「働いて働いて…」高市首相発言が不安をかきたてる 高橋まつりさんの母「過労死ゼロ政策を逆行させないで」
電通の新入社員高橋まつりさん(当時24)が過労自殺してから、25日で10年がたつ。母の幸美さん(62)は、政府が労働時間の規制緩和に動き出そうとしていることについて、「遺族がどんな思いで過労死防止のために活動してきたかを知っているはずだ」と悔しさをにじませる。
◆「ハングリー精神で頑張ってきた。大丈夫」
「働いて働いて働いて働いて働いてまいります」。幸美さんは、高市氏が10月4日に自民党総裁に選ばれた際のスピーチを、知人がLINE(ライン)に送ってきた記事で知った。その記事を目にした瞬間、幸美さんは「国が誤った方向に進むのではないか」という不安に覆われた。

高橋まつりさんの幼少期のアルバムをめくる母の幸美さん=静岡県内で
まつりさんは、静岡県の出身で、幸美さんと弟の3人で暮らす母子家庭で育った。特待生だった地元の私立中高一貫校から東京大学に現役合格。その後、電通に入社が決まった。その際、幸美さんはブラック企業とのうわさを心配したが、まつりさんは「ハングリー精神で頑張ってきたんだから私は大丈夫」と明るく答えたという。
◆「時間外」上限規制も設けられたのに
2015年に入社、インターネット広告の部署に配属された。本採用となった同年10月以降、過酷な長時間労働が続き、弱音を吐くことのなかったまつりさんが「もう辞めたい」、「眠い、眠い」などと繰り返すようになった。

まつりさんが母の日に書いたメッセージ
徹夜勤務や休日出勤が続き、睡眠は週10時間ほどに。「もう4時だ 身体が震えるよ」「会社怖いからねられない」。SNSなどに悲痛なメッセージを残し、わずか24歳で自ら命を絶った。
まつりさんの死を契機に、政府は「働き方改革」を推進。2019年から順次施行された「働き方改革関連法」には時間外労働(残業)の上限が初めて設けられ、罰則も入った。
◆首相就任、いきなり「規制の緩和の検討」
だが、「過労死ゼロ」の実現もままならない中、自民党や経団連は働き方改革関連法の「5年後見直し規定」を逆手に、人手不足などを理由とした労働規制の緩和を訴え始めた。この動きに呼応するように、10月21日に就任した高市首相は即座に、上野賢一郎厚生労働相へ「労働時間規制の緩和の検討」を指示した。

国会で野党から、労働時間の規制緩和について聞かれると、首相は「心身の健康維持は大前提」としながらも、「さまざまな声がある中で、働き方のニーズを踏まえて(緩和の)検討を深めるのは悪いことではない」とする。
今後の議論次第では、時計の針が10年前に戻る可能性は否めない。幸美さんは「まつりが生きていればもっと楽しい日々だった。国を挙げてワークライフバランスを守る、過労死をゼロにする政策を逆行しないでほしい」と歯がゆさをにじませた。(竹谷直子)

電通の新入社員だった高橋まつりさん=静岡県内で
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