「終電まで働かなくなった」のに「サービス残業はある」…建設業界の現場社員が語る、働き方改革のリアル

働き方改革が進む建設業界の「新たな課題」とは? Photo:PIXTA

2024年4月に始まった「建設業の2024年問題」から約1年半。長時間労働が常態化してきた建設業界では、罰則付きの時間外労働規制をきっかけに、働き方改革が一気に動き出した。実際、現場の働き方はどこまで変わったのか。OpenWorkに寄せられた現職社員の声とデータを基に、残業時間や有給休暇、職場環境の変化、そして改革の光と影を多角的に検証する。(Diamond WEEKLY事業部 編集チーム)

有給休暇消化率は約1.3倍

進む働き方改革

 社会インフラを支える建設業界では、長年にわたり長時間労働が当たり前となってきた。ところが2024年4月から、建設業界にも労働基準法改正による時間外労働の「罰則付き上限規制」が適用され、各社は働き方の見直しを迫られることになった。

 制度開始から約1年半が経過した今、現場の働き方は実際にどのように変わったのだろうか。

 オープンワークが運営する、社員・元社員によるクチコミサイト「OpenWork」に寄せられた会社評価レポートを分析すると、建設業界(建築・土木・設備工事)では、この5年間で月平均の残業時間が約10時間減少し、有給休暇消化率は約1.3倍に向上していることが分かる。

 全業界平均では、残業時間の減少は約1時間、有給休暇消化率の増加も約1.1倍にとどまっており、建設業界では他業界に比べて、働きやすさを高める取り組みが急速に進んでいると言える(下図参照)。

 しかし一方で、新たな課題も発生しているようだ。それは何か。

出所:オープンワーク

注:「建設業界の月平均残業時間・有給休暇消化率推移」および「建設業界におけるスコア推移」はOpenWorkに2020年1月1日~25年9月30日に投稿された現職社員による投稿をもとに集計。集計対象とした投稿数は、建設業界が7726件、全業界は33万1786件。「全業界と建設業界の平均スコア比較(2025)」は、OpenWorkに25年1月1日~9月30日に投稿された現職社員による投稿をもとに集計。集計対象とした投稿数は、建設業界が1121件、全業界は4万9449件。クチコミは原文ママ

「月15時間はサービス残業」

建設業界で発生する新たな課題

 25年時点の建設業界の平均残業時間は約30時間と、全業界平均(約23時間)より依然として長いものの、その差は着実に縮まりつつある。実際に働く人々の声からも、「現場や部署による差はある」と前置きしながらも、フレックスタイム制度の導入や男性の育児休業取得など働き方が良い方向に変わってきたと実感する、以下のようなクチコミが多く見られる。

「時間外労働規制が2024年から適用され、以前と比べて帰宅時間は早く業務の分散も進んでいると思われる。外勤はなかなかギリギリの状態でやっている現場もあるようだが、振替休日などを適宜取得しているケースが以前と比較して圧倒的に増えたと感じる」(設計、25年1月投稿)

「在宅勤務、フレックス勤務の制度も整備され、長時間労働を強要する雰囲気も改善されてきており終電まで働く、と言う事はほぼ無くなった。ここ数年で働きやすさは相当良くなっていると思う」(設計、25年4月投稿)

「現場によりますが、最近では早番・遅番制や代休取得促進など残業時間を減らす取り組みが行われています。徐々にではありますが、働きやすい環境になってきているのではないかと思います」(施工管理、25年7月投稿)

「部署にもよるが有休なども積極的に取得が推奨されていて、フレックスなどの制度も一般的に活用されている。育休なども取得しやすい」(企画、25年9月投稿)

 一方で、急速な改革の影響として新たな課題も浮かび上がっている。サービス残業の発生や、部署・役職による負担の偏り、企業や個人の意識の差を指摘する声は少なくない。クチコミには、「人手不足の中で残業削減を求められるが、工期は変わらず、結局どこかの現場にしわ寄せがいく」といった切実な意見も寄せられている。

 現在の建設業界は、まさに改革の過渡期にある。個々の企業や現場の努力だけでは限界があり、発注者から協力会社まで、多層的に関わる業界全体での取り組みが欠かせない。適正な工期の設定や技術導入を含め、業界全体で働き方の改善を考え続けることこそが、真の課題解決につながる鍵となりそうだ。

「毎月60時間は残業するが36協定の関係上、月の残業時間は45時間に抑える必要があり、月15時間はサービス残業となる」(施工管理、25年7月投稿)

「残業時間について、主任以下の非管理職は45時間/月の徹底はしっかりとしているが、その反面課長代理以上の管理職は何時間働いても問題ない(働くしかない)という実情があり、100時間を超える残業が何ヶ月続いていても問題視されない」(施工管理、24年12月投稿)

「内勤と外勤だと大きく労働環境が異なる。労働基準法の改正がされたが外勤は相変わらず長時間労働が多い。また休日労働も結構ある。内勤部門は部門にもよるが、そこまで残業は多くない」(技術、24年12月投稿)

「残業時間が多く、職人さんと話すのに疲れてしまった。自社内の働き方を変える意識は大きく変わってきていると思うが、一緒に工事を進めていく職人さんたちの意識はまだまだ昔のままで、私はそこに合わせていくことが難しく感じた」(施工管理、24年12月投稿)

「きつい・汚い・危険」3Kは

「給与・休暇・希望」へ

 最後に、建設業界の職場環境に関する評価から、その強みや特徴を見ていく。下図は、25年時点における全業界平均と建設業界の平均スコアを比較したグラフである。

出所:オープンワーク

 建設業界の平均スコアは、全業界平均と比べて「総合評価」「風通しの良さ」「社員の相互尊重」「法令順守意識」「人事評価の適正感」で低い傾向が見られた。背景には、安全確保を最優先とする現場運営におけるトップダウン型の組織文化や、大規模プロジェクトが多く個人の成果が見えにくいこと、さらに現場経験の長さを重視する年功序列的な評価制度など、建設業界特有の構造が影響していると考えられる。

 一方で、「待遇面の満足度」「社員の士気」「20代の成長環境」「人材の長期育成」については、いずれも全業界平均を上回るスコアを獲得しており、建設業界の強みが表れている。人手不足への対応として、多くの企業が積極的にベースアップを実施していることに加え、自身が関わった仕事が形として残り、社会インフラを支えているという実感を得やすい点が、待遇への満足度や社員の士気を高めていると推察される。

 また、若手のうちから数億円規模の現場に携わり、多様な関係者をまとめる経験を積めることに加え、資格取得支援や研修制度など、人材育成への投資に積極的な企業が多いことも特徴だ。こうした環境が、20代の成長機会や人材の長期育成に対する高い評価につながっていると考えられる。

 特筆すべき点として、全業界平均を下回っている項目を含め、多くの評価項目が23年から25年にかけて上昇傾向にあることが挙げられる。「2024年問題」を契機に各社が進めてきた取り組みは、単なる労働時間の削減にとどまらず、社員の士気向上や長期的なキャリア形成への期待感など、幅広い側面に好影響を及ぼしていると考えられる(下図参照)。

出所:オープンワーク

 建設業界では、24年時点で55歳以上の人材が全体の約37%を占める一方、29歳以下の若手は約12%にとどまっており、深刻な高齢化と人手不足に直面している。現場を長年支えてきた高卒人材を含む若手の採用難や高い離職率、それに伴う倒産件数の増加など、克服すべき課題は依然として多い。

 それでも今回の調査から浮かび上がったのは、「建設業界は今、最もダイナミックに変化している業界の一つである」という前向きな側面である。一つひとつの建物や工事を完成させたときの大きな達成感や、地図に残る仕事として社会インフラを支える高い社会貢献性は、この業界ならではの魅力だ。

 かつて「3K(きつい・汚い・危険)」と呼ばれてきた建設業界のイメージは、技術導入の進展や働き方改革の浸透によって、「新3K(給与・休暇・希望)」へと着実に変わりつつあるのではないだろうか。