【2026年の商品市場】金価格の8年連続上昇なるか、ゴールドマンは年末4900ドル予想もETF投資急増には危うさ

継続する金価格の上昇はどうなるか(写真:FOTOKITA/Shutterstock.com)
2025年は米トランプ政権が打ち出した関税政策や米連邦準備理事会(FRB)への介入、イスラエルとイランの軍事衝突など、急変する相場環境にコモディティー(国際商品)市場も揺れた。結果を見れば原油や穀物相場は総じて安く、貴金属の高騰が突出した1年だった。年末には銀やプラチナ相場が急反落し、下げが金にも及ぶなど急ピッチの上昇には危うさも見える。金価格の上昇は2026年も続くのか。
(志田富雄:経済コラムニスト)
2025年、国内の金小売価格は1979年以来の上昇率
田中貴金属工業の販売価格が指標になる国内の金小売価格(消費税込み)は昨年最初の営業日である1月6日から最終営業日の12月26日までの上昇率が約69%に達した。上昇率は2024年の40%を上回り、上昇スピードは加速した。
年後半は金に比べて出遅れ感のあった銀やプラチナ(白金)市場にも投資マネーが向かい、年間上昇率は銀が約144%、プラチナが142%といずれも2.4倍を超えた。
田中貴金属は金の輸入が自由化され、国内価格が変動するようになった1973年以降の小売価格の日次データを全て公開している。昨年の上昇率は179%(約2.8倍)を記録した1979年以来の高さになった。

1979年はイラン革命と第二次石油危機で原油相場が一段と上昇し、旧ソ連のアフガニスタン侵攻が追い打ちをかけた年だ。ただ、金価格は80年1月21日に1グラム6495円(消費税の導入前)の高値を付けた後に急速に下落。80年は年間で19%下落した。
70年代の価格変動は大きかったものの、2回の石油危機でドカンと上がった印象だ。それに比べ直近は2019年から25年まですでに7年連続で上昇しており、その間に金価格は5倍強になった。
この5年間の上昇だけで、金の輸入自由化初日(1973年4月2日、825円)から2度の石油危機を経た79年末までの上昇率(約4.8倍)を上回る。長期の上昇トレンドが始まった2000年初めと比べた値上がりは実に24倍に及ぶ。
金ETF市場への投資マネー流入にはまだ余地があるものの…
昨年はトランプ政権が4月初めに相互関税を発表した後に米国市場がトリプル安(株安、債券安、ドル安)に陥り、投資マネーが金市場に流入。FRB人事に介入し、パウエル議長の解任まで示唆すると金相場の上昇は加速した。
マネー流入の受け皿になったのは、現物の金を裏付けにした上場投資信託(ETF)市場だ。
ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)の集計で昨年1〜11月には投資残高の増加で712.6トン分のマネーが流入し、新型コロナウイルス禍の混乱で金市場に投資資金が逃げ込んだ20年の892.5トン増に次ぐ規模になった。21〜24年は米国の利上げでETF市場から資金が流出していたが、昨年はその4年間の流出分を埋めて残高を4000トン近くまで増加させた。
今年も同じような動きは予想される。パウエル議長の後任にトランプ政権の意を汲む人物が就けば、市場が想定する以上の利下げが進む可能性がある。金相場は金融緩和とインフレ再燃、ドルの信任低下などを先取りして上昇することになる。昨年、米ウォール街で盛んに指摘された「ディベースメント・トレード」(Debasement Trade=通貨価値の下落に備えた取引)」だ。
米ゴールドマン・サックスは昨年12月18日に公表した2026年の展望(アウトルック)で、金相場は構造的に旺盛な中央銀行の需要と米国の利下げ(に伴うETF投資家の買い)という2つの牽引力によって上昇基調を維持し、26年末に1トロイオンス(約31.1グラム)4900ドルへの上昇を予想した。
ゴールドマンは金ETF市場に投資マネーが流入したとはいえ、その規模は米国の民間金融資産全体から見れば極めて小さいという。同社によれば、金ETFの投資残高は米国の民間金融資産の0.17%にすぎず、ピークだった12年を下回っている。
同社は金ETFへの資金シフトが起きて金融資産に占める比率が1ベーシスポイント(0.01%)増えるごとに金価格を1.4%押し上げると試算する。金相場が4500ドルであれば1.4%は63ドルになる。
昨年、先行する金を追いかけるように急騰し、年末の12月29日には一転して急落した銀やプラチナはどうなるだろうか。
銀は1トロイオンス80ドルを大きく上回り、プラチナは一時同2500ドルを抜いて2008年に記録した当時の最高値を17年ぶりに更新した。非鉄金属の銅も最高値を記録した。

銀、プラチナともに脱炭素に伴う需要が増え、足元で供給不足に陥っている共通点はある。銅も旺盛な需要と中国の製錬能力増強に原料不足が顕著になり、製錬採算が悪化している。
リーマンショック時に金相場は一時3割強も下落
ただ、中長期で堅調な需要が見込まれても、ETFを中心にした貴金属市場への急激な資金流入には危うさもある。それが表面化したのが年末に起きた乱高下だ。銀やプラチナ、パラジウムを襲ったポジション調整の波は金にも押し寄せ、12月29日のニューヨーク金先物市場の下げ幅は200ドルを超えた。4500ドル台から4300ドル台への急落だ。
東京証券取引所に上場する代表的な金ETFである「純金上場信託(現物国内確保型)」は昨年10月、取引価格が大阪取引所の金先物をベースにした基準価格から大きく乖離して上昇し、東証が投資家に注意喚起を出す異例の事態になった。短期間に買い注文が増えて「現物確保→証券化」という工程が間に合わず、実際の金の価値を超えて既存のETF価格が急騰したことが原因だ。
AI(人工知能)銘柄が牽引する世界的な株高が崩れる事態になれば、ファンドなどが現金を確保するために金を売ることは十分考えられる。リーマンショック時に金相場は一時3割強も下落したのだ。金融資産全体に比べ市場規模が小さいからこそ、急拡大する貴金属ETF投資はリスクを孕む。
ゴールドマンは金について強気を維持する一方で、原油や天然ガス相場の先行きについては弱気だ。供給過剰に見舞われることで「大規模な供給障害やOPECの大規模減産がない限り、需給バランスを(需要喚起によって)修正するための相場下落が続く」と予測する。今年の平均価格はブレント原油で1バレル56ドル、米WTI原油で52ドルとした。
原油相場低迷の背景に横たわる供給増と中国などの景気不振
エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の野神隆之首席エコノミストが国際エネルギー機関(IEA)の統計などを基にまとめた需給推計で見ても供給過剰は鮮明だ。「昨年4月から12月にかけてOPECプラス有志8産油国が増産したことで、供給過剰は25年が日量221万バレル、26年は344万バレルとなるなど、コロナ禍の20年とほぼ同等か、それを上回ってしまう状況になる」(野神氏)。

(注:IEA統計などから、エネルギー・金属鉱物資源機構の野神隆之首席エコノミストが推計)
中国の石油備蓄強化や米国が攻撃の手を強めるベネズエラなどからの供給不安が相場を下支えてきたが、過剰供給の中でどこまで相場が持ちこたえられるかが焦点になる。
原油相場が低迷する背景には主産国の供給増だけでなく、中国を中心にした景気不振が横たわる。余剰能力を抱えた中国のデフレ輸出で鉄鋼や石油化学製品価格に下げ圧力が強いままだ。貴金属や銅が最高値を更新したとはいえ、新興国経済の力強い成長で幅広い商品が値上がりしたリーマンショック前とは市場環境が異なる。
食料源になる穀物やエネルギー価格が低水準で安定していることは世界経済、とりわけ消費国にとって恩恵が大きい。しかし、異常気象の頻度が増す中で穀物主産地が天候に恵まれる奇跡がどこまで続くかは誰も分からない。
米国はリセッション(景気後退)が起きない状況でも利下げに邁進し、日本の高市政権も積極財政で高圧経済を実現しようとする。世界経済が不安を抱える中で、行き場を探す投資マネーが金など特定の実物資産に向かいやすい構図は今年も変わらない。原因は貴金属市場やそこに向かうマネーではなく、不安を抱えた世界経済にある。
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