アジア最大級の詐欺集団『プリンスグループ』会長が逮捕! 日本で開いていた「巨大パーティ」証拠写真

『プリンス・ホールディング・グループ』の陳志(チェン・ジー)会長(画像は同社ホームページより)
1月7日、カンボジア内務省は、中国政府の要請で、アジア最大級の”多国籍犯罪組織”とされる華人系企業『プリンス・ホールディング・グループ』(太子集団控股、以下プリンスグループ)の陳志(チェン・ジー。以下、チェン)会長(38)ら中国籍の3人を6日に拘束したと発表した。その翌日の7日には、チェン会長の身柄は中国に移送されている。
カンボジア内務省は、中国側と数ヵ月間協力して捜査したと発表し、チェン会長のカンボジア国籍は取り消されたとしている。
チェン会長は昨年10月、米国連邦捜査局(FBI)と英当局に、カンボジアなどを拠点に世界各国をターゲットに特殊詐欺などを行った容疑や、人身売買された労働者を拷問する収容所などを運営した容疑で起訴され、米国財務省などが制裁リストに追加していた。
フライデーデジタルは、プリンスグループの不動産部門の会社が、’22年12月8日に日本で「巨大パーティー」を開いていた「証拠写真」を入手。その時の様子を詳細に報じていた。’25年12月17日公開の記事から振り返る。
米国が認定したアジア最大級の”多国籍犯罪組織”
広大な日本庭園を有し、結婚式や晩餐会の名所として知られる東京・白金台(港区)の『八芳園』。その宴会場で、ある奇妙な「発表会」が開かれたのは、今から3年前、’22年12月8日のことだった。
会場には、王冠を模したロゴマークが並び、スーツに身を包んだ男女が談笑している。演台で熱弁を振るうのは、恰幅の良い中華系の人物だ。
〈カンボジアの魅力とグローバル化が加速しているプノンペンの現状……そして商業施設・物件説明を含め発表説明会を執り行うこととなりました〉
配られた資料にはそう記されていた。一見すれば、海外不動産投資の勧誘イベントに過ぎない。しかし、このイベントの主催者こそが、今、世界中の捜査機関が注目しているカンボジアの巨大財閥プリンスグループだったのである。
演台の男の名は王昱棠(ワン・ユータン。以下ワン)。彼はこのイベントから約3年後の’25年11月4日、台湾の捜査当局により手錠をかけられることになる。容疑はマネーロンダリングと組織犯罪だ。
事態が急変したのは、’25年10月だった。米国連邦捜査局(FBI)と英当局が、プリンスグループとその総帥であるチェン会長を起訴し、米国財務省などが制裁リストに加えたのだ。米英当局は公式声明(’25年10月14日リリース)の中で、同グループを名指しした上で、次のように発表した。
〈ワシントン── 本日、米国財務省の外国資産管理局(OFAC)と金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)は、英国の外務・英連邦・開発省(FCDO)と緊密に連携し、オンライン詐欺や盗難資金のロンダリングを通じて米国およびその他の同盟国の国民を標的にしている犯罪ネットワークに対して補完的な措置を講じました〉
同グループを単なる詐欺集団ではなく、
「アジア最大級の”多国籍犯罪組織”」
と認定したのである。
この発表は、カンボジア経済を知る者にとって衝撃だった。というのもプリンスグループは、国を代表する超優良コングロマリット(異なる業種・業態の複数企業が、ひとつの大きな企業グループを形成する経営形態)だったからだ。プノンペンの中心部に立つ本社ビルに、複合商業施設や5つ星ホテル、さらには『プリンス銀行』や航空会社まで傘下に収め、チェン会長は慈善活動にも熱心な”若き名士”として、表社会で絶大な信用を得ていたのである。
〈人身売買で集めた数千人の人々を監禁〉
しかし、公開された起訴状には、驚くべき実態が記されている(以下、〈〉内は起訴状からの要約)。
〈彼らはカンボジア国内に、高い壁と有刺鉄線で囲まれた「強制収容所」さながらの巨大施設を建設。そこに人身売買で集めた数千人の人々を監禁し、組織的な「フォン・ファーム(電話工場)」を運営していた。数千台のスマートフォンと数百万件の電話番号を自動制御するシステムを構築し、監禁された労働者たちに、世界中のターゲットへ無差別にメッセージを送信させていた。さらにチェン会長は、ノルマを達成できない労働者への拷問を容認し、部下に対して「(労働力として使えなくなるから)殴り殺すな」と具体的に指示していた記録まで残されている〉
〈彼らの犯罪収益は、表向きの事業である「不動産開発」や「金融サービス」を通じて資金洗浄(マネーロンダリング)されており、カンボジアのみならず、世界30ヵ国以上に張り巡らされた企業ネットワークが、洗浄装置として機能していた〉
米司法省は今回、チェン会長が管理していた資産から約150億ドル(約2兆2500億円)相当のビットコインを特定。すでに米政府の管理下に置いた上で、史上最大規模となる没収訴訟を提起している。
また、シンガポール警察は、チェン会長らが所有する高級車11台やヨット、不動産など総額1億5000万シンガポールドル(約170億円)以上の資産を差し押さえたという。
そんな悪の巨大組織が、あろうことか日本にも入り込んでいた可能性が極めて高いのである。冒頭の話に戻る。
’22年12月、ワンは『八芳園』で開催されたイベントでメインスピーカーを務めていた。イベント名は『カンボジア太子地産グループ東京発表会』。主催の『プリンス ・リアル・エステート・グループ(Prince Real Estate Group、以下プリンス・リアル・エステート)』は、チェン会長率いるプリンスグループの不動産部門の企業で、ワンはプリンス・リアル・エステートの日本拠点にあたる『太子国際地産』のCEOとして、カンボジアの高級コンドミニアム『Happiness Plaza』などの購入を呼びかけた。
集まったのは日本の投資家や企業経営者たち。このイベントに参加したコンサル会社の経営者はこのときの様子をこう語る。
「カンボジアの企業のイベントということで、興味本位で参加しました。会場にはプリンスグループの王冠マークがずらっと並んでいて、ワンが『これから日本でも不動産事業を展開していきたい』とか『カンボジアに投資しませんか?』といった話をしていたと思います。会場にはプリンスグループの幹部と思しき人間が何人かいました。ワンが一番偉いんだろうと思って名刺交換をしましたが、一人、若い幹部らしき男がいました。今考えるとあの男がチェン会長だったのかもしれません」
利用された「日本カンボジア協会」
このイベントでは公益性の高い日本の協会も参加していた。
「『日本カンボジア協会』の事務局長が登壇して講演を行いましたから、協会がイベントの協賛をしているのかな? と思いました」(同経営者)
『一般社団法人日本カンボジア協会』は1963年に設立され、元駐カンボジア大使が会長を務め、名誉会長には高村正彦、理事には元外相や安藤隆春・元警察庁長官といった重鎮が名を連ねる、由緒正しき一般社団法人だ。
そんな歴史のある団体が、なぜプリンスグループのイベントで講演を行っていたのか。
フライデーデジタルは『日本カンボジア協会』に対し、事務局長がこのイベントで講演を行った経緯や、プリンスグループとの関係について質問状を送った。これに対し、協会事務局からは以下の回答があった。
「本件について当協会として提供可能な情報は、すでにご提供しております。公式文書がすべてであり、追加のご質問や新たな取材依頼には一切応じられません」
協会が指す「公式文書」とは、ホームページ上に掲載されたプリンスグループの関連会社(日本法人)の退会などに関するリリースとみられる。重ねて『八芳園』のイベントを主催したプリンス・リアル・エステートや、グループ総帥のチェン会長との個別の関係について確認を求めたが、協会側は、
「個別企業名の特定や、追加のご質問への回答を含め、これ以上の取材対応は一切いたしかねます」
として、回答を避けた。政治家や元官僚が名を連ねる公益性の高い団体が、結果として犯罪に関与した疑いの強い組織のイベントに参加していた形となったわけだが、その真相が明かされることはなかった。
『八芳園』で熱弁を振るっていたワンは、台湾検察当局によって、’25年11月、逮捕された。ワンは台湾におけるプリンスグループの拠点『台湾太子(Taiwan Prince)』の総経理(社長)としても活動していたのである。
台湾での逮捕、そして東京・青山の「拠点」
容疑は、犯罪収益の洗浄など。カンボジアで詐取した金を、暗号資産などを経由して台湾に送金し、不動産購入やオンライン博打事業に充てていたとされる。台湾当局は45億台湾ドル(約200億円)相当の不動産や高級車を押収した。
そして、驚くべきは「日本の拠点」の存在だ。
ワンとともに台湾で逮捕された幹部の中には、プリンスグループの日本の関連会社『プリンス・ジャパン』の取締役を務めていた林揚茂という男もいた。
同社は’23年6月から問題が発覚する’25年10月まで『日本カンボジア協会』の会員だった。このことからも、台湾と日本はプリンスグループにとって一体運用の「洗浄ルート」だった可能性が疑われるのである。
さらにグループの総帥である陳志会長自身が、東京・港区に“拠点”を持っていた事実も判明している。
場所は、北青山の一等地にある超高級マンション。登記簿によれば、チェン会長は’24年1月からここに住所を置いていた。
彼らの日本進出の目的は、詐欺で得た汚れた金を、不動産開発という「正業」に投資することで洗浄する、マネーロンダリングだったのか。あるいは他の狙いがあったのだろうか。
以上が、’25年12月17日に公開した記事の内容である。
チェン会長が逮捕されたことで事態は大きく動き出そうとしている。今後、真相が解き明かされることを願う。

’22年12月、『八芳園』で開催されたイベントに登壇した『プリンス・リアル・エステート・グループ』の王昱棠(ワン・ユータン)

『プリンス・ホールディング・グループ』の看板を背負い、熱弁を振るう王昱棠(ワン・ユータン)

日本カンボジア協会常務理事(事務局長)の基調講演も行われた
取材・文:酒井晋介