会長としてチームに残ることも明言している。会長経験者が自工会の副会長職に残ることは異例で、ここは「交代=路線変更」ではなく、より「チーム戦」を強める布陣と見ていい。

 会見で記者から「一代おいて再びトヨタが会長会社になった意義」「なぜ佐藤氏なのか」と問われると、片山会長は、過去の経緯に引っ張られた決定ではないと繰り返し説明した。これからの2年間、そして数年間で自動車産業が直面する“戦い”を見据え、自工会として何をするかを議論し尽くした結果だという。

 さらに「会長が先に決まるのではなく、課題によって会長会社が変わってくるイメージ」とも語っている。従来の「輪番制」よりも(これまで自工会会長職はトヨタ、日産、ホンダが順番で回していた)、優先テーマを推進するのに適したリーダーシップを選ぶ——自工会が、より政策提言型・実行型に寄っていく示唆にも見える。

 片山会長コメントでは、世界情勢の不確実性、新興勢力の急速な技術・品質・コスト進化に触れつつ、日本の自動車産業が「大きな転換点」にあるという危機感もにじませた。主要国が関税や輸出規制など政策手段で自国産業を支えるなか、企業努力だけでなく、政策、国民の理解、他産業との連携を含む官民一体の取り組みが不可欠だという。

 会見でも同様に、関税は各国事情が絡み難しい対応を迫られること、半導体やレアアースなどの問題が“経済安全保障”として立ち上がっていることに触れた上で、世界への貢献を理解してもらうこと、日本国内でも自動車産業の重要性をより理解してもらう必要があると語った。

いちばん効くのは「税制」と「マルチパスウェイ」の現実解

 今回の自工会会長交代劇、穿った見方をすれば「いまの日本のモビリティ社会を引っ張るにはトヨタが自工会会長職を引き受けるしかないだろう(≒日産やホンダでは難しいだろう)」ということと、「競争と協調のうち、協調領域を広げ、自工会はチームで支える、という体制を実践した片山会長の功績は案外大きい」ということ。

 正直いってこれまであまり存在感のなかった日本自動車工業会という組織を、豊田章男前会長が叩いて引っ張ってかき回して進めて引き上げて、「日本の自動車メーカーがチームになって課題に取り組む」という組織に大改造した。それを、自工会初の商用車メーカー出身者である片山会長が引き継いで「チーム戦」の地歩を固め、再び若いトヨタ佐藤社長へ引き継いだわけだ。

 ちなみに佐藤恒治社長は現在56歳。これは2012年に豊田章男会長が初めて日本自動車工業会の会長職に就任した時と同年齢となる。因果ですなあ……。

「新7つの課題」の解決は難しく見えても、最終的に効いてくるのはシンプルだ。買うときの負担(税制)、選べるパワートレーンの現実解(マルチパスウェイ)、そして部品・資源制約下でもクルマを作り続ける体制(安保・サプライチェーン)をしっかり前へ進める。ここが揺らげば日本の自動車産業そのものの危機に直結する。

 佐藤新会長体制の自工会が、これらを「業界内の総論」から「社会実装」へ押し出せるか。自工会が掲げた「協調領域の拡大」が、メーカー間の壁を越えた実行に至るか。2026年以降、日本のクルマの競争力だけでなく、私たちがクルマを楽しめる土台そのものを左右する局面に入った。