「日本での開発」プライドは捨てた?――中国で“日産だけ”販売10%増、シルフィ凋落を乗り越え「ファーウェイ連携」という合理主義

一人勝ちの日産を支える「N7」

 かつて世界を席巻した日産は、今また大きな岐路に立っている。EVシフトの遅れ、米中市場での苦戦、巨額赤字――逆風は強い。しかし新型リーフやマイクラEVの投入、ハイブリッド戦略、生産体制の再構築など、未来への挑戦は止まらない。 本リレー連載「頑張っちゃえ NISSAN」では、厳しい現実と並走しながらも改革を進める日産の姿を考える。

【画像】「えぇぇぇ!」 これが日産自動車の「平均年収」です!(6枚)

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 改革を急ぐ日産だが、足元の国内市場では極めて厳しい現実に直面している。2025年の国内新車販売台数は前年比3.3%増の456万5777台と、2年ぶりに増加に転じた 。認証不正問題で落ち込んだダイハツ工業が前年比46.2%増と急伸し、最大手のトヨタ自動車も3.8%増と伸長するなか、日産の苦戦は鮮明だ 。軽自動車で12.5%減、登録車にいたっては17.0%減と大幅に沈み、主要メーカーのなかで独り負けの様相を呈している 。国内でのブランド力低下が深刻な影を落とすなか、日産にとっての「希望の星」は、意外にも激戦の地・中国市場に現れた。

 2025年11月、中国市場におけるトヨタ、ホンダ、日産の日本メーカー3社合計の新車販売台数は27.6万台となり、前年同月比で12.9%減少した。3か月連続で前年実績を下回る結果だ。

 トヨタは15.5万台で前年同月比12%減。2025年1月以来となる二桁の減少で、RAV4などのモデル切り替え時期と重なった影響が出ている。ホンダは5.1万台で前年同月比34%減と、21か月連続で前年を下回った。電気自動車(EV)販売の不振に加えて、ガソリン車でも値引き競争に巻き込まれている状況だ。

 こうしたなか、日産は

「前年同月比10%増」

の7.0万台を記録し、6か月連続で前年実績を上回った(『日本経済新聞』2025年12月5日付け)。日本メーカーのなかで唯一、明確な成長軌道に乗っている。この好調を支えているのがEVモデルのN7である。2025年4月の予約開始以降、販売は右肩上がりで推移しており、発売から1か月半で2万台を突破、2025年11月時点での累計販売台数は5万台に迫る勢いを見せている。

 中国のEV市場では、比亜迪(BYD)をはじめとする中国メーカーと米テスラによる激しい競争が続いている。この環境下でN7が支持を集めた理由は、中国市場を起点に開発を進めたことにある。

 N7には中国のAIスタートアップ「ディープシーク」の技術を採用し、モメンタ社と共同開発した高度運転支援技術「ナビゲート・オン・オートパイロット」も搭載するなど、中国企業の知能化技術を前面に押し出した。先進技術の積極導入によって中国市場の消費動向に適合し、販売実績を積み上げてきた。N7購入者の約7割が

「35歳以下」

で、その多くが日産車を初めて選んだ顧客だという。快適性と知能化を前面に出したマーケティングが若年層の心をつかんだ形だ。

覇者シルフィの凋落が示す市場変化

一人勝ちの日産を支える「N7」, 覇者シルフィの凋落が示す市場変化, 全方位スマート化への転換, 現地主導体制への大転換, 中国発グローバル戦略の成否, グローバル再生への挑戦

日産・シルフィ(画像:日産自動車)

 日産の中国市場での販売推移を見ると、2024年の販売台数は約63万台で前年比13%減だった。2018年頃のピーク時には130万台超を記録していたことを考えると、ほぼ半減している。市場シェアも2%程度にとどまる。近年の販売を支えてきたのは、2021年10月に日本国内では販売を終了したコンパクトセダン・シルフィだ。

 シルフィは年間50万台超を売り上げた時期もあり、中国乗用車市場のトップセラーにまで上り詰めた。しかしその地位は、中国のEV大手BYDのセダン・Qin Plusに奪われた。シルフィの販売台数は2021年をピークに減少を続け、2024年には33万台を割り込み、ピーク時から3割以上落ち込んだ。この現象は、日産の中国事業における

「ガソリン車依存が行き詰まりを見せた象徴」

と受け止められている。日産は中国市場でのEVシフトに遅れをとっただけでなく、ガソリン車においても消費者ニーズを十分に捉えられなかった。ブランド力の低下は避けられず、販売量の維持を値引きに頼る悪循環に陥っていた。

全方位スマート化への転換

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日産・ティアナ(画像:日産自動車)

 2025年は日産にとって、中国市場での巻き返しを図る年となった。同時に、スマート化を強力に推進した年でもある。4月に販売を開始したN7に続いて、12月にはプラグインハイブリッド車のN6を投入し、この2車種でラインナップのスマート化を加速させた。市場の反応は良好で、N6も発売から10日間で受注台数が1万台を超えた。

 スマート化したEVの投入に続いて、日産はエンジン車のスマート化にも力を入れ、中国市場での足場固めを図った。中国市場でEVシフトが急速に進むなか、EVだけに絞らなかった戦略は興味深い選択だ。

 2025年11月に発表した新型ティアナの受注台数は1万台を超えた。中国の新車市場では月間販売1万台が人気車種の目安とされており、ティアナは中国の消費者から一定の評価を得たといえる。

 ティアナは、中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)のスマートコックピットシステム「ハーモニースペース5」を標準搭載する世界初のエンジン車で、スマートフォンのような操作性を実現した車載システムを備えている。クラストップとなる15.6インチのファーウェイ・インテリジェントディスプレイをはじめ、高精度な音声認識が可能なAI音声アシスタント、OTAアップデートにも対応し、中国市場で求められるスマート化の水準に到達した仕様となっている。

 日産はN7(EV)、N6(プラグインハイブリッド車〈PHV〉)、ティアナ(エンジン車)と相次いでスマート化した新型車を市場に送り出し、ブランディング強化の効果が現れている。さらに2025年11月の中国新車販売では、シルフィの販売台数が4万台近くまで伸びる相乗効果も生まれており、日産にとって追い風が吹いている。

現地主導体制への大転換

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日産・N6(画像:日産自動車)

 日産の好調な中国販売を支えているのは、合弁パートナーの東風汽車集団である。両社の提携関係は2002年の乗用車・商用車における包括的提携締結を機に、20年以上続いている。

 両社の提携で大きな転機となったのは、2023年11月に中国でのEV事業強化を目指す新戦略「DNA+」を発表したことだ。日産と東風汽車が出資比率50%で設立した合弁会社「東風汽車有限公司」は創立20周年を機にこの戦略を打ち出した。内容は2026年までに10車種の新エネルギー車を現地開発し、そのうち4車種を日産ブランドとするというものだ。

 最初のモデルを2024年後半に発売、輸出は2025年に開始し、年間販売台数10万台を目標に掲げた。2025年9月には新エネルギー車の生産・販売を担う新会社と、貿易事業を行う合弁会社を新たに設立し、「DNA+」を着実に進めている。

 2025年5月13日に日産が公表した経営再建計画「Re:Nissan」でも、中国からの輸出事業に関する方針が示された。ひとつは多様化するグローバルニーズへの対応として、中国製車両の輸出による供給体制の強化。もうひとつは大型SUV需要の高い中東市場への供給拠点として中国を活用する検討だ。一連の方針から読み取れるのは、日産が中国からの輸出強化を戦略の柱として位置づけているという事実である。

 これに加えて日産は、電動車の技術開発の主導権を東風汽車に移管することも発表した。東風汽車は約2000人のスタッフを抱えており、EVとPHVの迅速な開発・生産が可能になり、新エネルギー車のラインナップ拡充につながった。開発権限を東風汽車に委ねて完成したN7は、両社にとって大きな成功体験となっている。この経験と知見は今後の車両開発に生かされる財産となった。

中国発グローバル戦略の成否

 N7の成功体験を踏まえて日産にとって重要なのは、この成果を中国市場にとどめるのか、グローバルにも展開していくのかという点だ。東風汽車に技術開発の主導権を移管した今回の決断は、今後ASEANや新興国、さらには北米などへも応用できる可能性を持っている。

 経営再建中の日産が中国市場で反転攻勢の兆しを見せたことは、数少ない明るい材料だ。ただし中国市場での価格競争は今後さらに激しくなることが予想される。加えて新エネルギー車購入時の自動車購入税免除措置や買い替え補助金は2025年末で終了した。2026年は税負担の軽減措置だけがEV需要を下支えする見通しとなっている。日産の中国販売が上向いている今、この好調を維持できるかは不透明だ。

 日産が主力だったシルフィを失い、EVを中心としたスマート化によるラインナップ拡充で起死回生を図れるかは、

「本社主導から現地主導へ転換した開発体制」

にかかっている。中国での権限委譲がグローバル市場での飛躍につながれば、日産の経営再建計画「Re:Nissan」が本当の意味で実を結んだ証しとなるだろう。

 日産は合弁パートナーの東風汽車と二人三脚で中国市場と向き合ってきた。エンジン車中心の技術依存から、スマート化を軸とした複数の選択肢を持つ戦略へとかじを切るなかで、道筋に光が見え始めている。N7の成功を一時的なブームで終わらせず、今後のモデル開発につなげられるかが日産の命運を左右する。

 日産の新たな挑戦は「メイド・イン・チャイナ」のイメージを払拭するだけにとどまらない。中国発の「デザインド・フォー・グローバル」への転換を示唆しており、新たな局面への一歩として注目されている。

グローバル再生への挑戦

一人勝ちの日産を支える「N7」, 覇者シルフィの凋落が示す市場変化, 全方位スマート化への転換, 現地主導体制への大転換, 中国発グローバル戦略の成否, グローバル再生への挑戦

日産自動車のロゴマーク(画像:時事)

 かつて日産の稼ぎ頭だったシルフィの苦戦は、日本で開発された高品質なガソリン車という価値が、急速にデジタル化する市場ではもはや通用しないという現実を示している。日産はこの危機を、現地への権限委譲という重い決断で乗り越えようとしている。

 N7の成功や新型ティアナへのファーウェイ製システムの採用は、自前主義や本社主導のプライドを捨て、現地の要求を最短距離で製品に反映させた結果といえる。中国のAIスタートアップや通信大手と組む姿勢には、技術の日産という言葉をデジタル時代の文脈で捉え直そうとする意志が読み取れる。

 経営再建計画「Re:Nissan」が掲げる中国からの輸出戦略や現地開発の強化は、グローバルメーカーとしての立ち位置を根本から問い直す挑戦だ。中国で磨かれた知能化技術やスピード感が、今後欧州や北米、そして日本市場へどう還元されていくのか。そこには過去の成功体験に縛られない新しい日産の姿が映し出されている。

 もちろん2026年以降の補助金終了など、市場環境は予断を許さない。しかし変化を恐れず現地の声に寄り添い、地道に改革を続ける姿勢こそが、日産が再び世界を驚かせるための鍵となるはずだ。

 今回の反転攻勢が一時的な熱狂で終わるのか、それとも真の再生への号砲となるのか。厳しい逆風の中でもがきながら前進を続ける日産の次なる一手に、引き続き注目したい。