デフレからインフレ、高金利へ--お金の環境変化を初めて体験する就職氷河期世代こそ読んでおきたい「お金の入門書」
1990年代後半から長く続いたデフレが一転、近年の急激な物価上昇にため息をつく人も多いはず。インフレ下では、現金を「貯める」だけでは資産価値が徐々に減少してしまうため、投資によって「増やす」ことで対応する必要がある。とはいえ、物価が上がらない時期を長く経験した就職氷河期世代である今の40代~50代半ばの人にとって、この発想の転換は簡単ではない。本日刊行した『相続税調査でわかった 富裕層が大事にしている「お金の基本」』(講談社+α新書)は、“普通の人”が富裕層のように億単位の資産を築くための考え方とやり方をわかりやすく解説する一冊。書名にある通り、著者の小林義崇さんは国税局で10年あまり相続税の調査に従事し、多額の相続税を払うほどの富裕層がどのようにしてお金を増やしたのか、丹念に見てきた人だ。本書を執筆した背景や、お金との向き合い方について、お話を伺った。
お金に苦労したから「お金持ち」に興味がわいた
――今回の著書『相続税調査でわかった 富裕層が大事にしている「お金の基本」』では、「普通の人」が富裕層をめざす道筋が示されています。どのような理由から本書を執筆したのでしょうか?
今お金に関して漠然とした不安を抱える氷河期世代の人ってたくさんいると思うんですよ。ゆとりある老後を暮らせるのか、子どもの教育資金は足りるのか……。かつての私もそうで、母子家庭で育ち、周囲との経済格差を感じて途方に暮れていました。でも、お金に対する正しい「考え方」と「使い方」を知ってからは、そうした不安はなくなったんです。
「お金に対して正しい考え方ができているか」、そして「お金を増やすための適切な仕組みを構築できているか」。この2点こそ、経済的な豊かさを手に入れるために最も重要なカギとなります。逆に言えば、これさえ押さえておけば誰でも富裕層にたどり着くことができる。それを伝えたくて書いたものが、今回の本です。
実はこの本を書くにあたり、テーマをすごく悩みました。これまでに10冊以上のマネー本を執筆してきて、節税、投資、確定申告、金利などお金のノウハウは書き尽くしたという思いがあったからです。ただ考えてみると、お金に対する「考え方」と「使い方」に焦点を当てたことはありませんでした。
――お金に対する正しい「考え方」と「使い方」は、国税局時代に富裕層の相続税調査をするなかで学んだそうですね。
私は中学3年の時に両親が離婚してお金に苦労して育ち、大学を卒業した時点で1000万円もの奨学金返済義務を背負っていました。だからこそ、自分とは縁遠い「お金持ち」の生活に興味がありました。そこで国税局に就職した際、富裕層の相続税調査を担当する資産課税部門を志望したんです。

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相続税調査では、故人のご自宅にうかがい、預金口座をチェックして資金の流れを徹底的に洗い出します。当然、富裕層の生活ぶりがよく見えてきます。はじめは「お金持ちはもともと資産がある家系なんだろうな」「楽してハデな生活を送っているはず」と思い込んでいたのですが、仕事を通してわかったのは、どうもそうじゃない。なかにはそういう人もいますが、富裕層の大半は、財産と呼べるようなものが何もない状態から地道に働いたり、コツコツと節約して投資に回したりした結果、一代で億単位の資産を築いた人たちでした。
株式投資で損してしまう人とは
――「普通の人」が富裕層になることは決して夢物語ではないと感じた?
というよりも、富裕層が資産を築くためにしていることは、それほど難しい行動ではないんだな、という気づきがありましたね。たとえば、150円のペットボトル飲料を買うのを我慢する人。どうしてだと思います?
手元に買うお金がないわけでも、150円を節約しているわけでもないんです。その150円を今使わず、投資に充てて年7%で複利運用すると、50年後には約32倍の4800円に増える、と考えるのです。同時に、だからこそ元手が少ない場合は「長い時間をかけて増やすしかない」とも思いました。

小林義崇氏
本書の中でも言っていますが、普通の人が着実に資産を築くための仕組みを一つ挙げるとすれば、間違いなく「NISAを活用した、長期・分散・積立投資」です。しかし、せっかく積立投資を始めても、少々値下がりしたからといってあわてて売ってしまったら、資産を増やすことはできません。「長期」というのが大きなポイントなのです。国税局時代、株式投資で損失を出して相談に来る人をたくさん見かけましたが、その多くが「株価の下落などで慌てて株を売ってしまった人」でした。一方、お金持ちに目を向けると、彼らは株をずっと保有し続けることで資産を増やしていたんです。
――時間を味方につけることが大事なのですね。ただ、若い時は仕事で忙しすぎて資産形成に興味がもてず、40~50代になりやっと将来のお金について考え始めた、という方も多いのではないかと思います。それでも焦る必要はないでしょうか。
何歳だとしても、資産形成に興味を持ったその日から始めたほうがいいと思います。
一般的に長期投資の「長期」は20年以上を指します。人生100年といわれる今、40代で投資を始めれば20年後は60代、50代で始めても70代。まだまだ寿命が残されているでしょう。資産形成は人と比べるものではありません。自分で「始めたほうがいいのかも」と気づいたタイミングでスタートすれば大丈夫です。積立投資は月100円から可能です。ちなみに、証券口座を開設したからといって営業電話がかかってくることもないので安心してください。
かくいう私自身も、積立投資を始めたのは2019年、38歳の時でした。
――意外と最近ですね。積立投資を始めたきっかけは?
一度、国税局に勤務していた20代後半に「税金の勉強のため」と思い株式投資にチャレンジしたことがあるのですが、数万円の値下がりに耐え切れず、売ってしまったんですよ。当時は「株で損する人」と「株で利益を得る人」の違いがよくわかっていませんでした。

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その後ライターになり、たくさんの投資で成功した人にインタビューする機会を得ました。そこで「投資はバクチじゃない」「正しいやり方で投資をすれば安定的に資産は増える」と聞き、投資しないほうが機会損失だと理解したんです。それで、ちょうどつみたてNISA制度がスタートした翌年から月数万円の積立投資を始めました。投資家の皆さんから「現金の価値は変動する」と学んだことも大きかったですね。
現金を「貯める」だけでは資産価値は減っていく
――小林さんご自身も1981年生まれの就職氷河期世代です。この世代は、物価が上がらないデフレ時代を長く過ごしてきたため、「リスクを負って投資するよりも現金で持っておくのが安全」という意識が根強いのかもしれません。
私は20歳前後からずっとデフレ経済の中で生きてきました。そのため30代前半までは「現金で持っておけば元本が保証されるから安心だ」という考えでした。でも、投資家の話を聞き、そうじゃないと知って。
日本は1990年代終盤にデフレに突入し、政府はいまだにデフレを脱却したという公式な見解を出していません。ただ、肌感覚として、ここ数年で物価はぐんぐん上がっていますよね。それに対して賃金の上がり方が追い付かない。こんな状況では、現金を持っているだけでは資産は増えないどころか、徐々に目減りしてしまいます。ではどうするのかというと、株や不動産など、物価とともに価値が上がっていくものにお金を投じたほうがいいということになります。私たち氷河期世代は今までの考え方を大きく変える転換点に立っていると強く感じています。
――著書では、若い頃に布団詐欺にひっかかりそうになったというエピソードが語られています。ほかにもお金に関する失敗談はありますか?

布団詐欺は、大学生の頃の出来事でした。セールスマンの口車に乗せられて布団を購入する契約をしたら、金利もついて月々7000円、8年払いの総額70万円近いローン契約だったんです。結局、周囲のアドバイスもあってクーリング・オフできたのですが、頭の中に一瞬「毎月7000円なら払える」という恐ろしい考えが浮かんだのも事実です。リボ払いの怖さってこういうところですよね。さすがにそれ以降は、怪しい話は断れるようになりました。
失敗談とは少し違いますが、やっぱりもっと若い頃から積立投資をしておけばよかったなとは思います。先ほど「気づいたタイミングで始めればいい」と言いましたが……20代から正しい知識を持ってコツコツ積み立てておけば、今頃、資産が2倍3倍になっていたと思うと、もったいなかった(笑)。まあ、こればかりは仕方がないことです。
お金のことばかり考えたくはない
――著書では、物欲コントロール、不動産、投資、税金など、さまざまなジャンルの「お金との付き合い方」に触れていますが、資産形成をゼロからスタートする人がまず取り組むべきは、どれでしょうか?
「普段のお金の使い方を見直してみる」ことかな。クレジットカードの使用明細や、銀行の出入金明細を見てみる。私はマネーフォワードというアプリに口座を連携して、お金の出入りをざっくりとチェックしています。一つ一つの項目を精査する必要はなく、「何に使ったんだっけ?」と考えるだけでいい。すると次から「あれは無駄だったから今回は控えよう」という行動につながっていくんです。これ、「明細なんて見たくない」という人もいると思うんですよ。ただ、目を背けていても収支が改善することはないので、まずは見てみてください。

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――今回の新刊をどのような人に届けたいですか?
「お金のことは心配だけど、お金のことばかり考えたくない」という人ですね。まさに私がそうなのですが、お金のことより仕事や家族など自分の生活に集中したい人にとって、ちょうどいい本だと思います。
私が積立投資を何年も継続できているのは「これが正しい行動だ」とわかったうえで投資しているからです。20代の頃はそれを知らずに売ってしまった。お金に対する基本の考え方を理解し、正しいセッティングさえしておけば、あとはほったらかしでOKなんです。「今、売ったほうがいいのか?」「あの時の投資は正しかったのか?」など、余計なことに頭を悩ませる必要はありません。これが理解できてから、私はお金に対する不安がすごく軽くなりました。かつての自分と同じ不安を抱える人のお役に立てたらうれしいです。
インタビュー・構成/小林幸江