「人生破壊された」幼なじみとの40数年ぶりの再会から始まった暗転 7億円の賠償求めた美容整形外科医 食い違う証言、判決が注目したのは「手書きのメモ」

頭を抱える男性のイメージ

 始まりは1本の電話だった。その年の冬、東京・銀座で美容クリニックを経営する男性医師の元に40数年ぶりに現れた幼なじみ。再会から10年がたち、60代になった2人は約7億円の賠償金を巡る裁判の原告と被告として相対することになった。「人生を破壊されてしまった」。法廷でそう訴えた医師の身に何が起きたのか。

(共同通信=助川尭史)

着信ボタンが光る電話(イメージ)

▽音信不通だった「親友」からの突然の電話

 「覚えているか、久しぶりに会いたい」。2014年冬、医師が経営する銀座の美容整形外科クリニックに、突然1本の電話がかかってきた。相手は小学生の時に一緒に地元の少年合唱団に所属していた同い年の男性だった。その名前に懐かしさを覚えた医師は、直接会う約束を取り付けた。

 数日後、クリニックを訪れた男性は料亭やすし屋などを渡り歩いた後、浅草で古物商をしていると自身の近況を語った。合唱団在籍時は遠征や合宿も多く、学校の同級生よりも仲の良い「親友」だったという2人。いつしか頻繁に顔を合わせる仲になっていった。

 2015年3月、男性は都内のある美容外科グループを買収し、化粧品の販売を主な事業とする新会社を設立する「投資話」を持ちかけた。見返りが大きいと考えた医師は約3千万円を出資し、新会社の代表取締役に就任した。だがその後、事業は具体的な動きがないまま頓挫。医師はオフィスの賃料や内装工事費の未払いなどで多額の負債を背負うことになった。

 その後も男性はことあるごとに投資話を持ちかけた。「芸能関係の株の運用で1~2カ月で8倍の利益が出せる」「1千万円の投資の『枠』があり、預けてくれれば毎週10%の配当として100万円渡せる」。取引額はどんどん大きくなっていき、一回に数千万円単位に上ることもあった。

 幼なじみの頼みだと応じてきた医師も、さすがにやめたいと相談した。だが、男性は「途中でやめると莫大な賠償金を支払わないといけない」とすごみ、「おまえもただじゃすまない」とたたみかけた。

 医師は金を工面するため、自宅のマンションを売却し、生命保険も解約。日々の生活にも困る状況まで追い込まれた末、2023年に出資金など約7億円の損害賠償を求めて男性を提訴した。

東京・銀座の交差点

▽双方の主張は平行線、提出された「証拠」

 被告となった男性は、医師との再会後は双方がお互いに助け合う関係だったと訴状の内容を真っ向から否定した。事業がうまくいかなかったのは医師が積極的に資金調達に動かなかったためで、その後も高額な金銭を要求したことはないと主張。日頃の浪費癖で散財した分を架空の投資話でだまされたことにして、友人の自分になすりつけようとしていると訴えた。

 双方が出廷して迎えた本人尋問。証言台に立った医師は「幼なじみの言葉を信じ続けた私を、彼はとことん搾取してだまし続けた。貯金も全て失い、母親の葬儀すら満足に挙げられていない。人生を破壊されてしまった」と窮状を明かした。

 一方、医師側の代理人から、40数年ぶりに連絡を取った理由を問われた男性は「合唱団のOB名簿がたまたまネットで出てきて、懐かしくて何人かにちょっと電話した。その中の一人だっただけ」と淡々と説明した。

 久しぶりに会った医師は羽振りが良く、会う度に豪華な暮らしぶりについて自慢するような態度を取ったという。「事業の話を持ちかけた時も、打ち合わせは関係ない話ばかり。それなのに突然やっぱりやめようと言われ、計画は頓挫した。その後もことある度に尻ぬぐいをさせられた。非難される覚えはない」

 双方の主張が平行線をたどる中、医師が証拠として提出したのが6枚の手書きのメモだった。メモには男性から金銭を求められるたびに備忘録として付けていたという日付と数字が記されており、「実際に詐欺があったことを示す証拠」と強調した。男性は、医師が提訴後に作成した虚偽の文書だと反論。判断は裁判所に委ねられた。

東京地裁

▽「こんなことにならなかったら…」

 昨年10月、東京地裁は男性の詐欺行為を認定し、約6億5千万円の賠償支払いを命じた。

 地裁はメモの体裁や、記された内容の金額が実際に医師の口座から引き出されていた金額とほぼ一致していたことに着目。

 男性から説明を受けた投資スキームについても詳細に記載されていたことから、詐欺の裏付けとなる証拠として採用した。

 ただ、男性が最初に持ちかけた新会社設立の投資話については事業計画書があり、オフィスの工事も実際に進んでいたことから実在したと認定。事業が頓挫したのは、医師が急に方針を変えて経営に消極的になったことが原因だった可能性があるとして賠償額を減額した。

 本人尋問では医師に事業を持ちかけた理由や、その後の関係について明確には語らなかった男性。ただ、親友だった医師から訴えられたことについて尋ねられ、こうこぼす場面があった。「こんなことにならなかったら、今でも楽しかったんだろうな」。男性の真意はどこにあったのか。訴訟を通して明かされることはなかった。

 その後、男性は判決を不服として控訴している。