「駅前再開発」「整備新幹線」はもう不可能なのか?――予算2倍でも進まぬ工事、人手不足&資材高騰が直撃する鉄道事業の新たな危機
建設会社が仕事を選ぶ時代
「経費節約と人材確保に努めているが、思うように効果が上がらない。今の人員で対応でき、確実に利益が上がる事業だけを引き受けるしかない」
【画像】「えぇぇぇ!?」 これが公共工事設計労務単価の「推移」です! 画像で見る(6枚)
大阪市中央区の建設会社。広報担当者に建設工事の現状について尋ねると、苦しい胸の内が返ってきた。
営業担当者が民間企業や地方自治体を回り、情報収集に努めているが、昔ほど積極的な姿勢ではない。無理して受注や下請け入りしても、資材費の高騰で自腹を切らざるを得ない可能性があるうえ、人手不足で工期遅れが発生しかねないからだ。
「今はゼネコンが儲けの少ない仕事に見向きもしない時代。うちのような中小企業はひとつの失敗で経営が傾く。付き合いがある相手の仕事でも断らざるを得ないことがある」
発注事業に多くの建設会社が群がる時代ではなくなった。“建設会社が仕事を選ぶ時代”になっている。
全国各地で駅前再開発が白紙

再開発計画に暗雲が漂う京王百貨店新宿店(画像:高田泰)
鉄道事業者が進める駅周辺の大規模再開発が、人手不足や資材費の高騰から相次いで中止や見直しに追い込まれている。名鉄の名古屋駅(名古屋市中村区)再開発では2025年11月、設計段階から事業に協力し、入札に加わったゼネコン3社が工事の人材確保難を理由に辞退し、計画が事実上の白紙に戻された。
新宿駅(東京都新宿区)西南口再開発では、施工業者が決まらず、京王電鉄が3月、南街区の工事完了を2028年度から未定に変更した。京王百貨店新宿店がある北街区は2040年代完成の目標が残るものの、京王電鉄は事業内容を精査中だ。
大阪メトロが中央線に支線を設け、新駅(大阪市城東区)整備を予定する森之宮検車場周辺では、1万人以上を収容するアリーナと大阪公立大新キャンパスの事業者公募に応募がなく、9月から計画がストップしたまま。設定予算内での施工に採算面の危惧があったとみられ、大阪メトロは「今後の方針を検討している」と苦慮している。
JR九州は9月、JR博多駅(福岡市博多区)の線路をまたぐ新施設計画を中止した。総事業費435億円を投じ、空に浮かぶ新ランドマークを建てる構想だったが、事業費が想定の約2倍に膨らみ、採算を見込めないと判断したからだ。
労働者3割減、求人8倍の現実

アリーナ整備計画がストップしている大阪メトロ森之宮検車場(画像:高田泰)
背景に潜む建設業界の人手不足と資材費の高騰が止まらない。
厚生労働省によると、2024年の建設労働者数は全国477万人。最も多かった1997年の685万人に比べ、30.4%減った。建設・採掘従事者の全国平均有効求人倍率は10月で5.18。なかでも建物の骨組みを造る躯体工事従事者は8.01の売り手市場が続く。
建設会社の多くが報酬を引き上げて人材確保に動くが、人口減少と若年層の建設業離れで思うように運ばない。大阪市西成区の建設会社は
「日本人の働き手がいない。外国人を雇って仕事をこなしているが、日本の給与水準は高くない。いつ他国へ逃げられるか心配や」
と話す。
資材費と労務費は上昇の一途

事実上白紙化された名鉄名古屋駅周辺再開発の完成イメージ(画像:名鉄)
労務費の上昇は建設コストにはね返る。国土交通省によると、地方自治体が工事発注の資料に使う公共工事設計労務単価(1日当たりの賃金基準)は、2025年3月の改定で前年度比6.0%増の2万4852円に上がった。13年連続の引き上げで、2012(平成24)年比で約1万2000円上昇している。
資材費高騰の影響も大きい。日本建設業連合会によると、11月の資材費を2021年1月と比べると、
・H型鋼(建物の柱や梁に使われる代表的な構造用鋼材):42%
・生コンクリート:69%
・コンクリート型枠用合板:43%
・板ガラス:83%
の価格上昇。世界的な原材料不足に円安が追い打ちをかけた格好だ。
日本の商慣習では、資材費の高騰分を取引価格に反映できず、建設会社側が自腹で負担するのが一般的。かつては高品質なものを安価で提供するのが建設会社の腕の見せどころとされたが、ここまで高騰すると経営を圧迫しかねない。
整備新幹線の事業判断にも影響か?

計画が中止された博多駅の空に浮かぶ新施設完成イメージ(画像:JR九州)
整備新幹線も資材費や労務費の上昇と無縁でない。北海道新幹線の札幌延伸工事では、建設主体の鉄道建設・運輸施設整備支援機構が12月、建設費の見積額を3.5兆円に引き上げた。現計画より52%増、当初計画の2倍以上になる。トンネル内の岩塊撤去など難工事の影響もあるが、資材費や労務費の上昇が増額分のほぼ半分を占めた。
北陸新幹線大阪延伸では、2016(平成28)年に決定された小浜・京都ルート(福井県敦賀市~同県小浜市~京都市~京都府京田辺市~大阪市)の建設費を国交省が2024年、従来の2.1兆円から最大5.3兆円に増えると試算した。ルートは与党で見直しが始まったが、見直しを招いた原因のひとつが建設費の大幅増だ。
建設費が上がれば、事業の費用対効果を示す費用便益比が悪化する。費用便益比は1以上で投じた費用以上の効果が出ることになり、整備新幹線の着工条件に1以上と規定されている。小浜・京都ルートは2016年の試算で1.1だったが、石川県選出自民党国会議員の自主研究会が12月にまとめた中間報告では、0.55に下がった。
基本計画から整備計画への格上げを目指す路線にとっても頭が痛い。基本計画路線は、四国や山陰、東九州などが活発に活動しているが、いずれも沿線人口が少なく、費用便益比が障害になる。
四国新幹線を推進する香川県交通政策課は
「交流人口増加を進め、必要性を粘り強く訴えたい」
としているが、資材費や労務費の上昇が新幹線網の拡大を妨げる要因のひとつに浮上しつつある。人口減少の克服策は見えず、資材費高騰に歯止めを掛けるのも難題だ。整備新幹線や駅前の大型再開発がままならない未来が近づいているのだろうか。