エア・ウォーター【4088】不適切会計で株価急落のその後、売り集中からどうなる? PBR1倍割れの“火中の栗”は拾う価値があるのか

エア・ウォーター【4088】不適切会計で株価急落のその後、売り集中からどうなる? PBR1倍割れの“火中の栗”は拾う価値があるのか
不適切会計でストップ安のその後
エア・ウォーターが株式市場で売り込まれました。同社は2025年10月、不適切な会計処理が発覚したと発表します。翌営業日は売りが集中し、ストップ安の2076.5円に張り付いたまま取引を終えます。その後2327.5円まで上昇したものの、再び売りに押される展開となり、反発分はほぼ値を消しています。
【エア・ウォーターの株価チャート(過去5年間)】
・株価:2131.5円(25年12月11日終値)

出所:TradingView
株価の急落で、PBR(株価純資産倍率)は再び1倍を割り込みます。25年9月には1.18倍まで上昇していましたが、現在は0.94倍まで低下している状況です。
【エア・ウォーターのPBR(25年12月11日終値)】
・1株あたり親会社所有者帰属持分(自己株式除く):2256.72円
・PBR:0.94倍
・(参考)東証プライムPBR:1.6倍(2025年11月)
※親会社所有者帰属持分および株式数は25年3月末
※東証プライムPBRは加重平均
出所:エア・ウォーター 決算短信、日本取引所グループ その他統計資料
エア・ウォーターは、どのような不適正会計で売りを浴びることとなったのでしょうか。経緯を振り返りましょう。
グループ本体でも不適切会計 焦点は調査結果に
エア・ウォーターで発覚したのは損失の先送りです。25年7月に自主点検を実施したところ、子会社において在庫の不適切な会計処理が発見されました。同年9月には別の子会社2社のほか、エア・ウォーター本体でも確認され、いずれも同様の会計処理による損失の先送りが発覚します。
一連の不祥事を巡り、エア・ウォーターは11月に予定していた中間決算の公表を延期。代表取締役会長は辞任する事態となりました。同社は特別調査委員会を設置し調査を進めると同時に、経営改革委員会を新設しガバナンスの強化に取り組む方針です。
【エア・ウォーターの不適切会計を巡る経緯】
・7月:子会社で損失の先送りを発見
・9月:エア・ウォーターのプラントガス部および子会社の2社でも発覚
・10月9日:不適切会計を公表、特別調査委員会を設置
・10月10日:4件の影響額が25億円と公表
・11月13日:経営改革委員会を設置
・12月3日:代表取締役会長が辞任
次の焦点は影響の範囲です。発覚した金額は現時点で25億円にとどまります。営業益で750億円を稼ぐエア・ウォーターにとって、この金額で収まるなら影響は軽微といえるでしょう。想定される内部統制の強化に伴う費用を含めても、致命的なダメージには至らないと考えられます。
ただし、影響額は増加する可能性があります。調査は現在も続いており、同様の事例がより広い範囲で発覚する展開もゼロではありません。さらに、意図的なものと認定されれば金融商品取引法といった各種の法令に抵触する恐れもあります。
株式市場は企業に寛容な面もありますが、会計を巡る不祥事には敏感です。仮に影響が広範なものとなれば、株価のさらなる下落が想定されます。
同じく不適切会計で揺れるニデック(旧・日本電産)は東証から特別注意銘柄に指定されていますが、エア・ウォーターには同様の措置は実施されていません。しかし、投資により強い注意が必要という点では同様です。株価の下落はチャンスでもありますが、当面は慎重に判断したいところです。
業績には自信、中間配を予定どおり実施 「量から質」へ方針転換
不適切会計の全貌は調査を待つほかありません。もっとも、エア・ウォーターは事業そのものについては順調という認識です。中間決算の公表は見送ったものの、中間配当は計画どおりに実施しています。ここで同社の成長戦略に迫りましょう。
エア・ウォーターは、先述のとおり25年7月に社内で不適切会計が発覚しますが、その前月に中期経営計画を公表していました。計画期間は28年3月期までの3年間で、従来の「規模の拡大」から「収益性の追求」へ転換する内容です。同社は目標だった売り上げ1兆円は達成したものの、利益率に課題を抱えます。

出所:エア・ウォーター 決算短信より著者作成
収益性の追求で中核となるのが事業ポートフォリオ改革です。同社は多様な事業を展開するコングロマリットですが、なかには採算の悪いものも抱えます。これを見直し、利益率の改善を目指します。
【セグメント情報(25年3月期)】

※25年4月のセグメント変更後
出所:エア・ウォーター 決算短信
事業ポートフォリオ改革において、主力である国内ガス事業は現金創出源の位置付けです。これを基盤に、余剰資金を成長事業へ投資します。成長事業は、半導体向け事業とグローバル産業ガス事業、カーボンニュートラル事業および農業向け事業を想定します。3年間では投資枠として3200億円を設定し、うち2500億円を規模拡大やM&Aといった成長投資に振り向ける計画です。
特に重点的な投資を想定するのが半導体向け事業です。半導体産業は、ラピダスがある北海道やTSMCが進出した熊本県などを筆頭に、投資が加速している状況です。エア・ウォーターの半導体向け事業には商機で、投資を集中することで収益につなげます。
一方、低採算かつ低成長の事業は見直しの対象です。期間中は改善や合理化を進めますが、それでも基準に届かない場合、他社への売却や撤退も視野に入れます。これらの戦略を実施し、課題だった低採算からの脱却を図ります。
【主な財務目標(~28年3月期)】
・営業利益率:8.5%(25年3月期実績:7.0%)
・ROE:11.0%(同9.8%)
・ROIC:7.0%(同5.5%)
※ROE…自己資本利益率
※ROIC…投下資本利益率
出所:エア・ウォーター 中期経営計画
今期4~6月は20%営業増益も不透明 中間決算は2月までに公表
事業は好調とはいえ、やはり不適切会計の調査が見えるまで株価は浮上しづらいと考えられます。今期(26年3月期)は第1四半期で前年同期比20.5%増を達成し、通期でも増益を計画していましたが、下振れが想定される状況です。
【エア・ウォーターの業績予想(26年3月期)】
・売上収益:1兆1500億円(+6.9%)
・営業利益:840億円(+11.6%)
・純利益:530億円(+8.0%)
※()は前期比
※同第1四半期時点における同社の予想
※上記と別に不適切な会計処理(損失の先送り)に関し影響額25 億円を認識
※不適切会計に伴う影響額は拡大の可能性あり
出所:エア・ウォーター 決算短信
特別調査委員会による調査結果は、判明次第すぐに開示するとしていますが、具体的な日時は言及されていません。中間決算は、現時点では最長で26年2月までに公表するとしていますが、再延期の可能性もあります。当面は、株価は不安定な状況が続きそうです。
若山 卓也/金融ライター
証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。
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