日本の「財政不安」による円安は〈利上げ〉でも〈為替介入〉でも止められない…最悪の場合「ノーコントロール円安」の可能性も【今月の予想レンジ〈150~160円〉の根拠】

(※画像はイメージです/PIXTA)
2025年12月19日、日銀は「金融政策決定会合」で追加利上げを決定し、政策金利は30年ぶりの水準となる0.75%となりました。しかし、1ドル=157円まで円安が進行し、この背景には日本の「財政不安」があると考えられます。行き過ぎた為替変動に対して片山財務相は「断固として措置をとる」と発言するなど市場の警戒感が強まるなか、マネックス証券チーフFXコンサルタント・吉田恒氏は「このままではノーコントロール円安に陥る可能性もある」と指摘します。その根拠と1月の予想レンジ、考えられる相場展開について、本記事で詳しくみていきましょう。
1月の「FX投資戦略」ポイント
<ポイント>
・日銀が利上げしたにもかかわらず、12月は157円まで円安が進行。財政不安を懸念した円売りが影響か。
・日本の財政懸念が払拭されない限り、円安リスクが残る可能性。利上げや為替介入があっても円安阻止に懐疑的な状況では、「ノーコントロール円安」のリスクもくすぶる。
・一方、米ドルもトランプ関税に対する最高裁の「違憲」判決などをきっかけに、米国から資金が逆流することで下落リスク上昇の懸念。
・1月は円・米ドルともに「暴落」リスクを抱えており、「150~160円」のレンジで波乱含みの展開になると予想(第2週の予想は文末を参照のこと)。
12月は日銀利上げでも円安拡大…背景に日本の「財政不安」
2025年12月の米ドル/円は方向感に乏しい小動きが続いていましたが、19日の日銀金融政策発表を受けて大きく上昇し、高市政権発足後の米ドル高・円安のピークである1ドル=157.8円に迫りました。
しかし、片山財務相らによる円安けん制発言を受けて円安値の更新には至らず、その後は1ドル=156円台を中心に上値の重い展開となりました(図表1参照)。

[図表1]米ドル/円の日足チャート(2025年10月~) 出所:マネックストレーダーFX
一方、日銀が利上げを行ったことで、日米金利差(米ドル優位・円劣位)は縮小しました。そうした状況を踏まえると、金融政策発表後の米ドル高・円安は、金利差の動きから見ると大きくかい離しています(図表2参照)。

[図表2]米ドル/円と日米金利差(2025年11月~) 出所:LSEG社データよりマネックス証券が作成
では、なぜ利上げしたにもかかわらず円安が進んだのでしょうか。この動きは、日本の長期金利上昇に連動したものだと見ることもできそうです(図表3参照)。
日本の長期金利である10年債利回りは、高市政権が過去最大規模の来年度予算案を決定するなか、財政赤字拡大への懸念から2%を大きく上回る水準まで上昇しました。
こうした点を踏まえると、日銀の利上げにもかかわらず円高に振れず、むしろ円安が進んだ背景には、日本の財政リスクを意識した円売りが影響した可能性が高いと考えられます。

[図表3]米ドル/円と日本の長期金利(2025年11月~) 出所:LSEG社データよりマネックス証券が作成
片山大臣「断固たる」発言も、「為替介入」の可能性は低い?
ただし、今回の円安も、前述のとおり片山財務相らによる円安けん制発言をきっかけにひと段落となりました。
特に片山財務相はあるインタビューのなかで「為替の過度で無秩序な変動に対し、断固として措置を取る用意がある」と発言しており、これまでであれば為替介入を示唆する際に使われてきた「断固たる措置」という表現を用いたことで、米ドル売り・円買い介入への警戒感が強まった可能性があります。
では、日本の通貨当局は本当に、円安阻止のための為替介入を実行するのでしょうか。
通貨当局は2022年と2024年に米ドル売り・円買い介入を行いましたが、その際の米ドル/円は、過去5年の平均値である5年MA(5年移動平均線)を2割以上も上回っていました。
一方、現在の5年MAは137円程度であり、158円でもその15%上回る程度にとどまります(図表4参照)。

[図表4]米ドル/円の5年MAかい離率(1990年~) 出所:LSEG社データよりマネックス証券が作成
このように、5年MAとのかい離という観点で見る限り、過去に介入が行われた水準にはまだ達していません。したがって、「断固たる」といった強い表現はあったものの、現時点で当局が介入再開を決めた可能性は低いと考えられます。
では、もし従来とは判断基準が変わり、早期に為替介入が実現した場合、どうなるでしょうか。
2024年までの「投機円売り主導」とは異なる…拙速な円買い介入は失敗の恐れも
ヘッジファンドの取引動向を反映する CFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋ポジションを見ると、2022年と2024年の円安阻止介入は、投機筋による円売りが主導していました。しかし、今回の円安局面はその点が大きく異なっている可能性があります(図表5参照)。

[図表5]米ドル/円とCFTC統計の投機筋の円ポジション(2022年~) 出所:LSEG社データよりマネックス証券が作成
短期売買を行う投機筋が円売りを主導している場合、政府が介入して円高方向へある程度戻すことに成功すれば、投機筋が円を買い戻す動きに転じ、円安の阻止や是正ができる可能性があります。
しかし、CFTC統計などを見る限り、今回の円安はそうした「投機筋の円売り主導」ではなさそうです。その場合、投機筋にはまだ円を売る余力が十分に残っているため、政府が円買い介入を行っても、市場の円売りに吸収されてしまい、介入が失敗に終わる恐れがあります。
1月は円・米ドルともに「暴落」リスクに警戒
円安が止まる条件は日本の「財政不安」の払拭
今回の円安が、金利差の変化とは関係なく、日本の財政リスクへの懸念から長期金利が上昇し、債券価格が下落したことを背景に進んでいるのであれば、円安が止まる条件のひとつは、こうした財政不安への懸念が払拭されることにあります。
しかし前述のとおり、高市政権が決定した来年度予算案については、「責任の視点欠く過去最大の予算案」(2025年12月27日付・日経新聞社説)など批判的な見方が多く、懸念が払拭されたとはいえない状況です。そのため、円安はこの1月も続く可能性がありそうです。
2024年までの円安は、最終的に通貨当局による円買い介入で収束しました。しかし今回は、そのパターンとは異なる展開になるかもしれません。
金利引き上げや円買い介入の効果に対して市場が懐疑的な状況が続くなかでは、なにかの拍子に円安が「ノーコントロール」な状態に陥る危険性もあることを警戒する必要があるでしょう。
トランプ関税の最高裁判決にも注目…1月の米ドル/円予想レンジは「150~160円」
一方で、米ドル安の拡大により結果として円安が止まり、円高へ転じる可能性も考えられます。
トランプ関税に対する米最高裁の判決は1月上旬に出るとの見方もあり、もしトランプ関税が「違憲」と判断されれば、米国から資金が大きく逆流する展開も想定されます。これは、円高方向となるシナリオの1つといえます。
NYダウに対するナスダック総合指数の相対株価は、2000年のITバブル期を上回るほどナスダックが割高な状態となっています(図表6参照)。これはAI関連や一部テック株への資金流入が、ITバブル期以上に過熱していることを示しているのではないでしょうか。
こうした資金の流れが、前述の最高裁判決などをきっかけに反転した場合、円安以上に米ドル安が進む可能性にも注目したいところです。

[図表6]NYダウに対するナスダック総合指数の相対株価(1990年~) 出所:LSEG社データよりマネックス証券が作成
以上を踏まえると、今月の米ドル/円は、ある意味では円・米ドルともに「暴落」リスクを抱えた不安定な状況にあるように見受けられます。したがって、1月の米ドル/円は「150~160円」の範囲で、上下ともに波乱含みの展開を予想します。
今週の米ドル/円予想レンジは「155~160円」
今週は、12月米雇用統計をはじめ注目度の高い米経済指標の発表が予定されていますが、なかでも「失業率」に注目したいと思います。
11月の失業率は4.6%へ急激に悪化したものの、米政府機能の一部停止(シャットダウン)明け直後で、数字に歪みが生じている可能性があるとの見方が広がりました。もしその見方が誤りで、12月の失業率も4.6%となれば、1月FOMC(米連邦公開市場委員会)では利下げとなる可能性が高まります。
すでに述べたように、1月は円・米ドルともに「暴落」リスクを抱えていると見られることから、今週もなにかの拍子に大きく動く可能性があります。以上を踏まえ、今週の米ドル/円は「155~160円」と予想します。
吉田 恒
マネックス証券
チーフ・FXコンサルタント兼マネックス・ユニバーシティFX学長
※本連載に記載された情報に関しては万全を期していますが、内容を保証するものではありません。また、本連載の内容は筆者の個人的な見解を示したものであり、筆者が所属する機関、組織、グループ等の意見を反映したものではありません。本連載の情報を利用した結果による損害、損失についても、筆者ならびに本連載制作関係者は一切の責任を負いません。投資の判断はご自身の責任でお願いいたします。
東京都庁の足元で800人が列をなす〈炊き出し〉の光景――煌びやかな新宿の裏側に映し出される「令和の貧困」【ルポ】
私を使って親孝行するのやめてくれる?〈年金月15万円〉自分の両親に親孝行したい夫にピシャリ。〈38歳共働き妻〉が独身以来の「ひとり正月」を満喫できたワケ
バブルの残骸…新潟のリゾートマンションを「40万円」で即決。夢のマイホームに飛びついた69歳男性を追い詰める「安さの代償」