コメの価格高騰で注目、農産物の「適正な価格づくり」とは?

コメ価格高騰を機に、農産物の「適正な価格づくり」や「生産者も消費者も納得できる価格の形成」が注目されている。農水省も、農産物などの買い手に対して、価格見直しの申し出に誠実に対応することを義務づける法律を成立させ、「適正な価格づくり」に乗り出している。少しずつ広がる「適正な価格づくり」の取り組みを取材した。(経済部・新倉久美子)

■「せり」やめて最新アプリ活用

スマホ見る松本代表 日テレNEWS NNN

静岡県のイチゴ農家「Takachan Farm」。

この日、午前中の収穫を終えた松本隆安代表は、ビニールハウスの中ですぐにスマートフォンを取り出し、収穫作業の状況から予想される「出荷予定数」を手早く入力し始めた。

スマホアプリ「fudoloop」の生産者入力画面 日テレNEWS NNN

松本代表が「出荷予定数」を送った先は、地元の青果市場「沼津中央青果」だ。

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「沼津中央青果」は、数年前から農産物の価格安定を目指して開発されたスマートフォンアプリ「fudoloop(フードループ)」の活用を始めた。このアプリでは、それぞれの生産者が翌日の「出荷数量の見込み」を入力して報告することで、市場は「明日の出荷数量が全体でどれくらいになるか」を把握することができる。

以前は、一般的な「せり」で取引をしていたが、当日朝まで正確な出荷状況がわからず、余ってしまった野菜などが安く買いたたかれる状況があったという。そうした「買いたたき」を防ぐため、事前に正確な出荷数量を把握し、その情報を武器に、量販店などと事前に交渉する形に変更。

沼津中央青果 丹藤松年専務取締役 日テレNEWS NNN

沼津中央青果の丹藤松年専務取締役によると、競合他社より早く、正確な数量で交渉ができるため、量販店などの棚を早く、有利な条件で確保することができるという。価格についても「ある程度、強気な交渉が可能になる」としている。

■広がる「適正な価格づくり」の動き

さらに、生産者の中でも、自分たちにとって「再生産可能な価格」で流通させようという動きが広がっている。

北海道のタマネギ生産農業法人「新篠津つちから農場」の中村好伸会長は、生産者が赤字にならない価格での取引を目指し、2023年に「keepA協議会」を設立。生産者だけでなく、流通業者や小売り、物流も巻き込んで、「それぞれが納得できる価格」で農産物を流通させる仕組みを立ち上げた。

具体的には独自の認定制度を設けて「品質」を保証した上で、生産コストの上昇や持続可能な経営のためのコストも組み込んだ価格を生産者が設定。取り組みに賛同して加盟している小売りや流通業者を通して販売する仕組みだ。

例えば、「keepA協議会」に加盟するスーパーマーケットチェーン「ユニバース」が一時期、東北の店舗で販売したタマネギの価格は、生産コストの上昇も考慮して、3つ入り1袋248円だった。一方、同時期にセール品として用意された3つ入りのタマネギ1袋の価格は、198円だった。同じ棚で1年間販売したところ、協議会が手掛ける248円の商品の方が7対3で売れ行きが良かったという。

この結果を通じて、中村会長は、消費者が品質のよさと価格設定の意図を理解し、生産者が提案する「適正な価格」が受け入れられる余地は十分にあると感じたとしている。

■「適正な価格づくり」を難しくする「3つの圧力」

明治大学農学部作山巧教授 日テレNEWS NNN

なぜ、農産物の適正な価格づくりが進んでこなかったのだろうか?

明治大学農学部の作山巧教授によると、農産物には価格転嫁が難しい事情があるという。

それは、農産物の価格が「需要と供給」で決まっていることだ。作山教授によると、農産物の価格は、工業製品などのように買ってくれそうな量だけ生産して、生産コストに利益をどれだけのせるか交渉するという方法で決まるものではない。消費全体の動向は予測が難しく、消費者の需要に対して収穫量が多いか少ないか、で大きく変動する。

さらに、大規模な量販店などが価格を決め、それを生産者が受け入れるという価格の決まり方も多い。こうした価格の決め方だと、個々の生産者が交渉できる余地は少なく、生産コストの上昇分を転嫁することは難しい。

また、高くなりすぎると、コメのように海外からの輸入が増えてしまう恐れもある。

ただ、農業は今、深刻な人手不足に直面していて、その背景にあるのが農業従事者の「所得の低さ」だ。農林水産省によると、農家の平均所得は(兼業農家を含む)114.2万円だ。

2025年、日本人の主食である「コメ」の価格はこれまでにない水準にまで高騰した。その「急な値上がり」を通して見えてきたのも、これまでのコメ生産者の負担と、ギリギリの生産量だった。

私たちの生活に欠かせない農産物を、これからも国内で安定して流通できるよう、価格以外の価値も考慮して、購入する時代がきている。