初の大型武器輸出へ 記者が見た「もがみ型護衛艦」豪輸出の舞台裏 背景には中国の影…高市政権が進める輸出政策は?
2025年8月5日は、日本の防衛政策の大きな転換点となった。海上自衛隊の護衛艦が、オーストラリア海軍の次期艦艇に選ばれたのだ。戦後、日本でこのような大型武器の"輸出"は初めてのこと。背景には、威圧的な行動を強める中国の存在があった。舞台裏を取材した。(防衛省担当 細川恵里)
■官民トップがオーストラリアへ異例の"売り込み"
ことし7月。オーストラリアの首都・キャンベラ。もがみ型護衛艦の製造を担当する三菱重工業の泉澤清次会長と防衛装備庁の石川武長官(当時)という、官民のトップをはじめとする"売り込みチーム"がこの地を訪れた。この時オーストラリア政府は、海軍の次期フリゲート艦の候補として、4か国の中から日本とドイツの艦船を選定し、選考は大詰めとなっていた。
日本が提案したのは、三菱重工が製造する「もがみ型」護衛艦をベースに能力を向上させた新型艦。特徴的な形の「もがみ型」の船体は、突起が少なく特殊な塗装を施しているためステルス性が高く、敵のレーダーなどから見つかりにくい。戦闘機などからの攻撃を迎撃するミサイルを備えるほか、機雷戦にも対応できる。
従来の艦艇ではそれぞれが独立していた運航や武器の管制システムを、戦闘指揮所と呼ばれる船の最重要区画に集約することなどで、隊員1人で何役も兼ねることを可能にした。艦の運用に必要な人数を、従来の半分ほどのおよそ90人に減らしたことが大きな特徴だ。

もがみ型護衛艦 戦闘指揮所 日テレNEWS NNN
“売り込み”を主導した1人、防衛装備庁の審議官を務めた、経済産業省の西脇修審議官は「性能が良い、技術が優れているだけでは勝てない。それを今回は、早い段階から、大きな熱量をもって、オーストラリア側に伝えきったことが勝因だった」と振り返る。一方、対するドイツは、オーストラリア海軍で現在就役しているフリゲート艦も輸出していて、軍艦の輸出経験が豊富だ。現地には、製造する三菱重工に装備品輸出の経験が少ないことや、経済上のメリットを不安視する声もあったという。

西脇審議官 日テレNEWS NNN
そうした不安を払拭する秘策が、三菱重工の会長と防衛装備庁長官、という官民のトップのオーストラリア同時訪問だった。会長自ら現地に出向くことは「めずらしいケース」(三菱重工関係者)だという。
まず一行は、オーストラリアの国会議事堂へ。議事堂内で関係大臣と面会を重ね、官民が連携して取り組む姿勢を見せるとともに、日本とオーストラリアの経済関係がいかに重要かという点もアピールした。三菱重工の泉澤会長が訪問することで、経済関連の担当大臣にも幅広く面会ができたという。

豪国会議事堂を訪問する防衛装備庁石川長官(当時)と三菱重工業泉澤会長 日テレNEWS NNN
オーストラリアの政財界関係者に対して、「もがみ型」を直接アピールするレセプションも三菱重工と日本大使館の共催で開かれた。石川長官、泉澤会長らが登壇し、「もがみ型」の性能だけでなく、三菱重工が防衛面以外でもオーストラリアに関わってきていることや、「もがみ型」について納期を守ってきていること、「もがみ型」が選ばれることによるオーストラリア経済への貢献などを説明し、日本が、三菱重工がいかに信頼できるか売り込んだ。
■売り込みの背景に、中国をはじめとする厳しい安全保障環境の変化

レセプションの様子 日テレNEWS NNN
事実上、長らく武器輸出を禁じていた日本。2014年、安倍政権下で「輸出」を認める政策に大きく転換。「輸送」「救難」などの5つの類型に当てはまるなどの条件をクリアすれば、防衛装備品の輸出ができるように制度化した。5類型にあてはまらない戦闘に用いられる装備品なども「共同開発」の形を取れば、移転できるようになった。ただ、制度は変わっても、これまではいわゆる大型装備品の「輸出」はなかった。いま、なぜ「輸出」に向けて、全力をあげるのか?
「もがみ型」の売り込みを指揮した防衛省の増田和夫前次官は、その理由に厳しい安全保障環境があるという。「オーストラリア周辺でも中国の艦艇が実弾射撃をするなど今までにない活動が行われた。力による一方的な現状変更に向けた動きがどんどんエスカレートしている中、現状変更を許さない『力』をみんなでシェアしていこうということだ」と話す。

増田前次官 日テレNEWS NNN
オーストラリアと日本が同じ軍艦を用いることで連携を深め、中国などへの抑止力を強化するため、「もがみ型」の「輸出」は必要な手段という。そのため、増田前次官は、官側と企業側が一体となって「ワンチームで」売り込みに取り組むよう旗振りを行ったという。
この政府と企業の連携は、オーストラリア側への提案内容にも反映された。「輸出」にむけた提案書作成のチームを率いた石原里史事業監理官は「艦艇のクオリティ管理や契約上の問題が起きた時の対応などを(豪と企業側に任せるのでなく)、装備庁がオーストラリアと日本企業をサポートすると提案書に盛り込んだ」と話していた。官民一体の太鼓判を押したかたちだ。

石原事業監理官 日テレNEWS NNN
■企業が装備品の輸出に力を入れる理由

三菱重工現地事務所 日テレNEWS NNN
一方、今回、三菱重工も会長の訪豪をはじめセールスに異例ともいえるほど力を入れてきた。首都キャンベラに現地事務所を開き、売りこみ体制を強化。選定後も見据え、現地企業とも連携を強めてきた。キャンベラの空港にはPRのために大型広告も設置した。

キャンベラ国際空港に掲示された広告(2025年7月) 日テレNEWS NNN
利益が出にくいなどの理由で防衛事業からの撤退や規模縮小など防衛産業が課題に直面する中、輸出が成功すれば関連企業も含めて、国内防衛産業全体の強化につながる。
「もがみ型」のレーダー等を製造する三菱電機の洗井昌彦防衛・宇宙システム事業本部副事業本部長も、輸出によって「防衛産業の生産基盤の維持強化に非常につながっていく。とてもありがたいこと」と話した。
さらに、企業が防衛分野を強化する背景には、国民の「国防」への意識の変化もあるのではないかという指摘もあった。特に大企業は消費者からどのようなイメージを持たれるかも重要だ。実際、国民の国防への理解が深まることで、防衛分野により注力できるという声があった。
■装備品輸出の大きな第一歩
8月。オーストラリアは海軍の次期フリゲート艦に「もがみ型」を選定したと発表した。
この成功は日本に何をもたらすのか。選定直後、西脇審議官は「インド太平洋の国々は『もがみ型』をはじめとする日本の艦船に注目していくだろう。今回、勝ちきったことは、今後の日本の防衛装備品移転を進めていく上で大きな第一歩になったのではないか」と話した。
その言葉通り、オーストラリアと強いつながりのあるニュージーランドが「もがみ型」への関心を明らかにしたほか、政府関係者によれば、中古護衛艦のフィリピン、インドネシア、ベトナムへの輸出も検討されているという。
■武器輸出ルール改定へ
さらに、高市政権は、装備品の輸出強化のため、輸出ルールの改定を進めようとしている。
政府は、輸出できる装備品を限定した「救難」「輸送」などの5類型を2026年春にも撤廃する方針で、自民、維新の与党で歯止め策も含めた議論が進められている。5類型が撤廃されれば、早速、フィリピンへの防空ミサイルの輸出などが検討される見通しだ。
戦後80年が経過した今、輸出強化への転換は日本に何をもたらすのか?
増田前次官は、「同志国とともに抑止力を高める手段として装備品の移転(輸出)がある。その強化が、戦争を起こさせない力強い外交につながる」と言う。「実戦で使うためではないか?」と尋ねた記者に増田前次官は「そう。当然だ」と答えた。
厳しい安全保障環境の中、日本政府が行う武器輸出が、その思惑通り地域の安定と平和につながるのか、見守り続ける必要がある。