「金型、不正保管が止まらない」トヨタ・スズキ子会社に相次ぐ勧告。サンデンは4000個超、名門企業で繰り返される下請法違反の根深さ

金型問題の顕在化

 自動車産業は今、100年に一度とも言われる大変革期にある。電気自動車(EV)への移行が加速するなか、従来の内燃機関向け部品を手がける企業は、従来のビジネスモデルだけでは生き残れない時代を迎えた。本連載『自動車部品業界ウォッチ』では、こうした変化のなかで各社がどのような戦略を描き、どのように新規事業や技術に挑戦しているかを追う。国内外の公開情報を整理・分析することで、自動車部品業界の“今”を浮き彫りに。EV化という大波に対応する部品メーカーの戦略と、業界構造の変化を見通すことで、読者に新たな知見と業界理解を提供する。

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 自動車業界は急速なEVシフトにより、大きな変革期を迎えている。EVの普及でエンジン車が淘汰されるかと思われたが、近年はEVシフトの揺り戻しによりハイブリッド車への回帰も起きている。こうした変化にサプライヤーも対応を迫られ、生き残りをかけた動きが活発化している。

 2024年から2025年にかけては、自動車メーカーとサプライヤー、あるいはサプライヤー同士の間で「金型」をめぐる問題が注目を集めた。第5回では、自動車業界における金型問題の現状と課題に焦点を当てる。

相次ぐ金型不正と公取委の勧告

金型問題の顕在化, 相次ぐ金型不正と公取委の勧告, 下請けへの不利益転嫁という構造, 取適法による規制強化と新たな禁止行為, 金型転用による新規事業への挑戦

サンデンのウェブサイト(画像:サンデン)

「金型」とは金属や樹脂製品を成形するための型であり、自動車部品の製造には欠かせない。しかし、金型の取扱いに関する不正行為がこの一年間で相次ぎ明らかになった。公正取引委員会は下請法に違反する事案について改善と再発防止を求め、勧告を行っている。

 2024年2月、自動車の空調機器を製造するサンデンは、下請け61社に合計4220個の金型を不正に保管させたとして大きなニュースとなった。メーカーや上位サプライヤーが下請けに金型の保管や管理費用を負担させたことが問題であり、長年の商習慣の改善が求められた。しかし、その後も金型の不正取扱いは後を絶たず、トヨタ子会社のトヨタカスタマイズ&ディベロップメントが664個、愛知機械工業が415個、フタバ九州が3733個の金型を下請けに不正に保管させた事例が公表されている。

 これら以外にも自動車部品に関する金型不正の勧告は多数存在する。業界では各社が法令遵守と再発防止を表明したはずだったが、現実には改善が進まず、新たな事案が続発している。10月にはトヨタ子会社のトヨタ自動車東日本、12月にはスズキ子会社スニックにも公取委から勧告が出た。2024年から2025年にかけて、自動車部品メーカーに対する同様の勧告は後を絶たず、業界の自浄作用は働いていない。

下請けへの不利益転嫁という構造

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愛知機械工業のウェブサイト(画像:愛知機械工業)

 金型保管問題の本質は、自動車メーカーや上位サプライヤーが立場を利用して下請けに不利な取引を強要する点にある。

 金型は量産車向けの部品だけでなく、修理や交換用の部品生産にも使用される。一度金型がなくなると部品の生産は不可能となるため、メーカーは一定期間、金型を保持しておきたい。だが部品生産が終了すると、金型は下請けの倉庫を圧迫し、サビを防ぐ管理も必要となる。そのため新たな受注がない場合には、金型は適切に廃棄されるか、保管料や管理料が支払われなければならない。

 この点は下請中小企業振興法にも明記されており、発注者は受注者が不利にならないよう、型の取り扱いや保管費用について協議する義務がある。しかし自動車業界では、メーカーや上位サプライヤーの横暴が長年続いた。下請け企業は金型の保管や管理に何百万円、何千万円もの費用を不当に負担させられてきた。こうした事情があるため、公正取引委員会の勧告が相次ぐのも自然な流れである。

取適法による規制強化と新たな禁止行為

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新しい型取引のルール(画像:中小企業庁)

 公正取引委員会の取り締まり強化と並行して、法律面でも下請け保護が強化される。2026年1月から施行される中小受託取引適正化法、通称「取適法」である。

 取適法は下請法に代わる新たな法律で、下請取引の公正化と下請事業者の利益保護を一層強化したものだ。法律内の呼称も見直され、「下請事業者」は「中小受託事業者」と改められた。上下関係を連想させる表現を避ける狙いがある。

 従来は資本金の額で発注側か受注側かを判断していたが、新法では従業員数も基準に加えられた。これにより、極めて小規模な企業や個人も取適法の保護対象となる。

 取適法では新たに禁止行為も設定された。協議に応じず一方的に代金を決定する行為や、手形払いなどの強制が対象である。これにより、下請法で規制されていた不当な減額や買いたたきに加え、価格交渉を無視する事例にも対応できる。手形払いの禁止は、発注者側が受注者に強いていた資金繰りの負担も軽減する効果がある。

 違反した発注者への対処も強化された。従来の公正取引委員会や中小企業庁からの指導・勧告に加え、事業所管省庁の主務大臣にも権限が与えられた。不当な事例が発生した際の通報先が増えることで、取り締まりはより徹底される見通しだ。

 金型の無償保管強要については、従来は下請法の「不当な経済上の利益の提供要請」に違反する事例として勧告されてきた。取適法の施行により監視体制は強化され、是正が期待できる。加えて、従来は対象外だった木型や治具なども「金型」として扱われる範囲に追加され、より細かい事例にも対応可能となる。

金型転用による新規事業への挑戦

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取適法の適用基準(画像:政府広報オンライン)

 金型問題は暗い話題が多いが、最近日経新聞で再利用の前向きな事例が報じられた。岡山に拠点を置く備前発条株式会社の取り組みである。

 備前発条は自動車用シートのヘッドレストやアームレストなどを手がける受注者側の企業だ。同社は自動車用部品の金型を転用し、スポーツシートで知られるブリットと共同で一般市場向けの高級チェアを開発した。オフィスやガレージでの使用を想定している。

 報道によれば、備前発条もかつて金型を無償保管していた時期があり、まさに金型問題の中心にあった。そこで同社は直接取引のあるシート製造会社だけでなく、シート製造会社に影響力を持つ自動車メーカーにも働きかけ、金型の転用許可を得た。中小企業が発注側の大企業に働きかけ、金型を活用した前向きな事例である。

 金型は有償で保管しても直接の利益を生まない。しかし、備前発条のような取り組みが増えれば、新たな事業展開の可能性は広がる。