新宿の名門私鉄「海老名シフト」最終段階――本社一部移転、自ら新宿から「移住」する異例の本気度

計画公表から10年弱で都市化

 小田急電鉄は2025年12月19日、小田急線海老名駅西口の開発エリア「ViNA GARDENS」において、2027年春開業予定の「(仮称)ファミリー棟」と、2028年開業予定の「(仮称)ホテル温浴棟」の新築工事計画を決定した。今回の2棟の完成により、同エリアの九つの開発区画はすべて完了する。

【画像】「えぇぇぇぇ!」 これが60年前の「海老名駅」です!(計9枚)

 同社は1960年代から海老名駅前での開発を段階的に進めてきた。1973(昭和48)年には開発構想に合わせて駅を現在地に移転している。2002(平成14)年には大型商業施設「ViNA WALK」を開業し、海老名市との連携を深めながら開発を推進した。

 2015年には、同駅とJR海老名駅に挟まれた約3万5000平方メートルのエリアで「ViNA GARDENS」の開発計画を公表した。これまでに商業施設やタワーマンション、オフィスビルを順次整備し、ほぼ未利用地だった広大なエリアは比較的短期間で都市機能を備えた街へと変貌した。

 2023年2月には、小田急電鉄の本社機能の一部を新宿から同開発エリア内のオフィスビルに移転している。

 今後は今回決定した2棟に加え、同エリアの最終タワーマンション「リーフィアタワー海老名クロノスコート」(31階建・総戸数304戸)を2027年に引渡す予定だ。これにより、計画公表から約10年で「ViNA GARDENS」の開発は完了することになる。

後発私鉄の未開地開拓史

計画公表から10年弱で都市化, 後発私鉄の未開地開拓史, 開発余地の大きい鉄道要衝, 本社一部移転による現場一体化

小田急の看板商品・ロマンスカー(画像:小田急電鉄)

 小田急電鉄(創業当時は小田原急行鉄道)は、1927(昭和2)年に小田原線、1929年に江ノ島線を開業した。明治後期から大正期にかけて開業した他の大手私鉄に比べると後発だったが、新宿~小田原間80km超を一気に開業し、2年後には江ノ島線も一気に開通させ、業界に大きな影響を与えた。

 後発であったため、既存の市街地を避け、未開の地に直線的な路線を敷く区間が多かった。そのため沿線を自由に開発できる土壌があった。実際、小田急は創業当初から宅地開発や学校法人の誘致などを進め、沿線の開発を積極的に行ってきた。

 大手私鉄全般にいえることだが、自社沿線で住宅地や集合住宅、商業施設、娯楽施設などを開発し、鉄道の利用者を増やすと同時に、開発による事業収益を得る構造は戦前の阪急以来、日本の鉄道資本の基本モデルとなってきた。中には鉄道本業より沿線開発が主たる事業になっている大手私鉄も少なくない。

 ただし、小田急は沿線開発を行ってきたものの、ロマンスカーという看板商品が目立つため、一般には鉄道本業のイメージが強い。大手民鉄鉄道事業データブック2025によると、小田急の全事業収益に占める鉄軌道部門の割合は74.6%である。

 大手私鉄は不動産部門を別会社に切り出す例も多く、近年では持株会社体制をとることで電鉄自体が鉄道専業になるケースもあるため、この数字だけで鉄道本業の比重が高いとはいえない。それでも、東急や阪急、相鉄と比べると、小田急は沿線開発事業の印象がやや薄い。

 そのため、小田急が海老名で見せる開発への注力度は、他社に比べて際立って見える。

開発余地の大きい鉄道要衝

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包括連携協定を締結した海老名市の内野市長と小田急電鉄の星野社長(現会長)(画像:小田急電鉄)

 では、なぜ小田急は海老名にこれほど集中投資を行うのか。

 小田急が公表している2024年の1日あたり駅別乗降客数では、新宿が約45万人で1位、代々木上原が約27万人、町田が約26万人、登戸と藤沢がそれぞれ約16万人となる。海老名は約14万人で6位となっており、市の人口にほぼ匹敵する数字だ。近年は県央の中心都市である厚木の本厚木駅を上回っている。

 海老名駅には小田急小田原線のほか相鉄本線が乗り入れている。やや離れた場所にJRの海老名駅もある。ViNA GARDENSの開発以前、これらの駅の間には広大な空閑地が広がっていた。海老名駅は3路線が交わる鉄道の要衝であり、沿線でも屈指の乗降客を抱えるにもかかわらず、駅前には開発余地が大きく残されていた。

 前述のとおり、小田急は沿線の未開地を比較的自由に開発してきた歴史がある。海老名はその意味で、沿線開発の「ラストフロンティア」といえる。

 もうひとつの理由は、小田急と海老名市との関係の深さである。両者は以前から駅周辺のまちづくりで協力してきた。2024年2月には、防災や保健福祉、教育など多分野に及ぶ包括連携協定を締結している。小田急電鉄の星野晃司社長(当時、現会長)は、同市の内野優市長とは高校時代の同級生だったことを地元メディアで明かしている。

本社一部移転による現場一体化

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「現業」の要のひとつ・海老名検車区(画像:小田急電鉄)

 小田急の海老名への集中投資の本気度を象徴しているのは、2023年2月に実施した本社機能の一部移転である。

 新宿から海老名に移ったのは、交通サービス事業本部と経営企画本部・まちづくり事業本部の一部で、概ね鉄道事業などの現業に近い部門だ。一方、総務や人事などの管理部門は新宿に残った。

 大手私鉄では、西武が1986(昭和61)年に池袋から所沢へ本社を移転、京王が1988年に新宿から多摩に、京成が2013(平成25)年に墨田区押上から市川に本社を移転している。ただし、これらは本社丸ごとの移転であり、一部移転ではない。西武はその後、2019年に持株会社などグループ3社の本社を池袋に戻したが、現業部門である西武鉄道は所沢から移転していない。

 現業部門と管理部門で本社を分ける点では、小田急の一部移転は西武グループのやり方に近いといえる。

 海老名は小田急小田原線のほぼ中間地点にあり、車両基地(海老名検車区)も置かれている。現業の現場と本社が一体化することで、業務の連携やコミュニケーションの円滑化が期待されている。

 ViNA GARDENSは2028年に一旦完成予定だが、これに続く開発計画も既にあるという。小田急の海老名への集中投資は今後もしばらく続きそうだ。