高市氏答弁「脇が甘かった」、中国はトップ意向「忖度」で激しい反応 歯止めきかない個人攻撃、今後の焦点は…【中国の今を語る】

APEC首脳会議前に中国の習近平国家主席(左)とあいさつを交わした高市首相=10月、韓国・慶州(高市首相のXから)

 台湾有事を巡る11月7日の高市早苗首相の国会答弁を受けて、日中関係は急激に悪化した。外交官出身で中国政治が専門の諏訪一幸・大東文化大兼任研究員に話を聞くと、鍵となるのは中国の「強国路線」。中国にとって日本の重要性が低下している現実も指摘した。うかつな部分があった答弁と、恣意的な批判を続ける中国―。日本政府は事態の長期化を覚悟し、国際的な情報戦に取り組む必要があるという。(共同通信・日中関係取材班、取材は11月21日に実施)

大東文化大兼任研究員の諏訪一幸氏

▽答弁と中国の対応

―高市氏の国会答弁をどうみますか。

 「うかつだった部分があります。脇が甘かった。そもそも、中国は高市さんが右派、タカ派であるという認識を強く持っているわけです。特に歴史問題と台湾問題に関する言動についてはかなり前から注視していた。台湾有事に言及すれば、中国は『内政干渉だ』となってしまいます。そういう認識が果たしてあったのかどうか」

 「中国側の対応も非常に問題だと思います。結論ありきで事態を深刻化させた。そもそも、存立危機事態についてどの程度理解しているのかよく分からない。『日本の指導者として戦後初めて中国に軍事的威嚇をした』との批判は恣意的だと思います」

(以下引用)

 高市氏は11月7日の衆院予算委員会で、立憲民主党の岡田克也氏に台湾情勢を巡りどういった場合に存立危機事態になるか問われ、以下のように答弁した。

 「先ほど有事という言葉があった。それはいろいろな形がありましょう。例えば、台湾を完全に中国、北京政府の支配下に置くようなことのためにどういう手段を使うか。単なるシーレーンの封鎖であるかもしれないし、武力行使であるかもしれないし、偽情報、サイバープロパガンダであるかもしれないし、いろいろなケースが考えられると思う。それが戦艦を使って、そして武力の行使も伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になり得るケースであると私は考える」

 この前段で、台湾への「海上封鎖を解くために米軍が来援をする、それを防ぐために何らかの他の武力行使が行われる、こういった事態も想定される」とも言及した。

(以上引用)

トランプ米大統領(左)と中国の習近平国家主席=10月30日、韓国・釜山(ロイター=共同)

▽激しい反応の背景

 ―中国が次々と対抗措置を打ち出す強硬な対応の背景は何でしょうか。

 「内政・外政を問わず、中国は今、『強い中国』です。立ち上がった、豊かになった、強くなった、強くなるんだ、ということを主張している。その『強国路線』の必然的な結果だと思います。『中華民族の偉大な復興』を力で成し遂げるという方針ですから、強く出て当たり前なんです」

 「習近平国家主席は台湾統一の道筋に水を差す動きを許さない。私の認識では、習氏が『日本をたたけ』という指示を出して、中国の各省庁のレベルが忖度して強く出ているという構図があります。高市氏と習氏が初の首脳会談をした直後に高市氏の答弁があり、『メンツが丸つぶれだ』ということもあるでしょう。『なぜそんなことをするのだ』と、習氏だけでなく習氏の周辺も感じていると思います」

 「習氏は内部でこれまで、日本に対してかなりきついことを言っています。いわゆる『百年の恥辱』は日本の台湾割譲から始まった、けしからん、という認識です。また、日中の力関係で言うと、中国はもはや日本をあまり必要としていない。中国における日本の政策的な地位は落ちている。経済的にも逆転している上に、米中対立で中国の目は常に米国にあります。特に対日関係を重視する必要はなく、米国との関係をハンドリングすれば、日本はくっついてくると考えている」

 「中国は、トランプ米大統領は台湾をどうもあまり重視していないとみています。台湾でも、有事の際の米国による支援を疑う『疑米論』が広まっています。中国から見れば良い状況です。台湾内部も混乱しているし、米国が関与しないとなれば、統一にプラスの状況が生まれている。そう考える中で、高市氏の答弁が神経を逆なでした部分もあるでしょう」

薛剣・駐大阪総領事

▽「首を斬る」投稿

 ―中国の薛剣(せつ・けん)駐大阪総領事は高市氏の答弁を受けて「勝手に突っ込んできたその汚い首は一瞬のちゅうちょもなく斬ってやるしかない。覚悟ができているのか」と投稿しました。

 「外交官だからではなく、人として言ってはいけない発言ですよね。インターネットの世界でああいう発言をすると、それだけでも刑事事件の対象になってしまいます。ましてや、中国でああいった発言ができるのか。中国で自国の指導者に対して『首を斬ってやる』と言ったらどうなるか、彼ら自身が一番分かっている。それを海外でやって良いのですか、ということです」

 「薛氏は既に日本での勤務が長い。水面下の交渉で、ちょうど任期になったということで、どこか他の国に大使としてでも、転出させればいい。中国が応じなければ、やっぱりこれは、日本政府は覚悟を持ってペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)だと通告するしかない。中国側が報復で日本の外交官にペルソナ・ノン・グラータを通告することも想定されますが、今後の対中政策のためにも、なかったことにはしない方が良いと思います」

▽日本政府の対応は

 ―一連の日本政府の対応をどうみていますか。

 「受け身になってしまっている感じがします。日本側も英語や中国語で広く立場を発信しなければ、中国は情報戦が得意ですから、勝ち目はない。対話を望み、地域の平和と安定のために自制している日本の姿勢を説明し、見せる必要があります。中国の経済的威圧を受けた国は多い。国際社会に日本の主張をアピールすれば共感を得られるでしょう」

 ―事態の緩和に向けた方策はありますか。

 「短期間での関係改善は難しいかもしれません。2012年の沖縄県・尖閣諸島の国有化後、首脳会談や相互訪問の実現まで時間がかかった。ただ、まだ12年ほど深刻な事態にはなっていないとも感じます。今回は反日デモや破壊活動は起きていない。中国側にも、12年の反省というものがあるかもしれない。日本のスーパーへの破壊活動のような、ああいったとんでもない行為は、どう考えてもやってはいけないことでした」

 「ただ現在、中国側による高市氏への個人攻撃が非常に激しい。こうした個人攻撃は中国国内で『やっていい』となったら歯止めがききません。日本が議長国として開く日中韓3カ国の首脳会談を実現するまでにも、レベルを何段階か上げていきながら意思疎通をしていかなければならない。今のような状況が続けば、来年11月に中国・深センで開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議も、一つの焦点になるでしょう」

 「中国は日本の反応を見ながら、レアアース(希土類)の輸出規制や日本人短期滞在ビザの免除取り消しなどの『カード』を切るか決めるでしょう。日本側も、台湾や歴史の問題であえて虎の尾を踏むことはせず、言動を慎む必要はあります。ただ、『外交は闘争だ』と言っている相手に対して、単に慎重になれば押し込まれる。国際社会への呼びかけや同志国との関係強化が必要です」

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 1958年生まれ。山梨県出身。東京外語大中国語学科卒、日大大学院博士前期課程修了。外務省に入省し2004年退官。静岡県立大教授を経て、2024年から現職。